神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCALOID学園 第18話「U」

「テレビに出れるよ~」
 マネージャーの琴葉葵さんがそう告げ、入ってきたのは2枚目をどうするかと話し合っている最中だった。
 5月。少し鬱(いわゆる五月病?)なテトさん以外目を輝かせた。
「おおっ!」
「デビュー曲がかなり売れたから今度出してもらえることになったの。もちろん、トークから歌まであるから自己紹介きちんとしてね」
「じゃあ、練習しましょう!テトさん」
「分かったお」
 やはりダルそうだけども、まあ大丈夫でしょう。
「それじゃリーダーから」
 目をしゃきんっと開け、背筋を伸ばす。おおっ!
「リーダーの重音テト、永遠の10代ですっ☆担当はベース!」
「男にもなれる、女にもなれる万能メンバー、ドラム担当の欲音ルコです!」
「バンドメンバーの癒しキャラ、作詞・メインボーカル担当の健音テイです!」
「赤き天使☆キーボード担当、CULです!」
「ギター担当、巡音ルカです!」
 するとなぜか葵さんのお姉さん、茜さんが乱入してきた。
「あかんあかん。もう少しちゃんとしたキャッチフレーズで心をつかまなあかんよ」
「お姉ちゃん、口出ししないで」
「あんなあ、葵。このままやったら「U」は落ちぶれるで?いいか、ちゃあんと言うんや」
 とりあえずやり直し。
「永遠の10代☆リーダー、ベース担当の重音テトですっ」
「男の心も女の心も持つ☆ドラム担当、欲音ルコですっ」
「癒しキャラクター☆作詞、メインボーカル担当の健音テイですっ」
「赤き天使☆キーボード担当、CULですっ」
 私の番。だが、キャッチフレーズが浮かばない。
「キャッチフレーズが浮かばんのか?」
「ええ、そうです。こんなこと卒業するまでやったことがなくて・・・」
「そういえば親が厳しいんだっけ?」
「知らなかったお」
「生徒会長さんでしたからねえ」
「うーん、せやなあ」
 しばらく悩んだのち、こう言い出した。
「優等生からバンドメンバーへ華麗に転換☆とかどや?」
「優等生からバンドメンバーへ華麗に転換☆ギター担当、巡音ルカですっ」
「うん、いいよ」
「あと、うちからもう一つ提案があるんやけどいいかな?」
「え?」
「テト、ルコ、テイ。あんたたちを知る人がマスコミに万が一情報をもらし、週刊誌を騒がせればもう終わり。だから、本名はCULみたいに伏せるべきやねん」
「CUL、どういう風に名前つけたんだお?」
「私の名字がかから始まり、名前の最初がるで始まるから・・・」
「じゃあ私はMERとかどう?」
「いいね、ルカさん」
「ん、じゃあテイはSUI(スィ)とかどう?」
「テトはどうなるんだお?」
「・・・そこが問題なんだよね」
 葵さんが笑顔になった。
「じゃあ、KAT(カトゥ)、LI(リイ)!」
「ええと、KAT、LI、MER、CUL、SUI。うん、これで分からない」
「テトはこの髪型を少し緩めるおー!あとめーちゃんとバカイトに皆の口封じを頼むお」
「じゃあ俺も昔の仲間に口封じを頼んでくる」
「え、ちょっとルコさん!?」
 ルコさんは飛び出していった。
「あいつ何者なんや」
「出身地不明、年齢不明。昔だなんて聞いたことないわねえ、CUL」
「そうだね」
「ただ教養はかなり低いおーこのテイに負けるバカだお」
「はあ!?わ、私がバカですって!?」
「そうだおー」
 騒がしいなあ、と思いつつ私は少し外に出た。
「・・・俺のことを知れば皆、俺を嫌いになる。確実に、だ」
「?」
 どうやら携帯で電話をしているらしい。うーん、聞こえにくい。
「ミス・レアロ。分かってる。あなた様もお嬢様は裏切らないと。だが、万が一のことがある」
 レアロ?誰?お嬢様?
「ただ、マユがリリィと共に俺のことを-ない?ああ、よかった。それじゃくれぐれもよろしく」
 マユ!?リリィ!?二人とどういう関係が・・・?
「さあて、少しブラブラしようかなあ、ルカ」
「ば、ばれてた?」
「当たり前だよ」
「さっきのは何?」
「・・・レアロは、孤児だった俺を育てあげた人だ。なのに、14になった俺は家を出て犯罪をおかした。今は何歳かというのも忘れるくらいに、ね」
「・・・」
「気にしなくていい。俺の記憶はいつも曖昧だから」
 さあ戻るぞ、と言いルコさんは入っていった。
 相変わらず変な人だなあ。

「テレビ!?ええええ!?嘘、何に!?」
「めーちゃん、落ち着くんだお」
 帰ってくるなり、テトはあり得ないことを報告してきた。
 「U」はデビューしてからまだ1月程。恒例の体育祭について会議がこの間行われたばかりなのに。早い。
「んー6チャンネルのMスタだお」
「はあ!?い、いきなりあんな高視聴率を稼いでる番組に・・・」
 Mスタとは、春歌ナナという人気歌手が司会をつとめ、毎回視聴率20%超えは当たり前という音楽番組のこと。その春歌ナナでさえ、今は放送していない小さな音楽番組でデビューを果たしたというのに。すごすぎる。
「それと、私の過去はバラさないよう言ってほしいお」
「あ、うん。当たり前よ」
「カトゥという名前もらったお」
「本名が推測できなくていいじゃないの」
 するとバカイトからメールがきた。
『同居の件、どうなってる?』
「そうだ、テト。一つ思いついたんだけど」
「ん?」
「ルコ、テイ、ルカ、CULと一緒に住んだら?私ね」
「ああ、バカイトとやっと同居?」
「うっ、分かってたのね」
「ルコが一人暮らしだから、その家に住まわせてもらうってのは前から決まってたお」
「へえ、そう」
 元々ニートのテトを世話してただけだ。また、会える。
「そうだ!観客として数人誘っていいって言われたからめーちゃん、バカイト、がくぽを誘うお!」
「・・・ルコ、テイ、CUL、ルカは了承してるの?」
「もちろんだお!」
「いいわよ、行くわ」
「じゃあ、寝るおー!」
 まだ髪も乾かしてないのに、と思ったが私は敢えて無視した。

