神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

女戦士と猫 第五話「想い」

 昨日、朝早くにアランとルゥが出て行った。徹夜して待ったけれど、戻らなかった。
 ──私は、アランの事が好きなんだと思う。アランが孤児院に私と共に送られた理由を作ったのが例え私でも、その想いは変えれない。変えたくてももう無理なのだ。
 あいつらが私に内緒で秘密のお仕事をしているのはよく分かった。だからこそ、私はついついカッとなってしまうのだ。
 言ってくれないのはなぜだろうか。私が原因だと理解しているのだろうか。嫌われてしまったのだろうか。
 ──ああ、そのどちらとも違って欲しい。
 扉が開く音がして、私は笑顔になった。

「ただいま」
「あ、フィーナ。お帰りなさい。どう? 訓練の方は」
「お父さんみたいに段々上手くなってきたかも。わざわざ訓練につきあってくれてありがとう」
「え? うん」
「アランたち帰ってきてないんでしょ? 心配じゃないかなあって」
「……そうだね」
「私はよく留守番していたから平気だけど、カナは昨日から元気なさそうだし」

 凄い。フィーナにもう見抜かれた。5日目にして私のことを見抜けてしまうなんて。
 素直に驚いていると、扉がまた開いた。──あれは、大臣?

「レーナ姫がいなくなりました。ルゥさんとアランさんが必死に捜索していますが……その」
「……レーナ姫がいなくなったのを私の時と同じように? 」
「え、まあ、はい。迷惑かけるかもしれないがフィーナをよろしく、と」
「──私はダメなの? 」
「またいなくなられたら困ると」
「分かった」

 私は顔なじみのその大臣を見送る。私が幼い頃、行方不明になってしまった時もアランたちに迷惑をかけてしまった。そのあとだった。私とアランが孤児院に送られてしまったのは。
 ──過去を振り返ってくよくよしていられない。今は目の前のことに集中しないと。

「ねえ、フィーナ。これから街をうろうろしてみない? 崩壊しているけど、少しは気分転換しようよ」
「うん」

 このシリウスさんの家は崩壊寸前だったが、男数人がかりで修復したのだ。しかし、周りはほとんど修復されていない。
 家から出ると、この都市を囲む城壁がはっきりと見える。かなり遠い場所にあるのに、見えてしまうのだ。
 フィーナも城壁だけ立派に存在することに疑問を抱いたのか、私に質問してきた。

「城壁だけ、見事だね」
「うん……。シェリア様が、あそこだけは立派にしておかないと意味がない、と仰られて。男性数十人で修復したの。数人が倒れたらシェリア様は見捨てた。その人をお付きの者に捨てさせて……。本当に恐怖の存在だよ、あの人は」
「……私の村は村長が変だった。私の両親が村に現れてから、やたらとお金を両親に回しだしたの。私が幼い頃は村でも一番の豪邸に住んでいて、しかもなぜかお父さんと村長はよく喧嘩していた。私はお父さん譲りの力でみんなの人気者でいじめはなかったけど、村長はひどかった。最期はああなっちゃうし」

 フィーナの両親。私の予想が正しければあの二人だろう。笑ったときの可愛い顔は母親似。顔には合わないぐらいの怪力は父親似。戦闘力は戦士だったという父親似。
 ……もし、フィーナが将来的に両親の事を知ったらどうなるのだろう。両親の立派さを素直に凄いと思うのか、それとも何故異界にいったのかと思うのか。
 ──いけない、いけない。今は散策をしないと。
 私はフィーナの手を掴んで、南へと進む。一番崩壊が凄まじい所で、ノワール孤児院のあった所。ここは孤児院を建てたノワールが救う前は貧乏な人々が暮らしていた貧困地域。国が救われたら、ここをぜひ一番に修復して欲しい。

