神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCALOID学園 第28話「消えた少女」

 私はいつもどおり目覚める。そして、声をかける。
「おはよう、リリィ」
 でも返事がない。早起きのリリィにしては珍しい。しかも高等部の入学式なのに。
「・・・?」
 起き上がってリリィのベッドを見るものの、誰もいない。お散歩?と思ったが、リリィの机周りがスッキリしている。
「どうしたのかな・・・」
 怖くなって、レンくんのところへさっさと向かった。
「お、マユ。早起きとは珍しいな」
「レンくん・・・」
 レンくんの顔を見て、わっと泣き出す。堪えきれない。
「ど、どうした?」
「リリィが、いないの。消えたの!」
「え?確かあいつ、旅行だったよな?」
「うぅ・・・」
「とにかく落ち着けって」
「おはよーレンってうわ、何やってるの」
 リンちゃんがやってきた。今年から寮生活を許可されて大喜びしていた。
「おはよう、リン。いや俺は泣かしてないからな」
「知ってる。リリィは国外に旅行行ったってよ」
「は?」
「同じ学年の子たちに聞いてまわったの。旅行先で金髪の女の子を見なかった?って」
「どうして訊いてまわったの?」
「だって、原則3日前には寮生全員戻るようにって言われているのよ?帰ってこなきゃあ、あたしは怪しいと思うけど」
「とりあえずさっさと朝食食べて落ち着こう。な?」
「うん」
 レンくんとは春休みから正式に付き合っている。リリィにはメールをしたが、返信がない。
「おー来た来た」
 グミちゃんが軽く髪を結んでいる。いろはちゃんは後ろに一つに結んでいたのを2つにしている。ラピスちゃんはイメチェンをしなかったっぽい。
「まず、ここの寮の監督が何も言わないことから転校したのは確実だねえ」
「そうにゃ」
「え?」
 信じられない。どうして?どうして、転校なんか・・・!
「残念ながら事実だよ。お二人が仲良く出掛けたりしている間リリィは家族と一緒にいたのだよ」
「っ・・・」
 涙がとまらない。レンくんが朝食のパンをとってきてくれたので必死にかじる。味は分からない。
「あーリリィさん?この紙を置いていきましたよ」
 寮の監督の先生はそう言った。
「嫌あああああ!」
 私は泣き叫んだ。

 とうとう上級生である。生徒会長でもあるので入学式で挨拶をするのだ。在校生代表には声が大きくてよくとおるネルが選ばれた。
「うう、上手く言えるかなあ」
「まあ頑張って」
「うん・・・」
 ハクはリンちゃんの目の前で切った髪がやっと元のロングになりつつあったのにまた切った。理由としては変わりたいからだとか。
「メイコ先生、カイト先生とすっかり話しこんでるよ」
「あらあら」
 ミリア先生の件についてはレオンさんたちを逮捕し、ミリア先生を静養させることで落ち着いた。もう先生には戻れないだろう、とまで言っていた。
「ねえミク。ひとついい?」
「ん?」
「ミク、Cに落ちないでね。今までギリギリなんだから」
「うん、そだね。頑張ってみる」
「おーい!ミク、そろそろ行くよ!」
「あ、うん。じゃ、後で」
「うん。この最後の一年間を最高にしようね」
 ハクは少し涙目だった。
 入学式後、5年生になりすっかりお姉さんっぽくなったユキちゃんに遭遇した。
「ユキちゃん、どう?」
「うーん全然です。クラスメイトが増えてキヨテル先生擁護派ももちろんいて。すごく大変なんですよ」
「そっかあ」
「それよりも、ミク先輩。彼氏作ってくださいね」
「そ、それは言わないの!」
「ふふっ」
「ミク」
 楽しくしゃべっていると、深刻そうな顔をした鳥音と杏音がやってきた。
「リリィちゃんが転校したんだって」
「マユちゃんに内緒で、ね」
「それで浮かない顔だったの・・・?」
「見えたの?」
「そりゃあ、だって新入生代表はマユちゃんだよ。近くにいたし。それにリリィちゃんが辞退してたんだよね」 
「・・・」
「その時点で言うのはマズいかなあって考えて」
「ふうん、そうなんだ」
 ユキちゃんは空気を読み、ペコリと頭をさげて去った。
「生徒会メンバーは大抵知ってるよ。推薦したのなんてナオくんとかメルちゃんだし」
「グミたちが聞いたら大変だね・・・」
 携帯が鳴る。ルカ先輩から。
「もしもし」
『もしもし、ミク。今、屋上にいるの。来てくれるかしら?』
「え?」
 なんで、と思いつつ屋上?と首をかしげてしまう。
「屋上なんてあったっけ」

 巡音ルカ。私だって知ってる。模試で満点とった有名人。なのに今は大学に行かず芸能界にいるという。よく分からない人だ。
「ここかな・・・」
 この学園は部外者には甘かった。ルカ先輩の知り合いです、と言うだけで通してくれる。アリス学園じゃありえなさすぎる。
「うわ、お嬢様じゃん」
「アリス学園の奴が・・・」
 男子はニタニタと、女子は羨ましそうに私を見る。
「イアちゃ~ん!」
「ゆかりちゃん来たの?」
「うん♪」
 屋上はどうやら本当にあるようで、校舎の3階からあがる。
「よく来たわね。頼みがあるの」
「頼み、ですか?」
「ええ。マユのことは覚えてるわよね?」
「イアちゃんを傷つけた悪いやつ!」
「ゆかりちゃん、ちょっと黙ってて」
「むう」
 ルカさんは笑ってくれた。優しい。
「彼女に会ってほしいの」
「え?」
 突拍子もないことを言い出すものだ。