 最近、勉強が難しい。だからハク、ネルに教えてもらっている。
「いっつもごめんね。最近はほぼ連泊で・・・」
「いいよ、気にしないで。ね、ハク」
「うん。私たちも復習になるから全然構わないよ」
「あはは・・・」
 背中をいきなりバシッと叩かれた。
「おっはよー!」
「うわっ、メイコ先生」
 なぜか機嫌がいい先生は笑顔で怖い事を告げた。
「次のテストで450点以上とりなさい!それが夏期補習の対象から外れる条件よ!」
「えっ」
 私がしょげていると、喋り続けた。
「それと、来週のMスタ。「U」が出るから」
「えっ!?」
 それには顔をあげて喜んだ。
「凄いですね!あの春歌ナナと共演だなんて・・・」
「ナナさんって新しい曲を来週のMスタ披露するらしいよ」
「ハクも好きだもんね」
「うん」
 Mスタ、春歌ナナ。テレビを見ない私にはちんぷんかんぷん。どちらかと言えば読書に専念してたから・・・。
「ミク、何きょとんとしてるの!?あのナナだよ、ナナ」
「まさか知らないの!?」
「ごめん、そのまさか」
「非常識なミクに説明するよ。Mスタは視聴率が低迷してた音楽番組だった。でも春歌ナナを司会にした途端視聴率がアップ!今じゃ人気音楽番組と言われてるの」
「うわ、鳥音」
「あら鳥音おはよう」
「おはようございます、メイコ先生」
 笑顔で鳥音も登場。この子朝が早い。
「春歌ナナは2年前、小さな音楽番組でデビューした歌手。まだ19歳らしいですよ」
「リンちゃんたちまで・・・」
「おはようございます。えへへ。最近、朝早く起きて朝ごはん食べてるんです」
「とりあえず来週のMスタは必ず見るのよ!」
「はい」
 今度はカイト先生がぜえぜえ言いながら近づいてきた。
「め、めーちゃん。何で僕をおいて走っていったの?」
「いいじゃない。ほら、行くわよ」
「え、ちょっ・・・」
「ほほう、何やらありそう」
「ネル・・・」
 相変わらずネルはこの種のネタを追いかけるのが好きなようだ。

「はうう・・・生放送かあ」
「まさか春歌ナナ・デビュー2周年記念特別ライブ内でMスタやるなんて・・・」
 メンバーの気が重いのはよく分かっている。私もだ。
 実は出演者の一人が本来の収録日に来れないということになり、収録日が移動。スタッフがああでもない、こうでもないと言い合いをしていたら横で聞いていた春歌ナナが「じゃあ、私のライブでやりましょうよ」と言い出したのだ。元々、放送枠はライブと同じく2時間もらっていたので問題はなかった。
 それと、番組スタッフは前座を私たちに押し付けた。本来ならナナさんが選ぶそうだが、おまかせと言われたらしい。新人を選ぶなんてっ!
「緊張するなあ、テト」
「ルコ、君が一番緊張してないお」
「そうかな?結構緊張してるんだけど」
「前座かあ。にしてもマネージャーさんほいほい引き受けすぎだよお」
「テイ、泣かない泣かない」
「出番ですよ」
 遂に、私たちのステージが始まる。
 盛り上がりはすごい。歌を何とか歌い終わると、ナナさんが出てきた。
「はあい!今日はMスタ特別生放送だよ!前座はデビューしたてのバンド「U」にしてもらいました☆」
「ナナさんのライブで前座ができて光栄です」
「うふふっ。メジャーデビューする前も結構してたみたいだけど、いつからなの?」
「ええと・・・5年です。MERはデビューする時に加入したメンバーですが」
「おおうっ。じゃ、自己紹介よろしくね」
 ここで恒例の自己紹介。もちろん上手くいった。
 番組後、ナナさんがやってきた。
「今日の聞いてCD買おうと思ったの。本当に凄いわ、頑張ってね」

「いやー凄かったわねえ」
「めーちゃん飲みすぎ」
 葵さんと茜さんが打ち上げとしょうし、飲みに連れてきた。とは言え、私やテイ、CULは未成年なのでジュースを飲んでいる。
「それにしても、ルコはん。年齢不詳キャラクターつきとおす気?」
「・・・」
 茜さんは知らない。ルコが、自分について覚えていないのを。
「俺、自分の年齢数えたことなくてさ。ははっ、いつ生まれたのかも本当の両親も知らない」
「それほんまか?せやったらマズイで」
「ああ、公式サイト的なのを開くんですか?」
「カイトさん、正解。記憶喪失だなんて無理やろ」
「それじゃあ25ぐらいでいいよ」
「分かった」
 メイコ先生はガブガブ飲んでいて気がつかなかっただろうけど、ルコの横顔は寂しげだった。
「ルコ、どないしたん?」
「いや、なんでもない」
 ふうっとため息をついた。