「ここは? 」
「私やアラン、ルゥの思い出の場所。もう瓦礫もないけれど、ここにはね大きな孤児院があったの。そこでたくさんの貧しい子供達や孤児が住んでいたわけ。私達もそうだから」
「すごい見事に破壊し尽くされているね……」
「うん……。遺体すら見つからなかった。たくさんいた子供達の遺体も、施設長のノワール様の遺体も。──多分亡くなっているけれど、証拠はないの。全て破壊されたから」
「そんな……」
「王宮の周辺にあった訓練所や寮もかなり破壊されてしまっていて……。早く解決しないと大変なんだよね」
「犯人は? 」
「魔王と呼ばれる謎の大男。凄い怪力で、建物を破壊していくわけ。怖かったわ」
「……私の村は一瞬で壊れたから、怖さなんて感じなかった。気づいたら誰もいなかった」

 そりゃそうだろう。フィーナの母親の魔法を侮ってはいけない。何度もその魔法であちこち壊されてしまったのだから。
 私達はお昼になり、酒場に向かった。この辺りで唯一残る娯楽施設。昼間は王宮に仕えていた女達が占拠しており、安全。

「シューおばさん、サンドウィッチちょうだい。二個ね」
「はいはい。おや、その子」
「フィーナです。よろしくお願いします」
「誰かさんにそっくりだねえ。まあ、ゆっくりしていきな」

 この酒場を経営するシューおばさんことシュー=ヴェロニカ。私は料理が出来ないので、このおばさんにお世話になりっぱなしである。(フィーナは料理が出来るらしく、ここ数日は自炊していた)
 亡くなる前料理を担当していたシリウスさんは、食料を提供してもらっていた。このおばさんは貴族の端くれのため、食料を安定して手に入れることができるそう。
 夜は王宮の男どもが一日の疲れを癒しに、平均して5杯ぐらい酒を飲みにくる。そのため、夜は近づいたら危険きわまりない。
 運ばれてきたサンドウィッチにフィーナが早速かぶりつく。

「美味しい! 」
「そうかい、そうかい。飲み物はそこから自由に取っていいからね」
「はい」

 おばさんが私を手招きして呼んでいる。やはり、フィーナのことだろう。
 私はサンドウィッチを置いて店の奥に入った。

「あの子、絶対あの二人の子供だろう!? どこから誰が連れてきたんだい? 」
「おばさん、落ち着いて。ルゥがね、これだと手が足りないから異界にでも行ってスカウトしてこようよ、と提案したの。私やアランはそれならルゥが行ってきたら、ってルゥに任せたわけ。そして連れて帰ってきたのがフィーナなわけ。スカウトしたのは胸がでかいからってルゥは言っていたけれど……」
「へぇ。変態だけれども、ルゥは賢くて真面目だからねえ……わざとだよ、きっと。フィーナには希望を抱いたんだろうさ。あの二人によく似たフィーナならばこの国を救ってくれるってね」
「そうかもしれない……」

 私は笑顔でサンドウィッチを頬張るフィーナをガラス越しに見る。周りの人達もヒソヒソと話している。
 ここには王宮に仕えていて、あの日生き残った女性達がいる。男性よりかは二人を直接見る機会など少なかっただろう。でも、二人は戦地に行かないときは王宮の中を闊歩していたはず。それに、お世話を担当していたメイドがいてもおかしくはない。
 つまり、フィーナ自身に両親の秘密が暴かれるのも時間の問題というわけだ。

「フィーナ自身は両親の事、どう聞いて育ったんだろうねえ」
「お父さんは昔戦士だったと聞いたことがある、と本人は言っていたけど……。お母さんの話はあまりしてないよ」
「さっきもそうだね。サンドウィッチの感想が美味しい、の一言。お母さんのサンドウィッチと比較した言葉がなかった。フィーナのお母さんは魔法使いでありながら、料理が凄い上手だったから皆によく振る舞っていた。私も彼女に教えてもらったさ。──とびっきり美味しいサンドウィッチの、作り方を」
「……それじゃあ」
「ああ。具材も彼女のレシピどおりさ。なのに、フィーナは分からなかった。確かに、戦地と違って平和な村では簡単に作れる料理よりも凝った料理が作りたいのは分かるよ。でも、平和な村で、家族と一緒にピクニックというシュチュエーションに憧れていたんだよ? サンドウィッチは必ず作るだろう」