 私は部屋にこもる。新しい同居人が来たら殺す、と脅したので誰もこないはず。
「リリィ・・・」
 私にとって友達はイアとリリィだけ。イアを失い、リリィまで失うなんて、嫌。そんなの、嫌。
「イアに会うなんて無理だよね・・・はあ」
 彼氏を自慢したい。でも、事件を機にお父さんもイアとは会えないようにした。
 その時、ノックの音が聞こえた。無視、無視。
「マユちゃん、私よ。巡音ルカ
「え!?」
 慌ててあけると、ルカ先輩と・・・イアちゃんと、怒っているゆかりちゃんがいた。
「ど、どうして・・・」
「久々に話そうよ」
「気がのらないけど、イアちゃんについていく」
「ゆかりちゃんとどういう関係なの?」
 目を丸くする私に2人は照れくさそうにする。
「恋人・・・なの」
「え!?」
 ルカ先輩はフフッと笑い
「それじゃあ、仲良くお話してね。私はそろそろ収録があるから」
 でていった。
「そこ座って」
「ねえ、これ何?」
「ああ、それ?」
 レンくんの抱き枕に目を丸くしているイアちゃん。でも、ゆかりちゃんがすぐに鼻息を荒くしながら説明しだした。
「これはね、大好きな人の抱き枕よ!私もイアちゃんの抱き枕持ってるの!」
「え?そ、そうなの?あ、でもマユって・・・」
「私ね、リリィからレンくん紹介されてすごく嬉しかった。ミズキ先輩を忘れさせてくれるぐらいかっこよかったの。レンくんは彼氏なんだよ」
「よかったじゃん」
「えへへ」
 久しぶりに話せて、とても楽しい。

「うまくいきましたか!?」
「ええ。まさか久しぶりに話したいと思って来たらあんなこと頼まれるなんて」
「マユちゃんを元気づけるためです!」
 マユちゃんの親友・イアちゃんの電話番号をなぜかルカ先輩が知っていた。理由としてはCULさんに秘密にしてと言われたので言えないとか。
「まあ、でも継続的な支えは必要よ?イアちゃん達は名門の学園にいるんだから外出許可なんて簡単におりないはずよ。イアちゃんはともかく、ゆかりちゃんは寮に住んでいるらしいから」
「あ、そうですよね」
 この学園と違い、警備はもちろん固く外出許可なんて滅多におりないらしい。
「それにしてもリリィに何かあったの?」
「あ、はい。レンくんと距離を置き始めたと思ったら、消えちゃって・・・」
「ふうん。つまり、逃げたのね」
「え?」
「苦しくて、逃げた。マユちゃんとレンくんが付き合い始めて苦しくなって。テイのようにきっぱり言えなかったのね」
「ああ・・・」
 私は恋愛経験などないためよくわかんない。
「支えてあげなさいね。次はいつ来れるかわからないわ。じゃあね」
 ルカ先輩みたいになれるのか不安になった。