VOCALOID学園 第17話「揺れる恋ゴコロ」

「レンくん~!」
 マユがレンくんにくっついてる。私は寝不足でくっつかない。
「リリィ!どうしたの?テスト、自信ない?」
「う、うん・・・まあね」
「ん、でも大丈夫だよ!」
「とにかく寝させて・・・」
 変なの、とマユは呟きレンくんの元へ戻った。
 最近勉強に手がつかない。やはり私もテイさんのように身をひき、マユとレンくんの幸せを祈るべきなのだろうか?
「テスト返すわよー」
 言和先生がやってきた。(産休に入った先生の代わりにやってきた中国人の先生)あーどうなるかな。今回は工作してないけど。
 そして、工作なしの私のテスト結果が返ってきた。
 合計、420点。判定、B。
「えっ・・・B!?」
「リリィ・・・」
 あのリリィが!?と大騒ぎになる。
 私は落ち着こうと思いあの教室に向かった。
「あ」
 意外にもミク先輩がいた。
「どうしたんですか?」
「いやあ、ちょっとヤバイ点数とっちゃってね・・・えへへ」
 ミク先輩の手には300点の文字が書かれた紙が。ぎりぎりだ。
「・・・私、Bに下がったんです」
「えっ!?」
「わ、笑えますよね?本当に・・・」
「うーん、でも私だってBにいるのはギリギリなんだからまだ大丈夫だよ」
「・・・」
 その時、誰かがやってきた。短い金髪に青い目・・・リンだ。
「バカイト先生に迎えに行ってって言われたから来たの」
「あ、そうなの?」
「それじゃ、またね」
「はい・・・」
 気まずい空気。私が陥れた相手と並んで歩いてるなんて。
「あ、あの・・・あなたを友達と引き離したのは私なの!」
「・・・」
 リンは黙っていた。すると、立ち止まり、私の方を見た。
「そんなの、気にしてないよ。おかげさまで更正できたし。それに、レンが好きなんでしょ!?頑張りなよ!」
「・・・え、怒らない?」
「もちろん!当たり前だよ」
 私は、嬉しかった。

 リリィと寮の部屋が離れた。一時的なものだから、必要最低限なもの以外はまだ部屋にある。
「本当にどうしたんだろ、リリィ」
 夕食もぼんやりととる。
 すると、隣にレンくんが座った。
「マユ、一緒に食べていいか?」
「レ、レンくんっ!?い、いいよ」
「リリィのこと、心配か?」
「当たり前よ。だって、私に新たな出会いをくれた親友なんだから」
「そうなのか・・・」
 夕食時にレンくんから来てくれるなんて、本当に嬉しい。
「マユは本当にご飯の量少ないんだな」
「う、うん。女の子だから色々気にしてて。マグロ丼なら量も少ないからいいかなって・・・。うふふっ♥」
 もちろん、私の方が先に食べ終わった。立ち上がろうとした時、レンくんが引き留めた。
「俺が食べてる天ぷら定食。天ぷら、一個いるか?」
「え、そ、そんな、いいよ」
「ほら」
 つい、あーんと口を開けてしまった。わ、私が今までお昼にレンくんに散々してきたことだ。逆にされると、すごく恥ずかしい。
「お、おいしい・・・」
 始めてここの天ぷらを食べた。
「引き留めてごめん。じゃ、お休み」
「うんっ・・・」
 リリィには悪いけれど、とても幸せ。

「キマシタワーーーーー!!」
「め、迷惑になってるよ」
「ハクの言うとおりだよ」
 ネル、リン、ラピス、いろは、グミが叫んだ。正直うるさい。
「えーだって、レンがやっとちゃんとアピールしたんですから、しかもあーんですよ!」
「リンちゃんの言うとおり!これは本当にキマシタワーな展開!」
「いい展開にゃ」
「そうだねえ~」
「!」
 グミちゃんが立ち上がる。どうしたのかな?
「嘘・・・」
 リリィが立っていた。マユはもう去っていたが、レンくんがそっちの方を見ながら顔を赤くしていた。それだけでリリィは全てを理解してしまった。
「こんなのあんまりだよ!」
「うわわ・・・」
 リリィは止める間もなく、飛び出していく。
「いわゆる修羅場だね」
「鳥音~!さらっと言わないでよー」
「どうするの?」
「まあ大丈夫だよ、きっと」

「レンくん・・・」
 私は勢いで飛び出してしまった。私の望んでいた幸せは、もうない。とりあえず売店でカップラーメンでも買おう。
「ささら、私はカップラーメンがいい」
「私も」
「え、ちょ、マキさんもつづみも私をパシる気ですか」
「当たり前だ」
 放送の為に雇われているというアンドロイドがいると聞いたが・・・人間なの!?
 どうやら吉田くんやタカハシくん以外が揃っているらしい。
「ちなみにタカハシくんはお弁当、吉田くんは何でもいいらしい」
「仕方ないですね」
 私はそれを呆然と見送る。っていうかヤバくない!?元からすぐ売り切れるというラーメン・・・。仕方ない、戻ろう。
「リ、リリィちゃん」
「せ、先輩・・・」
 心配性のミク先輩が待っていた。私はどう反応しようか迷ってしまった。
「戻ってきたってことは大丈夫なの?」
「え、あの、ささらさんたちが売店を利用するから私は仕方なく。ていうかミク先輩なぜここに!?」
「し、宿題が終わらなくて特別に泊まるの・・・。えへへ」
 なぜか笑顔で答える。お馬鹿の証拠丸出し。
「まあ、もうレンくんは部屋に戻ってるから大丈夫だよ。うん。でも食堂利用者だいぶ減ってるし一緒に食べない?」
 私のことでも話してたのか、皆の食事の手が止まっていた。
「リリィちゃん、大丈夫?本当に?」
 本当に心配してくれたようだ。