 私はフィーナから聞いた断片的な情報をおばさんに言おうか悩んでいた。ほぼ年中戦っていた魔法使いの彼女が夢見た平和な村で家族と暮らすこと。そして、ピクニックをすること。
 でも、そんなのとはかけ離れた生活。フィーナがしゃべっていたことをまとめるならば、彼女は豪邸を手に入れ家族で裕福な生活をしていた。彼女の夫は村長といつも喧嘩ばかり。憧れていたピクニックをする余裕なんてない。疲れ果てた彼女が、いつもの魔法で──。
 私が物思いにふけっていると、おばさんがとあることを聞いてきた。

「フィーナや両親にとってその村での生活は幸せだったのかしらね? 」   

女戦士と猫 第四話「レーナ姫」

 翌朝。カナお手製の朝食を食べる。シリウスさんには劣るが、やはり最高だ。

「あれ? フィーナは? 」
「あんた達と違って本当に真面目よ。戦士用の剣を持って特訓しているのよ。なんでもお父さんが戦士だったらしくて」
「胸がでかいだけのがさつ女か……」
「こっちを見るな! 」

 ぽかりと殴られた。
 朝食を食べ終え、アランと共にあの廃墟──訓練所に向かう。多くの仲間が命を落とした廃墟に。

「ここって、片づけないのか? 」
「まさか。魔王を倒したら片づけるよ。それまでに、シリウスさんの遺品とか仲間の遺品を見つけないとね」
「……だな」

 あの日、命からがら逃げ出した。訓練中の地下から這って出た。途中で何人もはぐれた。──シリウスさんのお家にたどり着いた時には、8人になっていた。
 その後、シリウスさんが殺されると次々と仲間はいなくなった。恐らく怖がったのだろう。余生は田舎で過ごそうと思ったのか、4人はいなくなった。
 結局、3人になってしまったのだ。
 ここは実に久し振りだが、遺品はいくつか残っていてもおかしくはない。

「おい、これ」
「──日記だ」

 シリウスさんの日記。何冊もある。主にカナについて書かれており、やはりそこはお姉さんなんだなあと思う。
 他にも、ここで命を落とした仲間の骨があった。いくつか絵もあった。──絵が大好きな魔法使い、ヴィクソンの物だろう。

「おい、ヴィクソンの日記もあるぞ」
「は? 」

 ヴィクソンと言えば、無口で無表情。シリウスさんも扱いに困るほどだったが、ここの施設では一番早く魔法使いになった。あの日は魔法使いとして魔法使い候補生に色々と教えていた。
『今日はレーナの誕生日だ。数ヶ月前から描いていた絵をプレゼントしよう。きっと喜ぶだろう。』
『レーナの反応はとても良いものだった。帰り際には、お兄様、また帰ってきてとせがまれてしまった。いやはや、本当に可愛い妹だ。』
『久し振りに父上と会い、相談をした。このままここで魔法使いの先生をするのか、実家に戻って補佐をするのか。絵を描くためならば後者の方が良いかもしれないが、やはり魔法使いとして大成したいものだ。父上とレーナには謝った。心の底から謝った。』
 日記はここで終わっていた。レーナ……。ヴィクソンは、あのレーナ姫の兄なのか!?

「なあ、ヴィクソンの身分は知っているか」
「さあ? 食事はやたら丁寧に食べていたから貴族だろうな」
「──ヴィクソン=ウオルタード」
「……」

 アランが黙り込む。いくらバカなアランでも、ウオルタード家については詳しい。
 常にスキャンダラスな話題が尽きないウオルタード家当主の姉・シェリア。彼女のせいでかなり存在感が薄いが、当主は一応この国を治めている。
 特に当主の娘、通称レーナ姫は10歳ながら、その美貌で既にたくさんの男性から言い寄られているという。そのため、当主は心配してレーナ姫の肖像画を公にはしていない。