VOCALOID学園 第20話 ハッピー☆サマーバケーション~そうだ、海に行こう!~

「うへえ、私だけぇ?」
「ミク、頑張って」
「うぅ・・・」
 この学園は勉強熱心ではないため、特に成績の悪い者のみ夏休みに補習があるのだ。ちなみに始業式は9月になってから。
 私はなんとか補習に通う。(夏休み中はネルたちの部屋に泊まらせてもらっている)
 昇降口から冷房が程よくきいた校内に入る。すると、見覚えのあるバカップルを見つけた。
「ピコくん、このあと海に行こうよ」
「いいね、ミキちゃん。水着はビキニ?」
「きゃっ、もう恥ずかしいっ」
「えへへ」
「・・・」
 なぜここに、と思いつつ近づく。
「あの、なぜ2人が?」
「生徒会の打ち合わせだよ。文化委員会委員長ととりあえず仲直りしたいなあって」
「え?」
「去年の打ち上げで予算が削れたのに怒ってたんだよ。ね、ミキちゃん」
「うん」
「あー、なるほど」
 私は代々察した。酒好きな先生も打ち上げに参加したと私は噂に聞いていた。つまり、ほとんど酒代である。
「でもそれなら委員長の家に行けばいいのでは?」
「委員長に連絡したら学校で会おうって返事されたんだから仕方ないじゃん」
「そ、そうなんですか」
「僕らはもう用件すんだから海に行こうよ、ミキちゃん」
「そうだね、ピコくん」
 先輩と別れ私は補習へと向かう。メイコ先生とのマンツーマン。
「B組で補習だなんて本当びっくりよ、ミク」
「メイコ先生以外は・・・」
「全員Cにいるわよ。ほら、さっさととく」
「はぁい」
 補習が終わったのは12時前。今日はずいぶんと早い。
「私も用事があるのよ」
「えっ」
「あらメール・・・んもうっせっかちねえ」
 ダメだこりゃ。先生もリア充の顔をしている。
「で、ではまた」
「ん」
 教室から出るとネルたちが待っていた。
「海、行こうよ!」
 私は即答したけど、スク水しか持っていない。その事実にネルたちはびっくりする。
「今時スク水オンリーなの!?」
「いや、今時って言われても」
「じゃあついでに買ってから行こうよ!」
 リンちゃんが元気よく発言する。うっ、買うの?
「面倒だなあって思わないでくださいよ~」
「そうにゃ」
「そうと決まれば行きましょう!」
 町を歩くが、やはり暑い。すると一台のリムジンが私たちの横で停まった。
「ごきげんよう」
「うわっ、マユちゃん」
「皆様もお出かけ?」
「うん、そうだよ」
「まあせいぜい頑張って」
 そのままリムジンは走り去った。
「ずいぶんとお嬢様だね、さっきの子」
「鳥音、知らないの?マユは聖アリス学園から転校してきたんだよ」
「えっ!?お嬢様・・・じゃん・・・」
「とりあえずそこのショッピングモールに入るにゃー」
「うん、そうだね」
 ショッピングモールは夏一色。水着が売っているところはすぐ見つかった。
「思い切ってビキニは!?」
「リンちゃん、やめて」
「ミク先輩にはこっちが似合いそうですねえ」
「ラピスちゃんまで!?」
「じゃあ、みんなで探そうよ」
「さんせーい!」
 全く・・・と思いつつ、私はこれまで授業以外で水着だなんてきたことがないことを思い出す。
「ああ、どうしよう」
 数分後。皆はそれぞれ水着を持ってきた。
「ね、どれがいい?」
「鳥音のがいいかな」
「え、そう?ビキニ嫌そうだったから選んだんだけど」
「うん、それかわいいよ」
 ミントグリーンのワンピース風のヒラヒラした水着。迷わずそれを選び、買った。
 海に着くと、たくさんの人で賑わっていた。
「さあ、着替えるよ!」
 リンちゃんは淡い黄色のビキニ。ひまわりの柄がリンちゃんらしくていい。
 いろはちゃんは猫柄のビキニ。一体どこでみつけたのか少々謎になる。
 ラピスちゃんは水色のビキニ。ビキニだが、下がスカートみたいになっている。
 グミちゃんは緑色のビキニ。チェック柄が可愛い!
「ネル、ハク、鳥音はまだ?」
「あ、今着替え終わったよ」
 ネルは黄色のビキニ。谷間のところにあるリボンが可愛い。
 鳥音はピンクのハート柄の水着。ちなみに杏音も同じのを持っているらしい。(ワンサイズ上)
 ハクはというと。
「・・・うわお」
 髪色と同じ色。それに紫の水玉。
「何より胸でかい!」

VOCALOID学園 第19話 「がくぽの選ぶ道」

 神威がくぽ、36歳。4月からテトと入れ替わるようにニートとなってしまった。カイトが元々住んでいた家を譲ってくれたから助かった。なにせ、今まで黙っていた両親が「家を出ていけ」と拙者に突然言ったのでござるから。
「ところで、がくぽ。僕を何で呼び出したの?」
 学園の近くにあるカフェ。昼頃のため、色んな人がいる。
「拙者のこれからを・・・相談したいのでござる」
「え?僕の仕送り金じゃ足りなかった?」
「6万円は結構な額でごさるぞ」
 あの学園の給料システムがよく分からぬが、メイコとカイトのお給料を合計すると結構余裕があるらしい、と拙者は聞いている。
「ただ、拙者はこのままだと結婚も出来ず、両親から縁を切られるでござる」
「んーそっかあ。僕は結構ギリギリまで大学悩んだんだよね、懐かしいなあ」
「結局どうやって決めたのでござるか?」
「めーちゃんも優柔不断だったんだけど、僕たちはとりあえず大学行こう、って決めたんだ」
「なっ・・・」
「それで、『音楽教師かあ、面白そう』ってノリで・・・学部を・・・」
「全然参考にならないでござる」
「あはは、でもとりあえず趣味から自分の行きたい大学決めたら?学園の大学には出入り禁止だからそれ以外で」
「うむ」
 カイトは先程からこのカフェの看板商品・スペシャルアイスを堪能している。めーちゃんには止められててねえ、とノロケつつ。
「あ、カイト先生」
「おやマキさん。皆さんお揃いで」
「うっ」
 皆さん?ということは・・・。
「うわ、留年男、うわ、キモッ」
「ささら、言いすぎ」
「そうだよ」
「いいじゃないかつづみ。これぐらい言わないと」
「・・・」
 改めてやってきたメンバーを紹介すると、中央にいるのが弦巻マキ。若干口調がキツい。
 そしてその左横にいるのがさとうささら。さらに物言いはキツく、なぜか拙者に対して毒舌が流暢になる。
 ささらの左横でささらをなだめるのがすずきつづみ。彼女についてはよく知らぬ。
「マキさん、早いですって」
「吉田くん、君が遅い」
「あんまりじゃないですか」
 息を切らしてやってきたのはマキと同じくらいの古株・吉田くん。下の名前はジャスティスとかいろんな噂がある。
 ささらは拙者を睨みながら話し続ける。
「それで、留年男。何してる」
「拙者の将来をカイトに相談してたでござる」
 はあ?とささらが呆れた感じで言う。お願いだからこれ以上睨まれるのは・・・。
 するとささらの横でつづみがあ、と声をあげた。(しかも笑顔)
「ささら。この人の料理って美味しいらしいよ」
「え?そうなの?」
「つづみが言ってるとおりなら、料理家とかどうかな」
「おお、マキ殿ありがとう」
「いいえ。さ、私たちはあっちの席に座るとしよう」
 料理。それは二回程人に振る舞った。
 最初はメイコ。お誕生日に、とクッキーをあげたが細々と「ありがとう」としか言われなかった。(当時のメイコは今と真逆)黒歴史に近い。
 2回目はテイ殿。「腹へったから何か作れや」などと体育祭練習後に言われ、テイ殿のためにケーキを作った。テイ殿は大喜びでケーキの写真を撮り、拡散した。美味しいと言ってくれたかは覚えていないが、拡散した際に美味しいとでもコメントをつけたのであろう。
「さて、そろそろ帰らないとね。お昼終わっちゃうし」
「ああ、そうだな」
 すると、見かねたようにメイコが現れた。相変わらずの露出多めな服である。
「バカイト、早く帰らないと雨が降りだすわよ」
「わかった、めーちゃん」
 メイコは腕をカイトの腕にしっかりとからめていた。
 拙者は、もう諦めるべきなのか。