VOCALOID学園 第16話「トラブル転入生」

「レンくん!今年も一緒だねっ」
「あ、うん」
「・・・レン?二股しないでね」
「リン、そんなことしねえよ」
「ふふっ、冗談だって」
 私はいい気分じゃなかった。マユに対するレンくんの反応がどんどん変わっていく。マユのことを好きになってる。やだっ・・・。
 私は何とか明るくしようとして話をする。
「リンちゃんはB組になったんだっけ?」
「ん、まあね~」
「凄いね。いつかレンくんと一緒のクラスになれるかもよ」
「んーそうなったら嬉しいけど」
「そろそろ戻れよ、リン」
「はあい。じゃね」
 私はいつかリンに・・・打ちあけたい。
 あのことを。

「転入生よ☆」
 またメイコ先生のクラス。メイコ先生はカイト先生と付き合い出してすっかりおしゃれに磨きがかかっていた。
「双子みたいだけど、まあよろしく」
「双子の姉の鳥音です。よろしくお願いします」
「妹の杏音です。お姉ちゃん大好き~」
「こら、杏音!もう転校したくないでしょ!」
「うーいいじゃん」
「ま、早く席について」
 休み時間になり、早速ネルが話しかけに行った。
「やっほー!よろしくねっ」
「あ、はい。さっきは杏音が迷惑を・・・」
「そういえば転校ってどういうこと?」
 ハクがなにげなく聞くとはあ、とため息をついた。
「杏音が私にべったりで・・・。しかもダンスの時以外はのんびりしてて気味悪いとか言われて。今まで学校があわなくて中学生の間は5回転校しました」
「た、大変だね」
 鳥音はネルと同じサイドテール。それに気づいたのか、笑顔になった。
「同じ髪型ですね」
「あ、本当だ」
「お姉ちゃん~~!!!!」
「きゃっ」
 杏音が鳥音に抱きつく。周りの子は冷めた目で見ている。
「ね、今日さあ」
「いい加減離れたらどうなの!?そこのシスコン先輩!」
「!?」
 いつの間にか入り口にリンちゃんが。すっかり普通の姿。
「シスコン先輩を甘やかさないでくださいね、ミク先輩」
「あ、はい・・・」
「カイトから聞いてたので、シスコン先輩のこと」
「そうなんだ」
 当の杏音は中等部の子に怒鳴られたもののぼうっとしている。さすが天然。
「あたしも協力します、鳥音先輩♪」
「ありがとう」
「ほえ?」
 杏音が首をかしげた。

「ねえ、リリィ。今日はあまり一緒にいなかったけどどうしたの?」
「・・・なあんか気分悪くて。大丈夫だから心配しないで」
 放課後。2-Bの隣の教室からそんな声が聞こえてきた。
「で、リン。私たちに協力してほしいことって?」
 いろは、グミ、ラピスとあたし。既にとても仲良しになっていた。
「ミク先輩たちのクラスにシスコンな子が転入してきて。その子をどうにかして双子の姉から離そうって思ってさ」
「あ、いわゆるレンくんにマユちゃんがくっついてる状態かにゃ?」
「んーそれの女版となると気味悪いね」
「うん、確かに」
「なるべく先輩たちにもそのシスコンである杏音先輩は放置ってこと伝えておいたから」
「うーんなるほどにゃあ」
 すると鳥音先輩が走ってきた。ミク先輩たちもいる。
「ほ、本当にいいの?」
「うん!ここは初等部から高等部は行き来自由なんだから」
「そうだよ」
「あ、リンちゃんたち!やっほおー!」
「初めましてにゃー。猫村いろはにゃー」
「ね、猫っ!?」
 鳥音先輩はびっくりしている。そりゃそうだ。
「こっちがグミ、その隣がラピスにゃ」
「よろしくです」
「よろしくなのです~」
「うん、よろしく」
 にぱあっと笑う鳥音先輩。あの妹さえいなければレン並みにモテてたかもしれない。
「おおー皆懐かしいねー」
 なぜかテイ先輩までやってきた。
「なんで来たのですか~?」
「んー。まだお仕事はぼちぼちだから。暇だし来たってわけ」
「もうナイフは持ってないかにゃ?」
「ナ、ナイフ!?」
「あれ、このネルに似た子は?」
「転入生ですよ」
「は、初めまして。鳥音です」
「ほほう、そうなのかー」
 あたしは少し気になり、ティ先輩に訊くことにした。
「レンは諦めましたか?」
「ん、もちろん。そこまで子供じゃないし。別の人見つけてつきまとえばいい話だもん」
「・・・」
 この先輩・・・頭がもうダメかもしれない。
「どうやって杏音先輩を置いてきたのですか?」
「あの子、運動神経だけは私に勝てないから私が走ればすぐ見失うの」
「うわ・・・それであの激走を」
 やっと出ていったがくぽ先輩やカイト、メイコ先生の時代なんか校内をバイクが走り回っていたと言うぐらいここは規則が緩い。
 走っても、ああ陸上かどこかが練習してるのかー、という目でしか見られない。スカウトする先生もいる。
「ここには廊下走るな、というポスターがなかったから走ったんだけどいいんだよね?」
「いいですよ~」
「構わないにゃ」
「お姉ちゃん~!」
 その時廊下からのんびりした声が聞こえてきた。すかさずいろはがいつも持ち歩いているキティちゃんタオルケットを鳥音先輩に被せる。
「ううーお姉ちゃん知らない?」
「知らないです~」
「そ、そう」
 がっくりして杏音先輩は帰っていった。
「どうしてあんなに気持ち悪い程まとわりついてるの?」
「昔からなんです。私がよく学級委員してて頼れるお姉ちゃんというイメージから・・・」
「ふうん」
「そうにゃのか」
「とりあえず寮に杏音は押しつけました。母がうるさいもので・・・」
「そりゃそうでしょうね」
「とりあえず今日は解散するにゃー」
「そうね」
 あたしたちは笑顔で先輩を見送った。

