神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

ワガママ・プリンセス 第一話「ドS執事とお買い物」

 私は朝起きると、枕元のベルでヒメアを呼び出した。──私の名前はリトア。ルナティ王国の可憐で可愛らしい王女様。今日も優雅な朝を……。

「王女様、目覚めの紅茶を持って参りました」
「……な、ガートリ」
「どうされましたか? もっと熱めの紅茶がお好みですか? 」
「私はヒメアを呼んだの! あんたなんかお呼びでないわ」
「あ、手が」

 私の麗しく、端正な顔に紅茶がスプラッシュ。執事のガートリはこんなことを平然とやる正真正銘のドS。タオルで拭こうともしない。

「ガートリ! またあなたですか」
「ヒメア……」

 やっと現れたヒメアはメイド長であり、ガートリの行為を隠蔽する係。ガートリをさっさとクビにすればいいのにクビにしないのはなぜかと聞くと、彼に社会性を身につけてもらうためとヒメアは頭を抱えながら言っていた。
 ヒメアの養子なのになぜこうなった!

「ほら、さっさと拭きなさいガートリ」
「……分かりました」

 逆らえば自分のクビが確定しかねないからと彼は渋々と拭きだした。少々荒いのはまあ許してあげよう。

「もう大分乾いたわ。後は自分で顔を洗うからガートリは下がってちょうだい、今すぐ」
「かしこまりました」

 ガートリがいなくなり、ヒメアは私を立ち上がらせる。あ、用件話さないと。

「……それで私に用とは」
「ねえ、執事を増やしてくれないかしら? ガートリとはあまり会いたくないの」
「まあ、私の経営する孤児院には人材が豊富ですが」
「今度こそ私の美しさを際だたせる立派なのを連れてきて。まあ、立派じゃなかったらお父様たちに譲ればいい話だけれども」
「……かしこまりました」

 ヒメアは年老いており、いつでも引退できるようにと孤児院を運営している。そこでは、身よりがなければいつまでもいて良いことになっているが、条件がある。それは、17を過ぎて引き取り手がなければ王宮でヒメアの養子として働くこと。ガートリもその一人。
 私は顔を洗い終えると、さっさと朝食の場へと向かった。そこにはヒメアと若いメイド数人がいた。また新しいメイドかしら。

「王女様、こちらの5人は本日18歳になる孤児院の──いえ、私の養子です。本日から王女様のお世話を担当してくれます」
「まあ、そうなの。よろしくね」
「はい、働かせてもらえて光栄です」

 私のお世話担当でそれなりメイドと執事がいる。まあ執事はあのガートリ以外は今のところいないが。

「本日のご予定は特にございませんが、どうなさいますか? 」
「そうね……たまには街でお買い物がしたいわ。そろそろ新しいドレスを作りたいし」
「それではガートリに付き添ってもらいましょう」
「え、何で? メイドたちがいいわ」
「女王様と王様のお世話もあります。たまにはガートリと二人きりはいかがでしょうか」
「……仕方ないわ。お父様たちとの約束があるのならガートリと行ってあげる」

 朝食を食べ終えると、ガートリがコートを持って待っていた。さすが執事。ここまでは完璧。

「王女様、どうぞ」
「ちょ、着せなさいよ」
「……」
「不満そうな顔しないでちょうだい」

 仕方なく着せてくれた。本当に仕方なく。困ったわね。
 街はいつもどおり活気に溢れかえっている。これもヒメアの努力によるものなのだとお父様は胸をはって言っていた。一流の剣士だったのだからきっと色んなことをしたのだろう。
 馴染みの宝石店に入る。宝石商は笑顔で出迎え、近づいてくれた。

「まずは宝石が欲しいわ。とびっきりの物を」
「はい、かしこまりました」

 宝石商が取りに行くと、ガートリが笑い出した。何よ、突然。

「宝石ならばたくさん持っておられるのに、さらにご自身の顔を目立たせる気ですか」
「……良い意味で受け取るわ」
「それはご自由にどうぞ」

 人目もあるので、こんなところでいつもみたいにドストレートで言えば問答無用、民衆に殺されかねない。だからこその遠回しな言い方。ある意味かしこい。
 宝石商はいくつか持って現れた。どれも素敵な物だ。

「この赤い宝石、いいわね」
「はい。一点物の一級品でございます」

 ネックレスを首にかけてもらう。ウフフ、すっごくすてきだわ。
 宝石を買い、私は次にドレスを仕立ててもらうことに。宝石にあう、特注品。

「そんなお金の使い方はよろしいのでしょうか」
「……」

 私は最後に町の端の壁に行く。町は徐々に、範囲を広げて発展しているのだ。王女様が生きている間に平和になれば、とヒメアは言っていた。
 壁の一部に建設された塔に私は上る。

「この塔からの外の景色は最高よ」
「すぐ崩してしまうというのに、なぜ……」
「ヒメアが言っていたわ。この町の子ども達に広い世界を見て欲しいって」
「つまり、王女様も子供だと」
「こ、この、バカ執事! 」

 まわりの人達がきょとんとした顔でこちらを見る。

「帰るわよ、ガートリ」
「はい、王女様」

 ガートリは笑いをこらえていた。帰ったらとっちめてやるわ!