「ほほう。ヴィクソンの日記か……」
「あ、ディオンテさん」
「レーナ姫はずっと泣いてばかりだ。やはり、兄が帰ってこないのがショックなんだろうな。私が毎日大臣に言われて見に行くのだが、お兄様以外とは会いたくない、と冷たく言われる日々だ」
「……これを、渡せばどうにかなりますよね」
「いや。幼いレーナ姫にはキツいだろう。レーナ姫は兄が生きているものだと信じている。あの日、地下から這い出ることも出来ず、無惨にも殺された兄のことを、な……」
「地下ならば安全だと言っていたのは施設長です。あなたの部下ですよ」
「──私も共犯者ということか」
「いえ、あなたは悪くありません。魔王が強すぎただけなのです」
「……そうだな」

 隊長、アランと共に向かったのはレーナ姫もいるお屋敷。アランはげっ、という顔をした。その豪勢さ──ではなく、あまりのボロさに驚いたのだ。
 避難の為とは言え、まだマシなところを探すべきだろう。貴族──ましてや、この国を治める者なのだから。

「シェリアがワガママだからな。仕方なく、我々がこちらに住んでいるわけだ」
「シェリアの息子であるあの王子は? 」
「当然ここに住んでいる。シェリアと一緒にいたくないらしい」

 酒場に王宮の人間が集まっていた理由がよく分かった。シェリアのワガママで、王様らが追いやられたのだ。当然、王様を慕う彼らはシェリアの元から離れて王様のお屋敷に住まうだろう。彼らは魔王を倒すまでの仮の王宮を望んでいた。──しかし、そんな風に呼べるお屋敷ではなかった。シェリアに負けた王には用がないのだろう、きっと。
 応接間では大臣、王子に加えて当主である王様もいた。その顔は、青白い。

「おや、君らが……」
「はい。僕らは魔王からこの国を救おうと考えています」
「そうか。……そんなことで、5万もの犠牲者への償いをする気なのか」
「……そんなのではありません。自分だって犠牲者です。未来を奪われたのですから。──それで、未来を奪った、魔王に報復をしたいのです」

 アランが口を開ける前に話す。アランが怒りでふるえているのはすごく分かっていた。
 その5万の犠牲者の中には、アランを見捨てた家族がいた。アランは最初彼らが死んだのを喜んでいた。しかし、彼らがアランにたくさん遺産を残していたことを知るとアランは泣いた。アランを孤児として施設に預けたわけがアラン自身には理解できたらしい。
 ──そんな家族が蔑ろにされているとアランは思っているのか、もう少しで爆発しそうだ。話題を変えねばまずい。

「大臣、本日はなぜお昼に? 」
「レーナ姫のことだ。魔王は彼女を差し出せと何度も叫んでいるようだ。もちろん、我々は大反対だ。シェリアに聞いたら適当に返事された。だから、君らに頼るしかない」
「セレウディナが王宮の生き残りに声をかけたが、無駄なんだよ。私の大事な家族だから差し出したくはない。しかし、彼らはシェリアに負けた王であるこの私を笑うばかりだ。──王子、落ち着いて」
「私は母上が嫌いだ。王の名を傷つけたばかりかこの国を乗っ取る気なのだ。あの魔王と結託して、王を倒そうとしている」

 余程憎たらしいのか、王の制止も聞かずに立ち上がり、大声で話す。──すると、後ろの扉から小さな女の子が現れた。

「おお、レーナ」
「姫……」
「わたくしの兄はただ一人です。あなたみたいな意気地なしには守ってもらわなくてけっこうですわ」
「……」

 よく見ると、美しい顔立ちのレーナ姫は目を真っ赤にしていた。兄がいなくなって、彼女は王子のことを兄として見たくなかったのだろうか。余程兄の事が大好きなのか。
 正直、あんな無口な根暗のどこがかっこいいのやら……。まあ、家族にしか分からないこともあるのだろう、多分。

「レーナ、お前の兄は──」
「そんな、たわごと……! 」

 レーナ姫は静かに怒る。この状況がずっと続いていたのだろうか。王も大臣もやれやれ、と言った顔だった。
 この状況を改善するというのは簡単なことだ。レーナ姫の亡くなった兄の代わりを名乗っているこの王子を引き離してしまえばいいのだから。