「いや~大変な1日だったねえ」
「本当本当。ハク、大丈夫?」
「うん・・・」
 寮生であるハク、ネルと別れ鳥音と一緒に歩き出す。
「ミクさんは家、近い?」
「うん。本当は寮に住みたかったけど高いからね」
「あはは、そうですよね。ここ学費だけでもそうとうな額だと言うのに」
「私のお母さん、毎月変な顔してるよ。学費、高いんだね」
「うん。あ、友達になってくれて本当にありがとう」
「ううんこっちこそ」
「じゃ、また明日」
 私は1人になった。本当は寮に入らないとキツい距離だが、我慢している。これ以上の負担は重い。
「あ、ミクちゃん!ね、お姉ちゃんは?」
「うわっ!ど、どうしてここに?」
「えーだって、お姉ちゃんと過ごしたいんだから仕方ないじゃん」
 私が対応に困り、おろおろしていると後ろから誰かがやってきた。
「寮から逃げ出した子猫ちゃんはあなた?」
「ルカさん!?」
「お久しぶり、ミクちゃん。荷物とりにきたら寮のおばさんに『時間を過ぎて逃げた子がいるから捕まえに行ってくれ』って頼まれちゃって」
「そうだったんですか」
 にしてもスカート(膝上)、ブーツで走ってくるとは・・・恐ろしい人。ちらりと杏音を見ると、逃げ出そうとしている。
「私、50mは8秒台よ?勝てるかしら?転入生さん」
「えっ」
 それには私も驚く。ルカ先輩、美人なのに凄い!
「ほら、帰りましょうね」
「えー」
 とりあえず一件落着・・・かな?

 翌日から、杏音のシスコンは少しずつ収まっていった。鳥音もほっとしている。

美しき悪魔 第6話「裏切り」

「え?力を戻せ?何を言ってるんだ」
「中流悪魔・セイラント=アグスフォーンとレイラント=アグスフォーンが人間界を破壊しようとしているのですよ」
「・・・知らんぞ。お主が死んでも」
「構いません」
 マーチュリアルは眩い光に包まれた。そして、現れたのは美しき少女・・・。しかし、悪魔の特徴も兼ね備えていた。
『中々ね』
「さ、行くとするか」
 学校に着くと、なぜか学校がなかった。大方爆発でもしたのだろうか。
「まずいのう、早く行くぞ

美しき悪魔 第五話「崩壊」

 わらわは自分が強い、ということを自覚しておった。じゃが、セイラはそれ以上じゃった。
『きゃはははは!どうしたのぉ?なまっちゃったかなあ?』
 しかもみちるという小娘も遂に悪魔になった。これはマズイ。
 わらわは35回以上戦っているが今回は・・・負ける!
「ちょっと、逃げるっていうの!?」
『ひどいわね』
 逃げるが勝ち、じゃ!
 ところが学校から出たなりよくない奴に遭遇してしまった。警察という奴じゃ。
「わ、わああああ!」
「いや、わらわは・・・」
 どうやら犯人の一味と間違えられたようじゃ。仕方ない、説明しよう。
「わらわはただ単にここに荷物を忘れた子に頼まれて荷物をとりにきただけじゃ。じゃが、3人は強くてのう。ダメじゃった」
「3人?犯人たちを見たんですか?」
「ああ。みちる、セイラ、レイラじゃ。じゃが捕まえるためには人間の力じゃ無理じゃよ」
「そ、そうですか。ご協力ありがとうございました!」
「む」
 わらわは初の敗北をしてしまった。不覚じゃ。

「ふわあ・・・」
 私は起き上がり、いつものように髪を結ぶ。今日は久々にサイドテールにする。
「ねえ、ルマ」
『何?』
「マーチュリアルは大丈夫かな」
『・・・さあ?』
「それと、どういう関係なの?学校とか色々言ってたけど」
『・・・今は話せないわ。さ、麻智子の家に行くわよ』
 ルマには何か後ろめたいことでもあるのか、黙って私の中に引っ込んだ。
 麻智子の家はこの辺でも特に静養地として人気なすずらん丘という地区にある。私の家は町の中心部にあるため、かなりの距離になる。自転車でも20分はかかるだろう。
 到着すると、マーチュリアルがポツンと立っていた。
「どうしたの?」
「わらわは敗北したのじゃ。・・・このわらわを35回以上の勝負の後超えたとはとんでもない悪魔じゃのう」
「しょ、勝負!?」
『そんなに勝負したのお?本当にバカだわ』
「うるさい」
 とりあえずインターホンを押すと、麻智子が出てきた。
「わあ、どうしたの?」
「今日お休みだからさ、遊びに・・・というか作戦たてにきたの」
「え、マーチュリアルは!?」
「わらわは死んでおらん」
「よかったあ」
『あたし的にマーチュリアルが負けるとかおかしいと思うんだけど』
「・・・仕方ないことじゃ。わらわは悪魔の力の半分がなくなったのじゃから」
『は!?』
「悪魔が地に降り立つ場合は死神様に力を分けなければならんのじゃ。ほら、普通の人間として過ごしやすくするためじゃ」
「へえ、マーチュリアルってそんなに力を・・・」
「びっくりだね。ルマたちと比べたらどうなる?」
「ルマたちとは比べたらいかん。わらわは死神様にも尊敬されるぐらいのパワーを持っていたのじゃ。くくく」
 麻智子は今更ながらにあ、と言って家に入れてくれた。
「さっき会長の家から電話があったの。やっぱりシズにのっとられたのかな」
「じゃろうな。あやつもよく14年間・・・いや、耐えなければならなかった」
「ふぇ?」
 自分で持ってきたお菓子をさっさとつまむ麻智子。まったく。
『パティシア牢獄。セイラとレイラとシズはそこに捕らえられていた。理由は簡単よ。マーチュリアルを半殺しにしたという・・・ね。あたしがここに来る前騒ぎになってたから知ってる。シズがまさか同一人物とはね』
『ドゥはちゃんとした仲間だけど、大丈夫かしら』
「くくく、まあよいじゃろう。夕方にまたニュースを見ればよい」
「あーあ。段々悪魔たちの過去絡みになってきてちょっとあれだなあ・・・」
「まあいいんじゃない?悪魔たちで解決してくれれば」
 麻智子は本当に天然だ。

