神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

美しき悪魔 第二話「因縁の対決」

 調理室に行くと戦いはまだ続いていた。ただ、敵の方が圧倒的に勝っていた。
「大久保!お前も来てたのか」
「春樹・・・」
「会長はほら、メンツがあるから来れねえ」
「そう・・・」
 春樹はツラそうだった。麻智子に一目惚れしているだけある。
『ほらほらどうしたのぉ?かかってきなさいよ!』
『くっ・・・』
『レイラ、人質の収容完了したわよ』
『あら、ありがとう』
「あいつら、麻智子を・・・!」
『生まれ変わったとしてもマーチュリアル=スペイアは絶対に許してはいけないとお父様に言われているからね、フフッ』
『『『『マ、マーチュリアル!?』』』』
 ボロボロの4人の声が揃う。
『分かる?ルナ。あんたの主は悪魔の生まれ変わりなのよ。きゃはははは!』
『そうよ!悪魔たちの中で唯一人間となり、悪魔の姿で犯した罪を全て<無かったこと>にしたのよ、あはははは!』
『昔より狂ってる・・・』
『嘘、主があの殺人鬼・・・』
 春樹は顔をふせたまま喋り出した。
「麻智子は二重人格だ。殺人鬼悪魔を裏に持っている。会長から聞いたんだ」
「え・・・麻智子が?」
「夏休み、会長が学校で麻智子に会ったらしいんだ。そしたら金属バットを持っていた。その日は退院してからすぐ学校見学にきてて一人で行動してた。それ何?って聞いたら『お前を殺すための道具だよお!』って言われて殴られた。会長はもちろん内緒にしている。彼女自身気づいてるか分かんないし」
「・・・」
 私はやっとできた女子の親友が悪魔だったということを知り、落ち込んでしまった。
「ごめん、本当に気分悪いから帰る・・・」
「あ、ああ・・・」
「じゃ、明日」
 事実だと思いたくない。私の青春を壊してほしくない。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・!

「ねえ聞いた?大久保さん」
「え?」
「評議委員の美緒が行方不明になったんだって」
「それを聞いて彼氏とか色んな人が精神崩壊。2年1組何人か休みだねえ」
 翌日。私は未だに気分が悪かったが、頑張って行かないといけない。
 しかしこのニュース。絶対レイナ、セイラ悪魔姉妹の仕業だ。
「おはようございます、根本さん」
「あ、シャルル!おっはよー!制服似合ってんじゃん」
「お褒めいただき光栄ですわ」
「堅くなんなくていいよ、ほら行こう!」
 そういえば彼女は根本という名前だったっけ、と思いつつ私は昇降口で会長と春樹を待った。
「お、はやいな」
「へへん。いくら不吉なことがあっても私は負けないから。で、春樹は?」
「・・・自殺未遂して病院送りだ。人の目の前で急に入水自殺しようとしやがった」
「やっぱり、麻智子が好きなんだね」
「ああ、だろうな」
「それじゃ・・・私、先に行くね」
「ああ」
 私が2階に上がると、校長が慌てていた。
「どうしたんですか?」
「あ、ああ・・・。先程白鳥美緒さんが遺体で見つかったと聞いてな」
「え・・・?」
「あ、お、お前は早く教室に」
「はい」
 白鳥さんが・・・?これは彼氏も自殺しかねない。
「おはよ・・・ってわ」
 教室には36台机があるが、その内2つにお花が置いてあった。白鳥さん以外の死者がいる証拠だ。
「ね、どうしたの?」
「うわっ、根本さん!」
「嘘・・・」
 私と違ってちゃんと席を覚えていた根本さんは泣き出した。
「なんで渉や恵美まで・・・」
「ツ、ツラいだろうけどさ。ほら、中に・・・」
「うるさい!」
 根本さんは走ってどこかへ行ってしまった。
 2年1組はこのまま崩壊してしまうの?
「きゃははは!結局人ってのはこういうもんなのねえ」
「レイラ・・・」
「分かる?マーチュリアルもこうやってひとつの学校を滅ぼしたのよ。あんたは逃げ切れるかしら」
「ねえ、教えて。あなたはどこに転入したの?」
「1年よ。あははは!じゃあね」
 空席の目立つ席。私は一人、座る。ぽつぽつとクラスメイトが集まるが皆元気がない。
「マスコミが来てるってよ・・・」
「嫌だね・・・」
 ざわつく教室。先生がやってきた。
「おはよう。今日は残念なニュースがある」
「もう分かってます」
 ひとりの女子が泣きながら言う。ルマが私の記憶を食べて戦い続けているせいか、私には記憶があまりない。
「・・・白鳥美緒さんの遺体が見つかった。マスコミが変に騒ぐものだから当然渡辺渉さんの耳にも入り、彼は入院していた部屋から飛び降り自殺した」
「恵美はどうなったんですか?」
 そこで先生が悠然と一番後ろに座るシャルル、いやセイラに目を向ける。
「昨日の放課後、シャルルさんのためにと巫恵美さんは学校案内をしたそうだな。そのあと家には帰ってない。シャルルさん、何か知らないか?」
「昨日来たばかりで何も知りませんわ。私は下見したわけでもありませんからここで罪を犯すことは不可能ですわ」
「・・・そうだな」
 HR後、先生の薬指を見ると指輪がなかった。私たちに考慮してなのかもしれない。