「うわ、おあつい」
「え?何々?」
 窓から下を見ると、メイコ先生がカイト先生とぴったりくっついて歩いてた。
「授業開始する前にわざわざ出ていくぐらいだからねえ」
 ネルはニヤニヤしている。鳥音は首をかしげている。
「あの先生たち、付き合ってるんですか?」
「うん、そうだよ。ね、ハク」
「う、うん。結婚するんじゃないかな」
 『授業開始しま・・・あ、大事なものを忘れてたわ!とってくる!』とメイコ先生は言い残し、あっという間に出ていった。大事なものと言いきるのだから、結婚はしちゃうかも。
「へえ、いいなあ」
 杏音が近づいてくる。
「いい加減にして!!!」
 杏音が叩かれた音が教室内に響いた。

VOCALOID学園 第18話「U」

「テレビに出れるよ~」
 マネージャーの琴葉葵さんがそう告げ、入ってきたのは2枚目をどうするかと話し合っている最中だった。
 5月。少し鬱(いわゆる五月病?)なテトさん以外目を輝かせた。
「おおっ!」
「デビュー曲がかなり売れたから今度出してもらえることになったの。もちろん、トークから歌まであるから自己紹介きちんとしてね」
「じゃあ、練習しましょう!テトさん」
「分かったお」
 やはりダルそうだけども、まあ大丈夫でしょう。
「それじゃリーダーから」
 目をしゃきんっと開け、背筋を伸ばす。おおっ!
「リーダーの重音テト、永遠の10代ですっ☆担当はベース!」
「男にもなれる、女にもなれる万能メンバー、ドラム担当の欲音ルコです!」
「バンドメンバーの癒しキャラ、作詞・メインボーカル担当の健音テイです!」
「赤き天使☆キーボード担当、CULです!」
「ギター担当、巡音ルカです!」
 するとなぜか葵さんのお姉さん、茜さんが乱入してきた。
「あかんあかん。もう少しちゃんとしたキャッチフレーズで心をつかまなあかんよ」
「お姉ちゃん、口出ししないで」
「あんなあ、葵。このままやったら「U」は落ちぶれるで?いいか、ちゃあんと言うんや」
 とりあえずやり直し。
「永遠の10代☆リーダー、ベース担当の重音テトですっ」
「男の心も女の心も持つ☆ドラム担当、欲音ルコですっ」
「癒しキャラクター☆作詞、メインボーカル担当の健音テイですっ」
「赤き天使☆キーボード担当、CULですっ」
 私の番。だが、キャッチフレーズが浮かばない。
「キャッチフレーズが浮かばんのか?」
「ええ、そうです。こんなこと卒業するまでやったことがなくて・・・」
「そういえば親が厳しいんだっけ?」
「知らなかったお」
「生徒会長さんでしたからねえ」
「うーん、せやなあ」
 しばらく悩んだのち、こう言い出した。
「優等生からバンドメンバーへ華麗に転換☆とかどや?」
「優等生からバンドメンバーへ華麗に転換☆ギター担当、巡音ルカですっ」
「うん、いいよ」
「あと、うちからもう一つ提案があるんやけどいいかな?」
「え?」
「テト、ルコ、テイ。あんたたちを知る人がマスコミに万が一情報をもらし、週刊誌を騒がせればもう終わり。だから、本名はCULみたいに伏せるべきやねん」
「CUL、どういう風に名前つけたんだお?」
「私の名字がかから始まり、名前の最初がるで始まるから・・・」
「じゃあ私はMERとかどう?」
「いいね、ルカさん」
「ん、じゃあテイはSUI(スィ)とかどう?」
「テトはどうなるんだお?」
「・・・そこが問題なんだよね」
 葵さんが笑顔になった。
「じゃあ、KAT(カトゥ)、LI(リイ)!」
「ええと、KAT、LI、MER、CUL、SUI。うん、これで分からない」
「テトはこの髪型を少し緩めるおー!あとめーちゃんとバカイトに皆の口封じを頼むお」
「じゃあ俺も昔の仲間に口封じを頼んでくる」
「え、ちょっとルコさん!?」
 ルコさんは飛び出していった。
「あいつ何者なんや」
「出身地不明、年齢不明。昔だなんて聞いたことないわねえ、CUL」
「そうだね」
「ただ教養はかなり低いおーこのテイに負けるバカだお」
「はあ!?わ、私がバカですって!?」
「そうだおー」
 騒がしいなあ、と思いつつ私は少し外に出た。
「・・・俺のことを知れば皆、俺を嫌いになる。確実に、だ」
「?」
 どうやら携帯で電話をしているらしい。うーん、聞こえにくい。
「ミス・レアロ。分かってる。あなた様もお嬢様は裏切らないと。だが、万が一のことがある」
 レアロ?誰?お嬢様?
「ただ、マユがリリィと共に俺のことを-ない?ああ、よかった。それじゃくれぐれもよろしく」
 マユ!?リリィ!?二人とどういう関係が・・・?
「さあて、少しブラブラしようかなあ、ルカ」
「ば、ばれてた?」
「当たり前だよ」
「さっきのは何?」
「・・・レアロは、孤児だった俺を育てあげた人だ。なのに、14になった俺は家を出て犯罪をおかした。今は何歳かというのも忘れるくらいに、ね」
「・・・」
「気にしなくていい。俺の記憶はいつも曖昧だから」
 さあ戻るぞ、と言いルコさんは入っていった。
 相変わらず変な人だなあ。