<朱見市でまた数人が行方不明になりました。教師1人が遺書を残し自殺をしています>

 崩れる・・・。いわゆる崩壊がルマ姉さんは大嫌いでいつも平和に過ごせるようあたしたちに気を使ってくれた。
 だからあたしたちと一緒に悪魔を殺しちゃったなんて今思えば本当にすごいことだよ。
『ルナ、会議よ』
『あ、うん』
 マーチュリアルは普段更に小さくなって人形になってるらしい。そのおかげか全然不自由そうではなかった。
「わらわはドゥの参加も認めたい。しかし主である春樹という奴が怪我をしていては参加させるわけにはいかん」
 そこでふうっ、とため息をつき続ける。
「セイラたちは狂っておる。長い牢獄生活の末じゃろうが・・・。このままでは生徒の親やあまり危害を加えていない3年生までに被害をくわえることになる」
『でも・・・』
「わらわが追放覚悟で覚醒すればいい話じゃよ」
『それじゃ麻智子はどうなるの!?』
「大丈夫じゃ。契りを交わしていればわらわがいなくなっても生きたい年まで生きれる」
『そう・・・』
 あの牢獄は薄暗いし寒い。正直、絶対行きたくない。狂ってしまうだろう。
 そして平和が崩壊するだろう。

「きゃはははははは!死んじゃえ~死んじゃえ~♪」
「みちるっ・・・?やめてええええええええ!!!!!」
「きゃはははははははは!」
 そう、皆死んじゃえばいいんだ。
「死んじゃえ~♪死んじゃえ~♪」

美しき悪魔 第四話「全面対決」

 マーチュリアルらしき人はニヤリと笑った。
「確かにわらわは殺人鬼じゃった。じゃがのう、わらわは妹が亡くなってから初めて命の大切さを知ったのじゃ」
『「だから?」』
「わらわは妹と同じく床にふせっている少女につくことを決め、悪魔をやめたのじゃ。わらわがピュアで純粋になった今、対等に戦えるかのう?」
『みちる、レイラの元に戻るわよ』
「ええ」
 2人を見送り、マーチュリアルはにこりと微笑んだ。
 改めて見ると彼女は銀色の髪に金色の目と豪華。ただ、身長はとても低い。
「助けてくれたの?」
「ああ、まあな。わらわがここに来たのも人助けのためじゃからのう」
「みちるってどう?」
「あの小娘か?簡単じゃ、悪魔になるぞ。わらわを超える悪魔に。くくく、全く困ったものじゃ」
 すると隠れてたのかルマが飛び出してきた。
『マーチュリアル!?え!?ぶ、武装してない!?』
「おう、ルナか?それともルマか?」
『ルマよ。心入れ換えたのね』
「くくく、当たり前じゃ。早くあの悪魔姉妹を殺さないと危ないのう」
『ところでその口調は?私と同じだったのにおかしいわ』
「麻智子の見てたテレビとやらから影響を受けたのじゃ。中々面白いぞ?」
『・・・・・・とにかく、マーチュリアルが味方なのは助かるわ。じゃ、作戦練るわよ』
「うん」
「了解じゃ!」
 4階で麻智子は倒れていた。マーチュリアルが覚醒して、抜け出したんだろう。
「麻智子~!起きて~」
「ん・・・わ、佳梨!?久しぶり」
 ニコニコ笑う彼女には現状が理解できていないようだ。
「ずいぶんと派手にやっておるのう。ま、全盛期のわらわには到底敵わんがな。くくく」
「マーチュリアル、ごめんね。始めからルナたちと一緒の扱いすればよかった。命の恩人なのに扱い方、雑でごめんね」
「まあ気にせんでよい。わらわはドゥを捜したい」
『ドゥなら今日もぴったり会長についてるわ』
「今はお別れ会会場にいると思うけど」
「でもどうしてドゥを?」
「あやつはのう、ああ見えてもセイラたちのスパイなのじゃ。昔からわらわを毛嫌いし、目の敵にしセイラたちにわらわがした怪しいことを全部報告しておった。もうずいぶんと昔の話じゃが。しかし、会長とやらについているのならまずいのう。あやつは人の性格まで歪め、自分に近づけることができる」
「え・・・」
「ちょ、それ会長が危ないってこと!?」
『でも、会長は生まれた時から悪魔と一緒だったって言ってたわね』
「出遅れじゃった。要するにげいむおうばあじゃ」
「ゲームオーバーね」
 マーチュリアルの冗談がすごい面白い。なんだ、いい人。