「王子、レーナ姫の年齢を考えて下さい。目をこんなに真っ赤にして……。そこに残酷な言葉を向けるのですか? 」
「でも……それだと、いつまでも」
「王子、あなたはあなたで立場を弁えるべきです」
「そうだ! 俺なんて、お前みたいに裕福な家に生まれてながらとある理由で孤児院にやられたんだぞ! ──それに」
「アラン、抑えろ」

 ここでアランの家柄がバレてしまうのは非常にマズい。この場にいるほとんど全員が激昂することに違いない。
 しかし、誰も気づかずにおとなしくなった。
 ──レーナ姫が、いつの間にか、いなくなったのだ。

女戦士と猫 第三話「男達の事情」

 カナの目の前ではふざけているし、お酒をがぶ飲みするけれども、酒場にはきちんとした用がある。ここは、何とか生き延びた王宮関係者が仮の住まいとして利用している。その人達から訓練生でありながらも生き延びた自分たちが情報を受け取っているのだ。──殺害されたり、自殺したりした立派な戦士や魔法使い、剣士の代わりになればとの思いで二人で協力して情報をかき集めている。
 大臣・セレウディナ、王宮正規軍隊長・ディオンテ、そして、ルメデア王子。この3人と毎日会話している。

「アラン。カナの様子はどうだ? シリウスの意志をきちんと受け継いでいるかね? 」
「特訓はまめにやっていますが、シリウスさんの剣を使う気はないようです」
「そこで、僕はスカウトしてきました。──フィーナ=レオギルを」
「なっ……! あの、レオギル戦士の娘か!? 」
「セレウディナ、私にも分かるように説明しろ」
「はい。レオギル戦士とは、かつてこの国に仕えていたとても素晴らしい戦士です。獅子の様に駆け抜けるさまは見ていてとても胸が熱くなり、心が躍りました。しかし、40を目前に突然姿を消し、この国の繁栄も今まで通りとは行かなくなりました」
「そいつのせいか!? よし、レオギル戦士をとっちめてやる! 」
「王子! ──彼は、別の世界でとても美しい女性と結婚し、子供を授かったとのことです。そのフィーナという少女が彼の子供なのでしょう。しかし、彼自身は亡くなっています」
「……チッ」

 気性の荒い王子をなだめるべく、この場に大臣がいる。ちなみに隊長はけがをしているものの戦いの方針を指示してくれる。そして今回、レオギル戦士を雇えばよいのではと言ったのは大臣である。
 興奮が冷めない隊長は僕に質問をしてきた。

「戦友の妻はどうしていたか? 元気だったか? 」
「──それが、あちらもここと同じ事になっていました。原因は、その人にあるみたいでしたが」
「……やはり、そうだよな」

 かつて一緒に戦った隊長。レオギル戦士が獅子の戦士と呼ばれるのならば、彼は鷹の戦士である。鋭い目はとてもよく、敵の様子を遠くからでも探れたという。
 そんな二人を始め王宮正規軍を支えていた美しい魔法使いはレオギル戦士が行方不明になると、後を追っていなくなった。優秀であったが、その美貌で何度も男達が喧嘩をし、耐えきれなくなったのではと言われた。
 しかし、大臣独自の調査で二人が幸せそうに暮らしていることが判明した。──でも、更に調査を重ねなかったのがいけなかった。
 あちらでもその美貌はかなり話題となり、住処とした寂れた村を活性化させてしまった。それは村長に褒められたのだが、村長はあろうことか既婚で子供もいる彼女と結婚しようとしたのだ。獅子の戦士は当然のごとく怒り狂ったが、村長の意見が正しいと言う者もいた。村長と獅子の戦士は長いこと戦った。──最後は、耐えきれなくなった彼女が全てを破壊した。
 ──これらのことをかいつまんで説明すると、大臣と隊長は顔を暗くした。