「春樹、お見舞いに来たよ」
「んだよ、足折っただけなのに」
「そりゃ心配するよ!」
 放課後、私はわざと明るく、病院に入院している春樹のお見舞いに行った。
「・・・俺、ここに運びこまれてやっと意識戻ったと思ったら上の階から誰かが落ちてきた」
「・・・その人、今朝遺体で見つかった白鳥さんの彼氏・渡辺渉さんよ」
「そ、そうだったのか。病院の先生がニュース見るなと言ったのはその為か・・・」
「私のクラスだけで17人いなかったわ。もちろん行方不明者や死亡者含んでよ」
「大変だな。会長は?」
「先生たちと生徒会で会議を行っているわ。保護者にどう連絡するべきか、ってね」
「犯人はあいつらなんだろ?お前か会長が言えば・・・」
「無理よ。証拠もないし、レイラとセイラは『転入してきたばかりだから無理ですわ』ってしばらくは言うことができる」
 重い沈黙の後、私はこれ以上いたらヤバい、と感じとり家に帰ることにした。
「じゃあね。あんたは絶対死なないでね」
「もちろん」
 病院から出たところでスマホをとりだし、ニュースを見る。朱見市立第二中学校関連のニュースがどうしても目立つ。
「うわっ・・・」
 生々しいニュース。これは医師が見るなと言うな、と納得してしまった。
内容→【朱見市にて惨殺死体発見!? 今朝5時半頃、朱見市立第二中学校の裏山にてその学校に通う女子生徒(13)の惨殺死体が見つかった。彼女の顔は整っており、とても美人だったと親族は語っているがその顔が分からなくなるまでぐちゃぐちゃにつぶされていた。警察は犯人の捜索と共に、同校で起きている行方不明事件との関連性を調べている。】
「こりゃ・・・ちょっと・・・」
 白鳥さんは確かに美人だったような気がする。彼女を評議委員にしたらという声も多くあがっていた。と思う。
「やっほ、佳梨那」
 ふと目線をあげると、私が昨年まで所属していたテニス部の親友がいた。誰だっけ。
「やだあ、忘れた?木山みちるだよ」
「・・・」
 私のテニス選手という道を絶った当人だ。当時私の利き手だった右手。そちらを彼女に壊された。だから悪魔に願った。でもダメだった。
「ちょ、そんなに怖い目で見ないでよ~!ね?」
「みちる、あんた何か隠してるでしょ」
「は?なあんにも隠してないけど?」
「じゃあその右腕の包帯は何よ!あんたももうテニスしてないじゃない!」
 みちるは一応責任をとって部をやめさせられた。先輩たちは鼻高娘であるみちるを一切かばわなかった。
「フフッ、バレた?ね、知ってる?私が何であんなボールとばしたか」
「テニス部期待の新人と言われた私を憎んでたんでしょ?」
 おぼろげな記憶。ルマは私の中1の記憶は我慢して食べていない。少々かじる程度だ。
「そうよ。セイラという悪魔に願ったの!でも代償は大きいのね。悪魔は力を使ったら主の肉体を食べるというのだから」
「そう」
 すると彼女の影から何者かが出てきた。死神がよく持っているあれを片手に。
「あはははは!奇遇ねえ。あなたの悪魔と戦っている相手がまさかライバルについてるだなんて」
「でも、それなら転入した意味は?」
「んー犯罪を起こしやすくするため、かな。とにかく」
 ぶんっ、とそのかまを振り回す。彼女はレイラ以上に強そう。さすがレイラの姉だ。
「私たちはただあいつに復讐するだけ・・・!」
 みちるはというと、目がもう完全にダメだった。ああ、そういや自殺した男子が好きだったんだっけ。
「セイラ、私も協力するね!」
 みちるはそう言い残し、走っていった。マズイ・・・!
「さあ対決よ!ルマ!」
『ったく仕方ないわねえ』
「い、いつの間に!?」
『あんたたち学校でしょ?その間回復してたの。まあ、ドゥは主が心身崩壊してるから休戦してるけど』
「フフッ!因縁の対決ね!」
 私は見届けるかどうか悩んでいた。すると、後ろから手が伸びてきて、私の手をつかんだ。
「おい、帰った方がいいぞ」
「会長!あ、そだ。訊きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「主の肉を食べる悪魔もいるの?」
「・・・セイラやマーチュリアルしかしない方法らしい。主は必ず悪魔になり、社会への復帰も不可能となる」
「そ、そうなんだ・・・」
「ルマもその一人かもしれんな」
 ルマを見ると、頬に涙がつたっていた。

「ただいま」
「よかった!佳梨那は無事なのね!」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「白鳥さんが殺されて渡辺くんが自殺って訊いたけど・・・」
「大丈夫だよ、警察に任せておけば」
 私は母親に一般女子中学生らしいことを言った。こうでもしないと私まで麻智子の二の舞だ。
「今日はお父さんがいないから、ステーキにしたわよ」
「え、本当に!?嬉しい!」
 私はこんな小さななことで憂鬱が晴れるのだ。ちょっと馬鹿かもしれない。