神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

第1話 アイドル殺害未遂事件

「ふう・・・。何とか間に合いそう。少しでも遅れたら荻さんに怒られちゃうわ」
 マネージャーがぶつぶつひとりごとを言う。
 私はマネージャーと共に電車に乗っていた。マネージャーは車の免許を持っていないからいつも事務所に頼んで電車を貸しきる。
「少しトイレに行ってきますね」
「ええ、わかっりました」
 私はうきうきしていた。今度は雑誌の表紙。昨年デビューして以来、初めての大仕事。だから私は気づけなかった。
 シュッ
「え?」
 トイレに潜む者に。

「警部~」
「何、大山君」
 ビシッと指をさされて僕は首を竦める。うへえ、今日も可愛いや。
「今日も可愛いですね!」
「あっそ。それよりも事件よ」
 またはぐらかされる。照れ隠しだろう。
 警部とは幼稚園から一緒。本名は吉塚麻梨。僕は大山壱斗(おおやまいっと)
「被害者は南野陽華(なんのはるか)。アイドルらしいけど、マネージャーと共に電車移動中、何者かによって刺された。しかし軽傷である」
「ああ、陽ちゃんか。でも外部の人間は入れないはずだよ?」
「どうして」
「そりゃ超有名グラビアアイドルですからね。マネージャーは車の免許は持たない主義でして、いつも事務所が電車を貸し切りにして移動してました」
「ふうん。なるほどね。一般人が入ろうとしたらどうなる」
「そりゃゴツいおっさんたちにボコボコにされますよ」
「はっ。そんなの突破すればいい」
「も、もし我々が潜入するとしても警察ですよ?あれ見せればきっと・・・」
「無駄だと思うよ~?」
 ぽわぽわした喋り声。中学校から一緒の水嶋柚夏(みずしまゆずか)。警察の中ではいち早く情報を手に入れれる為、かなり貴重な人材だとよく聞く。
「彼らはね皆国家レベルだよ~」
「こここここ!?」
「国家レベルか」
 冷静な警部もまた可愛い。しかし国家レベルとは・・・。
 妖精界ではその会社の規模が大きくなると、国に頼み込んで人を雇うことが多い。
「まあ彼らの犯行は無し。内部で通じるというのも無理。陽ちゃんが所属する事務所は妖精界本国に会社があるからね~」
「・・・つまり、エガン様の笑顔の監視?」
「それは怖いだろう。彼は怒るとその人を死刑にしかねない」
「ん~ますますわかんないや。とりあえず聞き込みよ!聞き込み!」
「大山君、行くぞ」
「はいっ!」
 ああ、まるで夢のようだ・・・。

「お父様、上手くいきました?」
「今回は軽くした」
「つまんなあい!」
「でも次は殺してやる」
「嬉しい♪」

「警部、大分歩いてますけど・・・飛びません?」
「人の過去を知っておきながらなんということを言うか」
 そうだ。忘れもしない11歳の冬。3人で遊んで帰ってきて警部のお母さんのご厚意により外食することとなった。警部のお母さんは魔法を使えない人間と妖精のクォーターだから飛んでいったのに。
 羽ばかりを狙う愉快犯が撃ちおとした。子供の目の前で。幸い、警部のお父さんが支え死ぬことはなかったが。
「しかし、電車を使うなんて凄いですよね」
「日本に憧れを持ったんだろうな」
「ええ・・・あ、ここですね」
 大きなビルは7階建てのようだ。事務所は・・・6階。あとはテナントがない。
「ずいぶんと古いな。テナントは事務所以外0、か」
「さ、行きましょう」
「ああ」
 このあと、僕は恐ろしいことが起きるなんて予測していなかった・・・。

