メガミ様 第一話 行方不明─9月25日~26日─ side.優太─
「ねえ、優太。女神様って……信じる?」
幼なじみの木戸遥香に突然そんなことを言われたのは3日前のこと。その時、俺は鼻で笑った。
──遥香が、この時、助けを求めていたなんて知らずに。
3日も学校に来ない遥香。あの時、遥香は無理にそうだよね、と笑ったのではないか?そう思ってしまう。
そこで、放課後。生徒会室(俺は一応生徒会の役員だ)に親友を招いて話すことにした。
「んで、その女神様について知りたいのか」
「ああ」
「……女子の間で流行っているとか。俺は信じられないが、そんなのがいるらしい」
親友の隼誠。俺こと土谷優太とは小学校の時から仲良しだ。
そして、彼女がいるため女子のこのについてはそれなりに詳しい。(俺の場合、遥香とは友達だからな……)
「ちょっとお、信じられないってどういうことよ!」
「胡散臭いだろ。中学校の時のキューピット様並みにな」
「ううっ」
いきなり現れたのは誠の彼女、篠原叶。やかましい奴だが、遥香の大親友でもあるいい奴だ。
バシバシとひたすらに、彼氏である誠を叩き続ける篠原に詳しいことを聞くことにした。
「なあ、篠原。女神様って……」
「キューピット様のように嘘じゃない、神聖なお方だから。あ、遥香のことならあんたが詳しいでしょ」
「でもな、女子は女子同士での秘密があるだろ、女子特有の」
「遥香はそんな子じゃない……ハズ。うん、大丈夫」
「そもそも何で女神様に頼るんだ?」
「願掛け、かな。遥香はね、キューピット様が偽物だと知って一番傷ついていたんだから」
「はあ?」
2年を越えて告げられた真実にただただ驚愕するしかなかった。
遥香はクラスの女子がキューピット様、キューピット様、と騒いでいても全く気にしなかった。あんなの面白くない、と。
驚愕する俺の前に紙が置かれた。電話番号が書かれている。顔をあげると、いたのは黒髪を三つ編みにしている清楚な雰囲気の少女。
「あーーっ!!偽キューピット様!」
「その名前はやめてくださるかしら?私は今、天使(アンジュ)なのよ。見事に生まれ変わったのだから」
「あ?でもよお、叶、偽キューピット様はもっとこう……髪色とか雰囲気が……」
「や・め・な・さ・い」
笑顔で怒る彼女は去り際、俺に囁いた。
「あなただけに情報をあげるから、電話をちょうだい」
きょとんとする俺に誠と叶が詰め寄ってくる。
──早く捜したいんだが。
「あんな女のことは無視しなさい」
「そうだぞ、騙されたらどうなることやら」
「大丈夫だ。もうこれ以上情報がないんだろ、お前等」
親友とその彼女は置いてきぼりをくらいたくないため、必死についてくる。鍵を返そうと廊下を歩いていると、ふと屋上に誰かがいるのが見えた。
(遥香っ……!?)
その姿はまさしく、幼なじみの遥香だった。しかし、すぐにいなくなり幻覚だと思うようにした。
夜。あの偽キューピット様に電話をすることに。もう頼れるのはそこしかない。
「もしもし」
『あ、電話してくれたのね』
「……ええ、まあ」
『女神様の元に行く方法なんてないわ』
「……」
『謎を解くためには、キューピット様事件を調べなさい』
そう告げると、一方的に切られた。もう一度かけ直しても、繋がらなかった。
俺は久しぶりに卒業アルバムを引っ張り出し、遥香の写真を探す。──3-2。笑顔の遥香の写真。同じクラスではないため、俺もよくは知らない。
明日と明後日は休みだ。このクラスについて調べよう。
翌朝。早起きをしてみたが、両親はまたいなかった。オムライスがテーブルの上にあったので、食べることにする。
篠原に頼み、旧3-2の一部生徒を集めてもらった。近くのカフェで待ち合わせている。
食べ終わり、俺はカフェへ。女子率の高いカフェだが、篠原のチョイスなので気にしない。
「あ、来た来た」
「篠原、すまないな」
「こんにちは、牧原です」
「俺は斉藤です。こっちは汐留」
「あ、うん。よろしく」
汐留という名前の女の子は車いすに乗っていた。手には紙とペン。筆談しかできないのだろう。
「遥香ちゃんが行方不明だなんて心配です。私達のせいかもしれないと気が気でありません」
「どういうことだ? 」
「汐留早苗。彼女は陸上部だったんですよ。ひどいいじめにあって聴力を失いましたけど」
斉藤くんはずっと、汐留さんに手話で会話を伝えている。
汐留早苗。そういえば、そんな名前のすごい元気な女子がいた。その子なのか?
「3-2はある女子がリーダーでした。彼女は卒業後、どこにいるかは分かりませんけど……遥香ちゃんも傷つけられた一人だと思います」
「……でも、もう2年も昔のことですよね」
「遥香ちゃんは、好きな人のことでからかわれ、キューピット様に相談しようとしました。でも、キューピット様はいなくなっていました」
「……」
もし、女神様について知って相談したとしたら。
脳裏にそれがかすめた。
「3-2はいじめグループ12人、それ以外が16人のクラスでした。転校してしまい、最終的にはいじめグループ10人、それ以外9人となりました」
「……ん? いじめグループの方は、なぜ……」
「通り魔による殺人事件に巻き込まれたみたいなの。……このぐらいでいいかな」
3人は青ざめた顔をして、立ち去った。
「……あんた、どうしてこんなことを調べてるの? 私、あまり乗り気じゃないけど……遥香のことに関係あるわけ? 」
「多分……」
篠原は気味悪い、と言って去った。
俺が能天気にすごしていた2年前。遥香たち3-2には何があったのだろうか。
「図書館に行くか……」
図書館の地下。過去の新聞がある。
とりあえず通り魔殺人事件を調べてみよう。おそらく、ニュースになったとしても、ほんの少しだろう。
──『7月21日に登山に出かけた後、行方不明になっていた女性(24)が遺体となって柏山で発見された。警察は殺人事件として捜査をすすめる方針だ。』
通り魔殺人事件とはほど遠い気もするが、その次の事件はそうだった。
『女子中学生二人(14)、(13)が中央通りの路地裏で遺体となって発見された。警察は柏山女性殺人事件との関連性を調べている。』
……これか。これなのか。
すると、携帯の着信音がなった。大慌てで図書館を出る。
「はいもしもし」
『優太、早く帰ってきなさい。事件があったそうよ』
「……え」
『中央通りで殺人事件ですって。母さんもそれで心配になって……』
「分かった」
中央通りとは、図書館の近くだ。俺の家も、高校も、そこにある。
「うわ、本当だ」
歩いて帰る途中、警察の車にすれちがう。確かに事件は起きたらしい。
「ただいま」
家に帰ると、心配顔の母さんがいた。
「殺人事件とは物騒だよ……母さんも一緒にいたいけど」
「仕事なんだから、行ってきなよ」
「……」