「佳梨~!お見舞いに行こうよ」
「あ、うん」
 あのあと会長にはメール、電話、LINEをしたが反応がなかった。もう本当にダメなのかもしれない。
「あら、今日も春樹くんのお見舞い?これ、春樹くんが好きなスイーツセットよ。持っていきなさい」
「うん!じゃ行ってくるね」
 春樹の驚く顔が楽しみ。同時に叫ぶかもしれない。
「春樹♪」
「えええええ!?ま、麻智子!?」
「わらわと」
『私と』
『あたしも』
「私もー」
「なんか、多くねえか?」
「くくく、わらわはマーチュリアルじゃ。元殺人鬼じゃ」
「は!?」
「春樹くん、大丈夫だよ。マーチュリアルはもう悪魔でも敵でもないんだから」
「くくく、麻智子の感情は今のわらわでもわかるぞ。言ってみるぞ」
「あう、それは言わないでっていつも言ってるじゃん」
「くくく、冗談じゃよ、言わん」
「もう!」
 春樹はすっかり笑顔になった。だが、足はまだ治らないらしい。
「クリスマスまでには治るぜ」
「1ヵ月?ヒドいんだね」
「くくく、わらわは殺人を止めてくる」
「補導されないようにね」
「大丈夫じゃ、元の姿に戻るから」
 マーチュリアルはそう言うと、なんと突然美少女になった。
「わらわは元々こういう姿じゃったがのう、狙われるからまやかしの魔法で色々化けておったのじゃ」
「何とか止めてね」
「・・・確証はできんがの」
 マーチュリアルは寂しそうだった。

<次のニュースです。 朱見市立第一中学校にて起きている連続殺人事件に関与しているとして木山みちる(14)を異例の指名手配にしました。木山容疑者は未だに逃走を続けており、被害者が増えることは懸念されています。ちなみに現在の犠牲者は80人です>
「・・・」
 夕食時、重苦しい空気になった。麻智子が見つかり、麻智子の両親も誘って5人での夕食。なのに、このニュースが流れてしまって台無しだ。
「木山さんって・・・確か佳梨那に怪我を負わせて謝りもしなかった子よね?」
「あら、そうなんですか?」
「ええ。ご両親は後から謝りにきて大金を置いていきましたけど。でも軽くしか謝ってくれなくて」
「お金持ちなの?」
 麻智子がすっとんきょんな声を出す。相変わらずな性格だ。
「うん、そうみたい。あら、何かしら」
 ニュースはまだ続いていた。
<なお、今日行われたお別れ会後、木山容疑者が数人と一緒に校舎を徘徊し、壊し回っていたとの情報があります。警察はしばらく校舎を封鎖する方針です>
「あうー、これじゃ学校に行けないね」
「本当ねえ」
 夕食ぐらい、賑やかに過ごしたいものだ。

「ううむ、ここか」
 わらわの名はマーチュリアル。天才美少女じや。
「ずいぶんと派手にやりおって・・・。この学校は廃校確定じゃな」
 わらわがぶっ壊した学校は3年程たつと元に戻ったらしい。しかし、わらわはこの学校のように窓を割ったり血だらけにはしていない。
「あんた、マーチュリアル?」
「悪魔に命を売った小娘か。けっ、対決するか?」
「・・・セイラに訊かなきゃわからない。でも邪魔しないで」
「くくく、無駄じゃよ」
 すっかり血に染まった金属バットを片手にゆらゆらと歩くその姿はもう半分以上が悪魔じゃろう。体も人の血だらけじゃ。
『ふふっ、対決しに来たってわけ?』
「そうじゃ。なんじゃ、派手にやるか?」
『ええ、もちろん!』
 全面対決じゃ!

美しき悪魔 第三話「連続殺人」

 次の日。下駄箱で靴をはきかえてると、早起きで有名な根本さんの靴がなかった。
「あれ・・・根本さんがいない」
「・・・根本さんとかテニス部メンバーは先輩も含めて行方不明らしいよ」
 嗚咽をあげながら必死に説明してくれる女子。そして、嗚咽をぴたりとやめ、こういうことも言い出した。
「元メンバーの木山みちるも行方不明だって。これに便乗して消えたのかなあいつ」
 完全に恨んでる声だった。彼女はちょっと自己中すぎる。そこが女子どころか男子の反感までかい、私に大ケガを負わせたときなんか男子に責められてたっけな。なのに彼女は、笑っていた。まああのときから悪魔がついてたから仕方ないだろうけど。
 教室まで寂しいので、その女子と一緒に歩く。
「・・・お花のお水換え大変そうだね」
「・・・そだね」
 重苦しい空気。私たちのクラスでは1週間お花を亡くなったクラスメイトの机に置く。
「あっ・・・」
 教室の扉を開けると、テニス部女子の机にお花があった。昨日の3人の机にもだけど。
「ううっ・・・そんなあっ・・・」
「嘘・・・」
 これにはさすがに私もこたえた。先生は無言で教室に入り、黒板にこう書き残していった。
『不安な人はカウンセリング室へ』
 私はたえよう、と決心した。カウンセリングなんか受けたら両親が心配する。それは嫌。
「今日は自習だって・・・」
 男子評議委員がやってきた。目の下にはくまが。
「自習なんかっ・・・!」
 多くの人はカウンセリングに行った。私は図書室に行くとしよう。
 図書室に行くと数人生徒がいた。自習なんてできない、と思った人がいるのだろう。
 しかし私は疑問に思った。マーチュリアルと敵対しているのならば、なぜ彼女と同じように学校を破壊しているのだろう?まさか破壊し終わる日数勝負?
 10分ぐらいだろうか。適当にその辺にあった雑誌をパラパラめくってた。内容なんてどうでもいい。その時だった。
<配布物がありますので、生徒は一旦教室に戻ってください>
 無機質な放送。生徒たちはびくりと反応し、散っていく。さ、戻ろう。