「テレビ!?ええええ!?嘘、何に!?」
「めーちゃん、落ち着くんだお」
 帰ってくるなり、テトはあり得ないことを報告してきた。
 「U」はデビューしてからまだ1月程。恒例の体育祭について会議がこの間行われたばかりなのに。早い。
「んー6チャンネルのMスタだお」
「はあ!?い、いきなりあんな高視聴率を稼いでる番組に・・・」
 Mスタとは、春歌ナナという人気歌手が司会をつとめ、毎回視聴率20%超えは当たり前という音楽番組のこと。その春歌ナナでさえ、今は放送していない小さな音楽番組でデビューを果たしたというのに。すごすぎる。
「それと、私の過去はバラさないよう言ってほしいお」
「あ、うん。当たり前よ」
「カトゥという名前もらったお」
「本名が推測できなくていいじゃないの」
 するとバカイトからメールがきた。
『同居の件、どうなってる?』
「そうだ、テト。一つ思いついたんだけど」
「ん?」
「ルコ、テイ、ルカ、CULと一緒に住んだら?私ね」
「ああ、バカイトとやっと同居?」
「うっ、分かってたのね」
「ルコが一人暮らしだから、その家に住まわせてもらうってのは前から決まってたお」
「へえ、そう」
 元々ニートのテトを世話してただけだ。また、会える。
「そうだ!観客として数人誘っていいって言われたからめーちゃん、バカイト、がくぽを誘うお!」
「・・・ルコ、テイ、CUL、ルカは了承してるの?」
「もちろんだお!」
「いいわよ、行くわ」
「じゃあ、寝るおー!」
 まだ髪も乾かしてないのに、と思ったが私は敢えて無視した。

 最近、勉強が難しい。だからハク、ネルに教えてもらっている。
「いっつもごめんね。最近はほぼ連泊で・・・」
「いいよ、気にしないで。ね、ハク」
「うん。私たちも復習になるから全然構わないよ」
「あはは・・・」
 背中をいきなりバシッと叩かれた。
「おっはよー!」
「うわっ、メイコ先生」
 なぜか機嫌がいい先生は笑顔で怖い事を告げた。
「次のテストで450点以上とりなさい!それが夏期補習の対象から外れる条件よ!」
「えっ」
 私がしょげていると、喋り続けた。
「それと、来週のMスタ。「U」が出るから」
「えっ!?」
 それには顔をあげて喜んだ。
「凄いですね!あの春歌ナナと共演だなんて・・・」
「ナナさんって新しい曲を来週のMスタ披露するらしいよ」
「ハクも好きだもんね」
「うん」
 Mスタ、春歌ナナ。テレビを見ない私にはちんぷんかんぷん。どちらかと言えば読書に専念してたから・・・。
「ミク、何きょとんとしてるの!?あのナナだよ、ナナ」
「まさか知らないの!?」
「ごめん、そのまさか」
「非常識なミクに説明するよ。Mスタは視聴率が低迷してた音楽番組だった。でも春歌ナナを司会にした途端視聴率がアップ!今じゃ人気音楽番組と言われてるの」
「うわ、鳥音」
「あら鳥音おはよう」
「おはようございます、メイコ先生」
 笑顔で鳥音も登場。この子朝が早い。
「春歌ナナは2年前、小さな音楽番組でデビューした歌手。まだ19歳らしいですよ」
「リンちゃんたちまで・・・」
「おはようございます。えへへ。最近、朝早く起きて朝ごはん食べてるんです」
「とりあえず来週のMスタは必ず見るのよ!」
「はい」
 今度はカイト先生がぜえぜえ言いながら近づいてきた。
「め、めーちゃん。何で僕をおいて走っていったの?」
「いいじゃない。ほら、行くわよ」
「え、ちょっ・・・」
「ほほう、何やらありそう」
「ネル・・・」
 相変わらずネルはこの種のネタを追いかけるのが好きなようだ。

「はうう・・・生放送かあ」
「まさか春歌ナナ・デビュー2周年記念特別ライブ内でMスタやるなんて・・・」
 メンバーの気が重いのはよく分かっている。私もだ。
 実は出演者の一人が本来の収録日に来れないということになり、収録日が移動。スタッフがああでもない、こうでもないと言い合いをしていたら横で聞いていた春歌ナナが「じゃあ、私のライブでやりましょうよ」と言い出したのだ。元々、放送枠はライブと同じく2時間もらっていたので問題はなかった。
 それと、番組スタッフは前座を私たちに押し付けた。本来ならナナさんが選ぶそうだが、おまかせと言われたらしい。新人を選ぶなんてっ!
「緊張するなあ、テト」
「ルコ、君が一番緊張してないお」
「そうかな?結構緊張してるんだけど」
「前座かあ。にしてもマネージャーさんほいほい引き受けすぎだよお」
「テイ、泣かない泣かない」
「出番ですよ」
 遂に、私たちのステージが始まる。
 盛り上がりはすごい。歌を何とか歌い終わると、ナナさんが出てきた。
「はあい!今日はMスタ特別生放送だよ!前座はデビューしたてのバンド「U」にしてもらいました☆」
「ナナさんのライブで前座ができて光栄です」
「うふふっ。メジャーデビューする前も結構してたみたいだけど、いつからなの?」
「ええと・・・5年です。MERはデビューする時に加入したメンバーですが」
「おおうっ。じゃ、自己紹介よろしくね」
 ここで恒例の自己紹介。もちろん上手くいった。
 番組後、ナナさんがやってきた。
「今日の聞いてCD買おうと思ったの。本当に凄いわ、頑張ってね」