「昔からそれは変わらないのですね……。解決しなければ、破壊してしまおうという思考」
「今回は愛していた夫も巻き込んで……何がしたかったのだろうなあ……」

 全く分からない王子はアランが誰にでも分かるようにまとめた紙を読んでいる。獅子の戦士、麗しの魔法使い、鷹の戦士。この3人が再び会うことはもうないのだろう。一度でもいいから見たかった。

「そろそろ戻らねばマズいですね」
「ええ。では、明日はお昼に会いましょう」

 帰り道。歴史が苦手なアランは必死に先ほどの話を反芻していた。ぶつぶつと、呟いていた。
 スカウトをするのが僕になったのも、アランが理由だ。アランはがさつで物事は中々覚えない。だから仕方なく、である。

「ただいま」
「今日はお酒あまり呑んでいないの? 珍しいものね」

 カナは眠そうな顔をこちらに向けた。普段は彼女をからかってばかりだが、やはり可愛いと思う。
 カナはもう寝る、と言ってまた奥に行った。
 アランと僕もそろそろ寝よう。

女戦士と猫 第二話「過去」

 早速特訓が始まった。変態たちは作戦会議と称して酒場に行ったため、カナが指導してくれることに。本当に役立たずだな、あの変態達。

シリウスは戦士たちが扱う剣の中で一番身軽でさ、危ないんだよね。まあでも特訓すればきっと大丈夫」
「きっとって……」

 特訓すればするほど、腕があがるものの、変態たちは帰ってこない。──帰ってきたら殴ろう。

シリウス、残していて良かった」
「え?」
シリウスっていう女性がいたわけ。彼女、あの魔王みたいなのにやられて灰になったけれど、この剣は残った」
「きっとかっこよかったんだろうな」
「うん、すごくかっこよかった」

 休憩ということで街をうろついてみた。やってきてから街を初めてじっくり見ることとなる。

─どうしてなの

 また、頭が痛む。何だろう、この声。

「あれ、日記?」

 声がした廃墟に落ちていたのは日記。開いてみた。

『今日はカナの誕生日。剣士になってろくに祝ってないでしょうから、盛大に祝わなくちゃ』
『カナ、喜んでくれたわ。もう悔いはない。例え気づいてなくてもね』

 日記の表紙にはシリウスと書かれていた。
 私が顔をあげると、女性がいた。──また、見えたのね、幽霊。

「あなたは誰?」
シリウス。カナの生き別れの双子の姉》
「あなたが、シリウス
《その剣、使ってくれてありがとう。亡くなった父の手作りだからカナが使うべきなんだけどね。カナは、何も知らないから》
「──そうなんですね」

 私には幽霊が見える。時々会話までしてしまう。

「そろそろ戻ろうかな」

 シリウスさんが笑顔で消える。日記のことは黙っておこうかな。
 戻ると、カナさんが紅茶をいれて待っていた。

「ねえ、フィーナ」
「何?」
「どういうところに住んでいたの?」
「自然豊かで、皆が仲良しな村」
「いいなあ。私なんて小さい頃からこんなんだもん」
「確か、同じ孤児院出身なんだよね? 」
「うん。シリウスさんはそんな私達を引き取ってくれたの。国に尽くす剣士とか魔法使いの訓練所の宿舎の管理人で、私達3人以外にもたくさん。──でも、ほとんど死んだの。生き延びたとしても戦う気力なんて、皆にはもうない。ルゥ達もそう。私だけ真面目に毎日訓練していて、ほとんどずっと喧嘩ばかり」
「それで、ルゥさんはスカウトを……」
「ええ。あなたならば、きっと大丈夫よ」

 結局、ルゥさん達は夜遅くなっても帰ってこなかった。カナさん曰く、これは毎日のことだから気にしないで、と。
 ──このままで、国を救えるの?