「社長ですか?今音葉病院にいますよ」
「ふ、普通そうですよね?警部・・・」
 警部は珍しく感情をあらわにして怒っている。僕の命はもうない・・・。終わった・・・。
「少し待てば帰ってきますよ。南野さん重傷じゃないですし」
「あ、はい・・・。あの、少しお話を・・・」
「伺ってよろしいでしょうか」
 警部は今までの経験上、僕が言っても効果がないのをわかっている。僕が女々しいから。
 そもそも警部は目が鋭いので正面から見られると怖いらしい。
「はい。あの、私と荻さんでよろしいですか?」
「ええ、どうぞ」
「あの荻さんとは?」
「南野さんの専属カメラマン・・・というか、この事務所に設立当初から唯一残っているカメラマンです」
 呼んできますね、と言い残し受け付け事務さんは消えた。
「少し気がかりだ」
「どうしました?」
「唯一というのがな」
「ああ、そういえばここってまだ26年ですもんね」
「凄い古い事務所でもないのにな」
 確かに変だ。この部屋だって、26年前からそのままみたいな雰囲気が伝わってくる。
「お待たせしました。こちらが荻さんです」
「どうも、カメラマンの荻です」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
「はは、そんなに緊張しなくていい。陽ちゃんがうれなくなったらどうせこの事務所はなくなるんだ」
「どういうことですか」
「まあ簡単に言うと、この事務所は社長のお遊び場だ。社長は金を自分で使うから」
「そういえば大西社長ってお金持ちですもんね。あの高級住宅街に住む・・・」
「大山君、今すぐ社長に電話しろ」
「は、はい!?突飛すぎませんか!?」
「先ほど、社長からメールがありましたけど、帰ってくるみたいですよ、ほら」
 そこにはどん、と男が立って寝ていた。
「立ち寝!?」
「おい、社長さん。起きろ。妖精界本国警察署警部の吉塚麻梨だ」
「ああ、そうかい・・・。警察・・・け、警察!?」
 ハッとして起きた社長。身なりはかなり凄い。うん百万服と靴にお金をかけてそうだ。
「いや、失礼しました。大西事務所社長の大西渉です」
「南野さんについて聞きたくて」
「あ、彼女ですか・・・。親から虐待を受け、家出してきたという彼女を家に招きました。そしたら当時の妻が『あの子、モデルになれるんじゃない?』と言ってきたもので・・・」
「虐待ですか。家出してきた彼女はボロボロでしたか」
「ええ、まあ・・・。服なんておばさんにもらったという学校の制服で。それが切り裂かれてる所もありました。顔にも傷があり、血が出てましたよ」
「ひどいですね。とりあえず私たちは南野さんに会いに行きます」
「あ、はい・・・」
 さっさと立ち去る警部について行こうとすると、呼び止められた。
「あの警部さん、いつもああなのかね」
「ええ、11歳の時からずっとあんな感じですよ?」

 音葉病院は社長が住む高級住宅街のあるティラミス帝国にある。幸い、荻さんがおくってくれるという事になった。
「しかし、社長は南野さんのように自分の娘を虐待したことがありますよ。まあ、噂ですけど」
「・・・でも、僕的に社長さんいい人に見えますが」
「後で罪歴をティラミス国警察署警部の南子(みなこ)さんに聞け」
「は、はい・・・」
「さ、ここだね」
 僕は一度もここには来たことがない。母に言わせると、「医療費が高い」だそうだ。
「迷うなよ」
「はい・・・」
 確かに迷いそうだ。案内地図には院内にも大学に通じる通路があると。そしてそれが別のに―
「おい、早く行くぞ」
「はい・・・」
 やっぱり、警部の威圧感は半端ない。

「ああ、南野さんですね」
 南野さんの主治医も愛想があまりよくないという天才少女・音羽医師だった。
「ああって・・・音羽医師!患者ですよ?」
「私はね今患者が10人いるの。彼女は軽い方よ!精神の方が悪いだけ!」
「あ、はい・・・」
 音羽医師の威圧感に僕はビクッとなる。
「女々しい」
 と警部は呟いた・・・。
「精神ですか。どうしたのでしょうか」
「うわ言ばかりでまともな会話は不可能です」
 病室に案内される。あの陽ちゃんと会えるのだ!
「ほら」
 そこには陽ちゃんの太陽のような眩しい笑顔はなく、悲しそうな顔でぶつぶつ何かを言う女性だった。
「どうして・・・どうして・・・あいつが・・・」
 かわいらしい声の面影はなく、どこぞやのホラー映画みたいになっていた。
「ショックで記憶をなくしているから前の彼女とは正反対よ」
「え・・・」
「この姿を見てファンである大山君はどう思う」
「こっちがショックで倒れますよ!」
「早く入ってみてください」
 蹴られる。そのはずみで警部にぶつかる。
「キャ、触んなバカ」
 ああ、かわいい!
「南野さんですね」
「ひゃっ・・・多分」
「犯人は見ましたか」
「見てない・・・多分」
 このあとの質問の回答にも多分をつけ、ショックはかなり大きいみたいだ。
「音羽医師はどう判断しますか」
「長期休暇を強制させ、1年以上治らなければモデルは引退、楽園送りにすると社長にも説明しておいた」
「精神異常患者が行くあの楽園・・・」
 通称・楽園と呼ばれる精神異常患者治療施設。事件が解決しなければ二度とあの美しい体を見れなくなる。
「社長は青ざめましたよね」
「もちろん。『荻くんはどうなるだろう』と」
「社長、かなり怪しいけれども社長の家には家宅捜査に入れない。南子に相談しなくちゃ」
 病院から出てぶつぶつぼやいている警部。家宅捜査する気・・・?
「社長!それはまずいだろ!?うちの事務所にはもう30過ぎた奴しか残ってねえだろ!あ?医師に言われたから?そんな医師殺しちまえよ!」
 荻さんだ。警部はまだぼやいている。
「あの、警部・・・」
「どうした」
「荻さんが社長と電話してますけど」
「・・・これは少し怪しい展開だな。とりあえずティラミス署に行くぞ」
 荻さんは怒りで顔が真っ赤だった。