「いやー凄かったわねえ」
「めーちゃん飲みすぎ」
 葵さんと茜さんが打ち上げとしょうし、飲みに連れてきた。とは言え、私やテイ、CULは未成年なのでジュースを飲んでいる。
「それにしても、ルコはん。年齢不詳キャラクターつきとおす気?」
「・・・」
 茜さんは知らない。ルコが、自分について覚えていないのを。
「俺、自分の年齢数えたことなくてさ。ははっ、いつ生まれたのかも本当の両親も知らない」
「それほんまか?せやったらマズイで」
「ああ、公式サイト的なのを開くんですか?」
「カイトさん、正解。記憶喪失だなんて無理やろ」
「それじゃあ25ぐらいでいいよ」
「分かった」
 メイコ先生はガブガブ飲んでいて気がつかなかっただろうけど、ルコの横顔は寂しげだった。
「ルコ、どないしたん?」
「いや、なんでもない」
 ふうっとため息をついた。

VOCALOID学園 第17話「揺れる恋ゴコロ」

「レンくん~!」
 マユがレンくんにくっついてる。私は寝不足でくっつかない。
「リリィ!どうしたの?テスト、自信ない?」
「う、うん・・・まあね」
「ん、でも大丈夫だよ!」
「とにかく寝させて・・・」
 変なの、とマユは呟きレンくんの元へ戻った。
 最近勉強に手がつかない。やはり私もテイさんのように身をひき、マユとレンくんの幸せを祈るべきなのだろうか?
「テスト返すわよー」
 言和先生がやってきた。(産休に入った先生の代わりにやってきた中国人の先生)あーどうなるかな。今回は工作してないけど。
 そして、工作なしの私のテスト結果が返ってきた。
 合計、420点。判定、B。
「えっ・・・B!?」
「リリィ・・・」
 あのリリィが!?と大騒ぎになる。
 私は落ち着こうと思いあの教室に向かった。
「あ」
 意外にもミク先輩がいた。
「どうしたんですか?」
「いやあ、ちょっとヤバイ点数とっちゃってね・・・えへへ」
 ミク先輩の手には300点の文字が書かれた紙が。ぎりぎりだ。
「・・・私、Bに下がったんです」
「えっ!?」
「わ、笑えますよね?本当に・・・」
「うーん、でも私だってBにいるのはギリギリなんだからまだ大丈夫だよ」
「・・・」
 その時、誰かがやってきた。短い金髪に青い目・・・リンだ。
「バカイト先生に迎えに行ってって言われたから来たの」
「あ、そうなの?」
「それじゃ、またね」
「はい・・・」
 気まずい空気。私が陥れた相手と並んで歩いてるなんて。
「あ、あの・・・あなたを友達と引き離したのは私なの!」
「・・・」
 リンは黙っていた。すると、立ち止まり、私の方を見た。
「そんなの、気にしてないよ。おかげさまで更正できたし。それに、レンが好きなんでしょ!?頑張りなよ!」
「・・・え、怒らない?」
「もちろん!当たり前だよ」
 私は、嬉しかった。

 リリィと寮の部屋が離れた。一時的なものだから、必要最低限なもの以外はまだ部屋にある。
「本当にどうしたんだろ、リリィ」
 夕食もぼんやりととる。
 すると、隣にレンくんが座った。
「マユ、一緒に食べていいか?」
「レ、レンくんっ!?い、いいよ」
「リリィのこと、心配か?」
「当たり前よ。だって、私に新たな出会いをくれた親友なんだから」
「そうなのか・・・」
 夕食時にレンくんから来てくれるなんて、本当に嬉しい。
「マユは本当にご飯の量少ないんだな」
「う、うん。女の子だから色々気にしてて。マグロ丼なら量も少ないからいいかなって・・・。うふふっ♥」
 もちろん、私の方が先に食べ終わった。立ち上がろうとした時、レンくんが引き留めた。
「俺が食べてる天ぷら定食。天ぷら、一個いるか?」
「え、そ、そんな、いいよ」
「ほら」
 つい、あーんと口を開けてしまった。わ、私が今までお昼にレンくんに散々してきたことだ。逆にされると、すごく恥ずかしい。
「お、おいしい・・・」
 始めてここの天ぷらを食べた。
「引き留めてごめん。じゃ、お休み」
「うんっ・・・」
 リリィには悪いけれど、とても幸せ。