「プリントを読むように」
 テニス部女子は確かこのクラスだけで8人いたはず。昨日の白鳥さんたちも含むと女子は10人もいなくなったことになる。
「うっ・・・」
 内容はおぞましかった。
内容→【事実をあまり伝えたくないが、テニス部2、3年生を殺した犯人は彼女らの断末魔をわざと昨日の放課後、こちらに流してきた。『やめて!木・・・』や『みち・・・』と聞こえたため、同じく行方不明の木山みちるが犯人だとされる。だがしかし、彼女は腕力も恨みもないはずだ。何か知っていることがあれば先生たちに】
 途端、泣き出した。叫んでいる子もいる。
 みちるは手始めに恨んでいるテニス部メンバーを殺した。傍観してて関係のない先輩に対しても『救ってくれなかった』と思って殺したのだろう。しかし、2年生だけで20人、3年生なんか35人だ。みちるは捕まれば遺族たちに袋叩きされるだろう。
「先生!みちるは、昨年大久保さんの腕にわざとテニスボールを投げたんです!それが原因でしかも自業自得でやめさせられたのに、自分に同情してくれなかった、と先輩たちと同学年女子を恨んでるんですよ!」
「・・・彼女を救えなかったものなのか」
 私は、立ち上がって発言した女子に代わり、立ち上がって発言する。
「みちるは・・・昨年の5月からおかしかったんです。私がさっそく大活躍したのをきっとよく思わなかったんでしょうけど・・・」
「じゃあさ大久保さんは木山を許すっての?」
「許すわけない」
「でしょでしょ!?あいつ死刑だよ!」
「まあ落ち着け。55人も殺害されたとなれば当分テニス部はダメだな」
「・・・」
 職員会議が行われるとのことで先生はバタバタと出ていった。
 先生が出ていき、廊下を歩くとまるでゴーストスクールのようだと思った。明るくて元気が取り柄のテニス部はもういない。それに2年生を中心に殺害されている。精神崩壊し、入院する人もいる。
「おや、どうした?大久保」
「会長・・・」
「生徒会長として事件を把握したいと申し込んだ。そしたら・・・。残酷な写真を見せられた」
「ちょっと、私に見せなくても・・・」
 テニス部女子がぼこぼこに殴られていた。金属バットで殴られているよう。特に顔と腕の損傷が酷い。
「かなり殴り続けたようだな。特に恨んでいる人に対してなんか手がなかった」
「根本さんとかの?」
「名前はよく覚えていないが、テニス部女子のチャームポイント・ポニーテールと手と足がなかったなその子」
「うわあ・・・」
 そして会長はふうっ、とため息をついた。
「先生たちも疲労困憊って感じでな、数人いなかった。特に若い先生なんか実家に帰った人もいるらしい」
「うーん、どうにかできない?」
「無理だろうな。ルマ以外フルパワーは使えない。シズも中々回復できてない」
「そんな・・・」
「しかしみちるを捜しだせば少しは減る。無駄に命を失うことが」
「会長は知ってる?みちるの性格の悪さ」
「ああ、まあな。副会長がテニス部の女子なんだが・・・みちるがね、とか悪態ついてたな」
「生徒会も危ないの?」
「ん、まあな」
 会長は私に紙束を渡された。
「補佐よろしく」
「仕方ないね」
 とりあえず紙を読んでいくと、白鳥さんの生前の写真と遺体の写真が並んではってあったりと若干死者への冒涜なのでは?と疑いたくなるものばかり。
「全く。この学校は休校になると思わないか?」
「うーん、確かに」
 私たちは静かな3F廊下を歩く。特別教室があるが、それぞれにテニス部女子の遺体があるのだという。
「最初見たときは気絶しかけた。しかも、ほら」
「寒いと思ったら」
 廊下の窓と特別教室の窓が壊されていた。
「理科室の道具をはじめ、多くの物が壊されていた。美術部は昨日も部がなかったから被害はなし。しかしポスター等作品は破壊された」
「うわあ・・・そ、それは」
『やっほー☆』
 セイラが血だらけのかまを持って現れた。彼女自身も血まみれだ。
「私とセイラは一心同体。私は金属バット持ってるけど、セイラはかまなの」
『あはははは!』
「に、逃げるぞ!」
「うん!」
 私はこの学校がどうなるか不安だった。

『マーチュリアルが目覚めた!?』
『らしいのよ。あたし、シズから聞いた』
『困ったわ・・・』
 マーチュリアルは悪魔の中でも特別危険殺人鬼である。しかし、彼女はなぜか突然消えた。そして・・・人間になったのだ。私は信じたくなかった。

「お別れ会・・・」
 転校してしまう子に対してしたことはある。でも、今回は亡くなった人に対してである。
「うーん、行く気しない」
「佳梨那ー!行くわよー!」
 土曜日になった。このお別れ会後、実家に帰ると宣言した先生が何人かいるらしい。
 母親に連れられ、私は学校の体育館に向かう。
「うひゃ・・・」
 写真、というか遺影が並べられている。白鳥さんはやはり美人のようだ。
「みちるは来てないね」
「あいつなんか来ないでほしい」
 みちるの陰口が目立つ。仕方ない。55人を殺してしまったのだから。
「あら、大久保さん・・・」
「まあ!」
 お母さんがお話している間に会長と合流しようと思い、私は校舎に向かう。
「じゃ~ん!」
「うわっ・・・」
 廊下を歩いていると突然頭上から生首が。
「悲鳴をあげる顔が素晴らしくってとこか?」
「誰!?」
 後ろを振り向くと、麻智子・・・いや、マーチュリアルと思われる人がたっていた。