神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

女戦士と猫 第三話「男達の事情」

 カナの目の前ではふざけているし、お酒をがぶ飲みするけれども、酒場にはきちんとした用がある。ここは、何とか生き延びた王宮関係者が仮の住まいとして利用している。その人達から訓練生でありながらも生き延びた自分たちが情報を受け取っているのだ。──殺害されたり、自殺したりした立派な戦士や魔法使い、剣士の代わりになればとの思いで二人で協力して情報をかき集めている。
 大臣・セレウディナ、王宮正規軍隊長・ディオンテ、そして、ルメデア王子。この3人と毎日会話している。

「アラン。カナの様子はどうだ? シリウスの意志をきちんと受け継いでいるかね? 」
「特訓はまめにやっていますが、シリウスさんの剣を使う気はないようです」
「そこで、僕はスカウトしてきました。──フィーナ=レオギルを」
「なっ……! あの、レオギル戦士の娘か!? 」
「セレウディナ、私にも分かるように説明しろ」
「はい。レオギル戦士とは、かつてこの国に仕えていたとても素晴らしい戦士です。獅子の様に駆け抜けるさまは見ていてとても胸が熱くなり、心が躍りました。しかし、40を目前に突然姿を消し、この国の繁栄も今まで通りとは行かなくなりました」
「そいつのせいか!? よし、レオギル戦士をとっちめてやる! 」
「王子! ──彼は、別の世界でとても美しい女性と結婚し、子供を授かったとのことです。そのフィーナという少女が彼の子供なのでしょう。しかし、彼自身は亡くなっています」
「……チッ」

 気性の荒い王子をなだめるべく、この場に大臣がいる。ちなみに隊長はけがをしているものの戦いの方針を指示してくれる。そして今回、レオギル戦士を雇えばよいのではと言ったのは大臣である。
 興奮が冷めない隊長は僕に質問をしてきた。

「戦友の妻はどうしていたか? 元気だったか? 」
「──それが、あちらもここと同じ事になっていました。原因は、その人にあるみたいでしたが」
「……やはり、そうだよな」

 かつて一緒に戦った隊長。レオギル戦士が獅子の戦士と呼ばれるのならば、彼は鷹の戦士である。鋭い目はとてもよく、敵の様子を遠くからでも探れたという。
 そんな二人を始め王宮正規軍を支えていた美しい魔法使いはレオギル戦士が行方不明になると、後を追っていなくなった。優秀であったが、その美貌で何度も男達が喧嘩をし、耐えきれなくなったのではと言われた。
 しかし、大臣独自の調査で二人が幸せそうに暮らしていることが判明した。──でも、更に調査を重ねなかったのがいけなかった。
 あちらでもその美貌はかなり話題となり、住処とした寂れた村を活性化させてしまった。それは村長に褒められたのだが、村長はあろうことか既婚で子供もいる彼女と結婚しようとしたのだ。獅子の戦士は当然のごとく怒り狂ったが、村長の意見が正しいと言う者もいた。村長と獅子の戦士は長いこと戦った。──最後は、耐えきれなくなった彼女が全てを破壊した。
 ──これらのことをかいつまんで説明すると、大臣と隊長は顔を暗くした。

「昔からそれは変わらないのですね……。解決しなければ、破壊してしまおうという思考」
「今回は愛していた夫も巻き込んで……何がしたかったのだろうなあ……」

 全く分からない王子はアランが誰にでも分かるようにまとめた紙を読んでいる。獅子の戦士、麗しの魔法使い、鷹の戦士。この3人が再び会うことはもうないのだろう。一度でもいいから見たかった。

「そろそろ戻らねばマズいですね」
「ええ。では、明日はお昼に会いましょう」

 帰り道。歴史が苦手なアランは必死に先ほどの話を反芻していた。ぶつぶつと、呟いていた。
 スカウトをするのが僕になったのも、アランが理由だ。アランはがさつで物事は中々覚えない。だから仕方なく、である。

「ただいま」
「今日はお酒あまり呑んでいないの? 珍しいものね」

 カナは眠そうな顔をこちらに向けた。普段は彼女をからかってばかりだが、やはり可愛いと思う。
 カナはもう寝る、と言ってまた奥に行った。
 アランと僕もそろそろ寝よう。