「キマシタワーーーーー!!」
「め、迷惑になってるよ」
「ハクの言うとおりだよ」
 ネル、リン、ラピス、いろは、グミが叫んだ。正直うるさい。
「えーだって、レンがやっとちゃんとアピールしたんですから、しかもあーんですよ!」
「リンちゃんの言うとおり!これは本当にキマシタワーな展開!」
「いい展開にゃ」
「そうだねえ~」
「!」
 グミちゃんが立ち上がる。どうしたのかな?
「嘘・・・」
 リリィが立っていた。マユはもう去っていたが、レンくんがそっちの方を見ながら顔を赤くしていた。それだけでリリィは全てを理解してしまった。
「こんなのあんまりだよ!」
「うわわ・・・」
 リリィは止める間もなく、飛び出していく。
「いわゆる修羅場だね」
「鳥音~!さらっと言わないでよー」
「どうするの?」
「まあ大丈夫だよ、きっと」

「レンくん・・・」
 私は勢いで飛び出してしまった。私の望んでいた幸せは、もうない。とりあえず売店でカップラーメンでも買おう。
「ささら、私はカップラーメンがいい」
「私も」
「え、ちょ、マキさんもつづみも私をパシる気ですか」
「当たり前だ」
 放送の為に雇われているというアンドロイドがいると聞いたが・・・人間なの!?
 どうやら吉田くんやタカハシくん以外が揃っているらしい。
「ちなみにタカハシくんはお弁当、吉田くんは何でもいいらしい」
「仕方ないですね」
 私はそれを呆然と見送る。っていうかヤバくない!?元からすぐ売り切れるというラーメン・・・。仕方ない、戻ろう。
「リ、リリィちゃん」
「せ、先輩・・・」
 心配性のミク先輩が待っていた。私はどう反応しようか迷ってしまった。
「戻ってきたってことは大丈夫なの?」
「え、あの、ささらさんたちが売店を利用するから私は仕方なく。ていうかミク先輩なぜここに!?」
「し、宿題が終わらなくて特別に泊まるの・・・。えへへ」
 なぜか笑顔で答える。お馬鹿の証拠丸出し。
「まあ、もうレンくんは部屋に戻ってるから大丈夫だよ。うん。でも食堂利用者だいぶ減ってるし一緒に食べない?」
 私のことでも話してたのか、皆の食事の手が止まっていた。
「リリィちゃん、大丈夫?本当に?」
 本当に心配してくれたようだ。

VOCALOID学園 第16話「トラブル転入生」

「レンくん!今年も一緒だねっ」
「あ、うん」
「・・・レン?二股しないでね」
「リン、そんなことしねえよ」
「ふふっ、冗談だって」
 私はいい気分じゃなかった。マユに対するレンくんの反応がどんどん変わっていく。マユのことを好きになってる。やだっ・・・。
 私は何とか明るくしようとして話をする。
「リンちゃんはB組になったんだっけ?」
「ん、まあね~」
「凄いね。いつかレンくんと一緒のクラスになれるかもよ」
「んーそうなったら嬉しいけど」
「そろそろ戻れよ、リン」
「はあい。じゃね」
 私はいつかリンに・・・打ちあけたい。
 あのことを。

「転入生よ☆」
 またメイコ先生のクラス。メイコ先生はカイト先生と付き合い出してすっかりおしゃれに磨きがかかっていた。
「双子みたいだけど、まあよろしく」
「双子の姉の鳥音です。よろしくお願いします」
「妹の杏音です。お姉ちゃん大好き~」
「こら、杏音!もう転校したくないでしょ!」
「うーいいじゃん」
「ま、早く席について」
 休み時間になり、早速ネルが話しかけに行った。
「やっほー!よろしくねっ」
「あ、はい。さっきは杏音が迷惑を・・・」
「そういえば転校ってどういうこと?」
 ハクがなにげなく聞くとはあ、とため息をついた。
「杏音が私にべったりで・・・。しかもダンスの時以外はのんびりしてて気味悪いとか言われて。今まで学校があわなくて中学生の間は5回転校しました」
「た、大変だね」
 鳥音はネルと同じサイドテール。それに気づいたのか、笑顔になった。
「同じ髪型ですね」
「あ、本当だ」
「お姉ちゃん~~!!!!」
「きゃっ」
 杏音が鳥音に抱きつく。周りの子は冷めた目で見ている。
「ね、今日さあ」
「いい加減離れたらどうなの!?そこのシスコン先輩!」
「!?」
 いつの間にか入り口にリンちゃんが。すっかり普通の姿。
「シスコン先輩を甘やかさないでくださいね、ミク先輩」
「あ、はい・・・」
「カイトから聞いてたので、シスコン先輩のこと」
「そうなんだ」
 当の杏音は中等部の子に怒鳴られたもののぼうっとしている。さすが天然。
「あたしも協力します、鳥音先輩♪」
「ありがとう」
「ほえ?」
 杏音が首をかしげた。