「ねえ、社長。うちにいるグラドルって皆もうダメですよね」
「ああ。荻の奴も怒っている。どうするかな」
「まあとりあえずどうにかしましょうよ。私、24ですからグラドルなれますけど」
「君が?まあ万が一のためな」
「はい」

「南子警部ですか?あ、今来ると思いますよ」
 するとボサボサの髪の毛の少年と共に南子警部が現れた。
「こんにちは、吉塚警部。私はご存じの通り、華上南子です。こちらは刑事で私の恋人の林修平です」
「・・・どうも」
 暗い印象の彼があの天才警部とカップル?ありえなさすぎる。
「まずは社長の罪歴を」
「はい。大西渉、59歳。5度の離婚をしている。ちなみに5回目の離婚は南野さんがデビューすると決まってからのいきなり。彼は3人目の奥さんの時、違法薬物所持で逮捕。あと盗撮とかでも逮捕されています」
「とととと盗撮!?」
「女々しいお前には出来んことだ」
 あっさり言われる。確かにそうかもしれない。
「そしてあの事務所。ほぼ経営破綻の状態です。所属するモデルは南野さん以外皆30代。グラドルってのは20代が限界だと別の刑事から聞きましたが」
「その通りですよ!」
 つい声を荒らげてしまって、近くの交通課の婦警さんに睨まれる。
「他国で恥をかくな、このバカ」
「す、すみません・・・」
「そうね。グラドルって30代が近づくにつれてテレビで芸能活動を始めますから」
「で、ですよね!」
「で、結局どうなんだ」
「そんなこと言われましてもね。社長の家に家宅捜査に入ろうとするまで結構疲れますよ。貴族もあそこにいますから白い目で見られますし」
「え」
「構わないから早く許可書」
「・・・凄いですね。はっしー、第一捜査課の人呼んできて。私は署長さん呼んでくるから」
「うん、わかった」
 僕は何となく心配。警部は確かに強いけど、僕が守るべきだよね?
「全く・・・ほら、許可書」
「ありがとうございます」
 久しぶりに警部が笑う。これは営業スマイルか・・・。

「ねえ、またかしら」
「本当に物騒ですわね」
 きらびやかな服装の女性や男性がいる。小さい子の服でさえ、きらびやかだ。
「奥か。ちょっと疲れたからおぶれ」
「えええええ!?け、警部を!?」
「昔はしてくれただろう」
「・・・いいですけど」
 はっきり言うと警部は胸がでかい。それが背中にあたるなんて・・・ぞくぞくする。
「け、警部・・・何kgですか」
「42」
「・・・」
 学生時代から変わらない体重。中学生の頃、他の女子との『ねえ何kg?』『42』という会話を聞いてしまっている。
「もうすぐですね」
「うむ。・・・あれじゃないのか」
「うわあ・・・」
 高級住宅街の奥地に海まで独占してんのか!?と思ってしまう家があった。
「すみませーん」
 僕がインターホンを押すと、門が勝手に開いた。ハ、ハイテク・・・!
「何門が自動で開いたことぐらいでビビってんだ。こんなの当り前だろう」
「警部、それを平然と言わないでください、傷つきます」
 すると、そこそこ年老いたおばあさんが現れた。
「おやおや。あの子、また何かしたのかい?」
 口調からして社長の母親とみてよいようだ。
「彼が経営する事務所に所属するモデルが殺害されかけました。彼について詳しくお話を聞いてもよろしいでしょうか」
「ええ、構いませんよ」
 何度も息子は犯罪を犯しているせいかその老女は警察慣れしていた。