女戦士と猫 第一話「きっと頼れる仲間たちとの出会い」

 私は、両親を失った。大災害が村を襲ったのだ。私だけ、生き残った。それは、とても虚しくて、悲しいことだった。

「なあ、君」
「……なあに? 」

 振り向くと猫がいるだけ。なんだ、幻聴か。
 しかし、その幻聴はさらに続いた。

「レコンワールドを救ってほしい」
「……」
「僕の名前は、ルゥ。この世界じゃ猫だけど、実は戦士なんだ」
「うるさい」

 猫に石を投げつける。猫は前足で石をはらう。
 今はほうっておいて欲しい……。

「だから僕は猫じゃないって戦士なんだ」
「騙さないで。私の村はもうないの。私は死ぬべきなの」
「ふうん。レコンワールドになら君の村を滅ぼした奴ぐらいいると思うんだけど」

 私はなるほど、と思った。私の復讐も成立するのか。それならば、信じられる。

「いいわね。そういえばなんで声をかけてきたの? 」
「なんでって、君の胸が」

 一瞬信じたのがバカだった。
 もう一度石を投げたが、また避けられた。猫は少し落ち込んでいる。

「行けばいいんでしょ? あ、私はフィーナ」
「よろしく」

 どうやってその異世界に行くのかと見ていたら、川に飛び込んだ。
 猫なのに、川に飛び込むとは凄い勇気がある。

「べばぶら」
「溺れてるし」

 仕方ない、と思い私も飛び込んだ。

 目を開けると、眩い世界に来ていた。しかし、活力がない。
 まるで私の滅びた村のように、活力がない。

「闇を支配する者が滅茶苦茶にしてね。それで戦士を急募してるんだ。胸のでかい」

 猫から人になったルゥを殴る。軽くしたつもりだが、手加減し忘れた。

「やめて! 痛い! 」
「あのね、変態発言慎んでくれないかな? 」
「え~……あ、はい、スミマセン」

 ルゥと改めて握手する。──それは、とても暖かな大きい手だった。

 街の案内もせず、この変態戦士は私を小屋に連れていった。
 そこにはエメラルド色の髪の女性と、にやけている茶髪の男性がいた。

「おっ、合格」
「アラン、死にたい? 」
「やめて! 」

 どうやら変態さんはまだいるらしい。
 女性は私に向き直り挨拶を続けた。

「ごめんなさい、びっくりしたでしょう? 私はカナ。こっちはアラン。私たちとそこの元祖変態ルゥは同じ孤児院出身よ」
「変態をなめないで──ごふっ」
「胸の大きさで決めるバカだけど、戦いは一流だから。ほら、あなたも戦士として剣を持ってみて」
「あ、はい」

 近くにあった軽そうな剣を持つ。村では木の剣だったから、少し慣れない。

「それはシリウスね。女性用よ」
「ちなみに女性じゃないカ──ごふっ」
「全く、そんなに死にたいのね」
「……スミマセン」

 カナさんが変態コンビを殴る。それに、クスッとつい笑った。
 変態コンビが顔を輝かせる。

「あ、やっと顔が可愛くなった!カナよりも──ごふっ」

 さっきから何度も殴られる2人。わざとかな。

「あ、それじゃ詳しいお話をするわね。ほんのすこし前のこと。闇を支配する者とかいう、まあいわゆる魔王みたいなのがやってきて街を滅茶苦茶にしたの。住人の多くは奴隷になったけれど、地下にいた私たちとかは無事なの」

 カナさんはただ、と俯き、続ける。

「多くは一般の民で戦士なんてルゥ以外はいなかった。剣士は私の他にもいるし、そこのアランのような魔法使いはいっぱいいたわ」
「つまり」
「そう、対等に戦えない。だからスカウトしてたの」

 回復した変態たちが私の近くで屈んで何かしている。何だろう。

「パンツはピンク、サイズは上から9─ごふうっ! 」

 私はシリウスの柄で殴る。人の体観察するな!
 カナさんもすかさず変態コンビを殴る。

「リーダーが普通説明するところよ! 」
「ごめんなさい」
「あの、このへじゃなくてルゥさんがリーダーなんですか? 」
「あ、まあね」

 この変態がリーダー……。本当に大丈夫なのか、不安でたまらない。

今年のブログ

ベリー☆ハート
女戦士と猫
ヴェル伯爵夫人の罪深き一生
この3つを完結させたいと思います。
ベリー☆ハート以外は小説家になろうからの移動です。がんばりたいと思います。