「ねえ、リリィ。今日はあまり一緒にいなかったけどどうしたの?」
「・・・なあんか気分悪くて。大丈夫だから心配しないで」
 放課後。2-Bの隣の教室からそんな声が聞こえてきた。
「で、リン。私たちに協力してほしいことって?」
 いろは、グミ、ラピスとあたし。既にとても仲良しになっていた。
「ミク先輩たちのクラスにシスコンな子が転入してきて。その子をどうにかして双子の姉から離そうって思ってさ」
「あ、いわゆるレンくんにマユちゃんがくっついてる状態かにゃ?」
「んーそれの女版となると気味悪いね」
「うん、確かに」
「なるべく先輩たちにもそのシスコンである杏音先輩は放置ってこと伝えておいたから」
「うーんなるほどにゃあ」
 すると鳥音先輩が走ってきた。ミク先輩たちもいる。
「ほ、本当にいいの?」
「うん!ここは初等部から高等部は行き来自由なんだから」
「そうだよ」
「あ、リンちゃんたち!やっほおー!」
「初めましてにゃー。猫村いろはにゃー」
「ね、猫っ!?」
 鳥音先輩はびっくりしている。そりゃそうだ。
「こっちがグミ、その隣がラピスにゃ」
「よろしくです」
「よろしくなのです~」
「うん、よろしく」
 にぱあっと笑う鳥音先輩。あの妹さえいなければレン並みにモテてたかもしれない。
「おおー皆懐かしいねー」
 なぜかテイ先輩までやってきた。
「なんで来たのですか~?」
「んー。まだお仕事はぼちぼちだから。暇だし来たってわけ」
「もうナイフは持ってないかにゃ?」
「ナ、ナイフ!?」
「あれ、このネルに似た子は?」
「転入生ですよ」
「は、初めまして。鳥音です」
「ほほう、そうなのかー」
 あたしは少し気になり、ティ先輩に訊くことにした。
「レンは諦めましたか?」
「ん、もちろん。そこまで子供じゃないし。別の人見つけてつきまとえばいい話だもん」
「・・・」
 この先輩・・・頭がもうダメかもしれない。
「どうやって杏音先輩を置いてきたのですか?」
「あの子、運動神経だけは私に勝てないから私が走ればすぐ見失うの」
「うわ・・・それであの激走を」
 やっと出ていったがくぽ先輩やカイト、メイコ先生の時代なんか校内をバイクが走り回っていたと言うぐらいここは規則が緩い。
 走っても、ああ陸上かどこかが練習してるのかー、という目でしか見られない。スカウトする先生もいる。
「ここには廊下走るな、というポスターがなかったから走ったんだけどいいんだよね?」
「いいですよ~」
「構わないにゃ」
「お姉ちゃん~!」
 その時廊下からのんびりした声が聞こえてきた。すかさずいろはがいつも持ち歩いているキティちゃんタオルケットを鳥音先輩に被せる。
「ううーお姉ちゃん知らない?」
「知らないです~」
「そ、そう」
 がっくりして杏音先輩は帰っていった。
「どうしてあんなに気持ち悪い程まとわりついてるの?」
「昔からなんです。私がよく学級委員してて頼れるお姉ちゃんというイメージから・・・」
「ふうん」
「そうにゃのか」
「とりあえず寮に杏音は押しつけました。母がうるさいもので・・・」
「そりゃそうでしょうね」
「とりあえず今日は解散するにゃー」
「そうね」
 あたしたちは笑顔で先輩を見送った。

「いや~大変な1日だったねえ」
「本当本当。ハク、大丈夫?」
「うん・・・」
 寮生であるハク、ネルと別れ鳥音と一緒に歩き出す。
「ミクさんは家、近い?」
「うん。本当は寮に住みたかったけど高いからね」
「あはは、そうですよね。ここ学費だけでもそうとうな額だと言うのに」
「私のお母さん、毎月変な顔してるよ。学費、高いんだね」
「うん。あ、友達になってくれて本当にありがとう」
「ううんこっちこそ」
「じゃ、また明日」
 私は1人になった。本当は寮に入らないとキツい距離だが、我慢している。これ以上の負担は重い。
「あ、ミクちゃん!ね、お姉ちゃんは?」
「うわっ!ど、どうしてここに?」
「えーだって、お姉ちゃんと過ごしたいんだから仕方ないじゃん」
 私が対応に困り、おろおろしていると後ろから誰かがやってきた。
「寮から逃げ出した子猫ちゃんはあなた?」
「ルカさん!?」
「お久しぶり、ミクちゃん。荷物とりにきたら寮のおばさんに『時間を過ぎて逃げた子がいるから捕まえに行ってくれ』って頼まれちゃって」
「そうだったんですか」
 にしてもスカート(膝上)、ブーツで走ってくるとは・・・恐ろしい人。ちらりと杏音を見ると、逃げ出そうとしている。
「私、50mは8秒台よ?勝てるかしら?転入生さん」
「えっ」
 それには私も驚く。ルカ先輩、美人なのに凄い!
「ほら、帰りましょうね」
「えー」
 とりあえず一件落着・・・かな?

 翌日から、杏音のシスコンは少しずつ収まっていった。鳥音もほっとしている。

VOCALOID学園 第15話「ホワイトデー」

 ルカ先輩がいなくなった。大学部に進学しない生徒の荷物が寮から消えた。あたしは少し寂しい。
「うへえ、あたし3年生になったら先生のクラスなんですか?」
「文句言わない。僕は嫌かもしれないけど、友達がいるでしょ」
「うーん、そうだけどさ」
「では僕はめーちゃんとディナー行くから」
「あ、ちょ!」
 あたしは最後にこう吐き捨ててやった。
「こんのリア充!爆発しろー!!」

 私は、ホワイトデーだからと言ってイチャイチャするピコ先輩たちが目の毒だった。
「気分が悪い」
「修行だ、ハク」
「ホント、修行・・・」
 私やハク、ネルには当然彼氏がいない。しかも残るメンバーもそうだ。
「あ、そうだ。メルちゃん、チョコありがとう。美味しかったよ」
「!?」
 後ろを振り返ると、おっとりとした顔でメルちゃんにチョコを渡すナオくんが。
「もう嫌ーーーー!」

<終?>
 じつはこれ、続き(学年が上がってからの)あるんですが別の機会に出します。すみません