 広間に案内され、座るのを勧められ座った。ふ、ふかふかだ!
「渉はねえ、小さいころからガキ大将って感じで威張りん坊でしたよ」
「なるほど・・・」
「納得するな」
「ふふふ。この警部さんを見てると渉の最初の奥さんを思い出しますねえ」
「・・・社長の性格からして私みたいな人とはどうも合いそうにありませんが」
「ええ、その通りです。もう亡くなりましたが私の夫は渉が離婚してまた結婚するたびに憤慨してました。『いつになったら孫が見れるんだ!』って」
「あ、あのいったいあなたは何歳でしょうか」
「こら、何という事を聞く」
「いいんですよ。わたしは16で渉を産みました」
 それを聞いてついぽかんとしてしまった。
「75歳ですか・・・」
「ええ。私が学生結婚でさっさと幸せをつかんでいたので夫も同じようにさせようと頑張ってましたよ」
「ところで社長に娘っていたんでしょうか」
 警部がズバリと聞く。ああ、僕が聞きたかったのになあ。
「3度目の結婚の時ですね。いまから・・・24年前のことです」
「・・・その娘さんは今どこに?」
「その後保護した子がいてねえ、その子のマネージャーさんになったよ」
「え」
 警部は冷静にもう一度目の前の老女に言う。
「つまり、南野陽華さんのマネージャーですね」
「ああ、そんな名前の子だったねえ。凄くスタイルが良くて私は服を買って着せるのが楽しかったよ」
「おばあちゃーん」
 このだだっ広い広間の入り口から手を振る若い女性が。あれが陽ちゃんのマネージャーで社長の娘だろうか?
「おやおや。どうしたのかね」
「あのね、お父さんがいないの。心当たりない?」
「!?」
 僕は驚いて、背もたれに倒れた。
「この人たちは?」
「私たちはあなたがマネージャーをしている南野陽華さんの殺害未遂事件について調べる妖精界本国警察署の警部・吉塚麻梨だ」
 少し鋭い口調、ということは彼女も疑ってるのかもしれない。
「ああ・・・。そうですか。お父さん、病院にお見舞いに行くって言ったきりで」
「事件に巻き込まれたんじゃないんですか。ま、ここは私の管轄下ではないので」
「あ、すみません・・・」
 警部の口調と放たれるオーラ(威圧感)に押されている。うん、警部って怒ると怖いもんな。
「それと、共犯ならさっさと自白したらどうですか」
「!!」
 驚きで目を見開いている社長の娘さん。
「あらあら。そうなの?」
「・・・」
 空気が凍り付いていく。社長のお母さんの声がよく響く。
「お父さんがあいつばっかり愛すから悪いのよ!」
 ワープして消えてしまった。ああ、なんていうことだ!
「大山君、追え」
「えええ!?無理ですよ~!」
「事務所に行こう。今頃取り払っているはずだ」
「まずいじゃないですか!」
「ほら、ワープ」
 渋々とワープをした。

「ほら、荻さん!早くして!」
「ああ・・・」
 やっぱり、逃げようとしてる!
「待て!」
「きゃ、見つかっちゃったわ!!」
 逃げようとするが、警部が止めた。
「はい、逮捕」
「・・・」
「荻さん、あなたも共犯者として逮捕」
「何のことだい?何もしてないだろう?」
「いいや。ワープして、着地した場所・社長室に死体があった。それが何よりの証拠。そう、荻さんが殺した」
「・・・」
「まあ、せいぜい警察署で罪をはけよ」
「警部かわいい!」
「黙れ」
 ああ、やっと解決した・・・。

 昼食時。警部が見当たらないので、柚ちゃんと食堂に向かう。
「え?そうだったの?柚ちゃん」
「うん。何かね~陽ちゃんと社長さんの娘・美香ちゃんは気が合わなかったって。しかもね、お父さんを取ってた状態に美香ちゃんが怒ったらしいよ~」
「ふぇえ・・・」
「はあ、疲れた時にはこれに限るな」
「警部!」
「抱きつくな」
 鋭い目で睨まれる。ひええ・・・。
「ねえねえ、麻梨たん。それって月見天丼だよね・・・?」
「ああ」
 メニューにあるより3倍以上の高さ。これはどういうことだ!?
「真実を話さない容疑者を相手にしていたら疲れた、と言えばこうなるぞ」
「え」
 柚ちゃんと顔を見合わせて笑ってしまった。
 ともかく事件解決!