ベリー☆ハート 第一話「新しいお友達」

「千穂、いつまで見てるの? 」
「あっ、ごめん」

 私こと、名取千穂は夢見る乙女。親友の種草灯に毎度怒られながらも、大好きなサッカー部の川島くんを教室からこっそり見つめている。

「本当に好きだよねえ。もう何年だっけ? 」
「やめてよ、もう」

 私たちが中学2年生の頃、転校してきた川島くんに私は一目惚れした。灯はサバサバした性格で既に彼氏がいた。そこで惚れちゃった、と言ったら軽くあしらわれた思い出がある。
 ──軽く4年である。もう高校2年生。ずっと見つめることしかできなかった。

「でも今年はチャンスでしょ! 同じクラスなんだからさ! 」
「うん、でもね……」
「早く告白しちゃいなよ。私みたいに彼氏早くつくんないとおもしろくないよ~」
「うう」

 高校近くの駅で灯と別れ、私は駅に入る。私は電車通学、灯はバス通学なのだ。(同じにしたかったが、私の家はバス停からかなりの距離がある。)駅も離れているが、ここは駅ビルがあるから暇つぶしに最高だ。

「あら、名取さんじゃない」
「あっ、えと、金澤さん」
「ふふ。緊張しなくてもよいのよ? よければお茶でもどうかしら」
「あ、ありがとうございます」

 病気で1年留年したという金澤萌華さん。その何だかやけに可愛らしい名前とは裏腹に、とてつもなく美人。年上ということもあり、私はどうしても緊張してしまう。
 駅ビルの中のお洒落なカフェに入る。私と灯ならすぐにファストフードのお店に入る。やはり、年上のお姉さまは違う。

「そういえば金澤さん、大分顔色戻りましたね」
「ええ。父も大喜びしてくれたわ。明日、父と二人でお寿司を食べにいくのよ。それも、回らないお寿司」
「わあ、すごいです」
「母も忙しい時間の隙間を見つけて戻ってくるそうだから、とても楽しみなの」
「それは楽しみですね」
「さあ、何か頼みましょう」

 今の金澤さんはとても幸せそう。昨年、ちらりと見かけた時はお薬のせいか少しやせていた。せめて1年だけは、と懇願して通っていたらしい。(灯から聞いた話だけど)
 しばらくして、レモンティーとミルクティーが運ばれてきた。もちろん、ミルクティーが私の。
 少し飲んでみると、ほどよい甘さが美味しい。そうとう高いんだろうなあ。

「私にも色々あったけど、やっと治ったからすごくうれしいの。お友達も新しく作りたいなあって」
「そういえば昨年のお友達とか……」
「会っても妬まれるだけよ。受験生だから余計ピリピリしているでしょうし。会うのは合格してからで構わないわ」
「大人ですね……」
「ふふ。私、あなたとお友達になりたいの」
「えっ」
「他の子も見てみたけど、私にはあわないのよ。それに比べて、あなたと灯さんは話しやすそうだから」
「私でよければ……」
「うれしいわ! 」

 金澤さんのはしゃぎようはすごかった。そういえば回らないお寿司にも行こうと思えばいけるぐらいお金持ちだった。やはり、お友達とは貴重なものなんだろう。

「明後日、日曜日よね。どこかで遊びましょう」
「灯にも言っておきます」
「楽しみだわ。私、セイシュンしてみたかったの」
「おお……」
「紅茶、飲み終わったみたいね。そろそろ出ましょう」
「はい」

 金澤さんは迎えを待つとのことで、私は一人電車に乗った。
 途中、灯にメッセージを送る。

『日曜日に出かけない? 』
『いいよ。どしたの? 』
『金澤さんと友達になったの』
『(・・)(。。)……ってすご! 』
『(・∀・)えへへ』
『だから3人で、金澤さんが行ったことのないとこに行こうかなって』
『あー、それなら金澤不動産の絡まない場所……桜通りなんかどうかな』
『いいね! じゃあ、そうしよう! 』
『日曜日にね』

 日曜日が楽しみだ!