神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

ワガママ・プリンセス 第二話 新しい執事さん

「新しく執事として、王女様のお世話をさせていただきます、ジョウェルです」

 にこりと微笑むイケメン。朝から、紅茶を持ってきてくれたとてもいい人。誰かさんとは違ってね。

「ジョウェルは何歳なの? 」
「……21ぐらいです。自分、拾われたのは大飢饉の真っ只中でして、しかも当時の町の外です。おかげで、年齢は分からないのです」 
「そうなのね」

 ジョウェルは、私が紅茶を飲んでいるときにテキパキと髪をといてくれる。本当に誰かさんとは大違いだわ。

「ねえ、ジョウェル。ガートリについてどう思うの? 」
「彼は昔からあんなですよ。王女様によく似た女の子をいじくるのを生きがいにしていました」
「ふうん。その子、どうなったの? 」
「女の子ですからね、貴族にもらわれました。今頃可愛がってもらってますよ。この間も、楽しそうにお買い物していました」
「へえ、そうなの」

 ヒメアの孤児院は主に、外の未開地の子供たちを育てている。男の子はもらい手が少ない。貴族ぐらいしか引き取らないから、跡継ぎに困らない貴族は華のある女の子を選ぶとかヒメアは言っていたわね。
 彼もガートリもそうなのだろう。見た目からして弱そうだから、貴族の人たちにとっていらないと感じるでしょうね。
 そこに、ヒメアがひょっこりと顔を見せた。

「王女様、本日はご家族での朝食でございますよ」
「ヒメア、分かったわ。ジョウェル、行きましょう」

 にこりと微笑む私の手をとり、ベッドから降りるのを支えてくれる。次に、程良く濡れたタオルで顔を拭いてくれる。

「まあ。ヒメアでもここまではしないのに。すごいわね」
「いえ」

 お食事の場には、お祖父様もいた。まあ、珍しいわ。

「おお、リトア。久しぶりじゃのう」
「お祖父様! 私も、会えてとても嬉しいですわ」
「おお、そうかそうか」

 こんなにも揃うなんて、どうしたのかしら。お母様たちもにこにこ笑っている。

「リトアの婚約が立派に決まったから、来てもらったのよ」
「ジョウェルさんなんだが、いやあ、本当に立派でなあ。ヒメア推薦ということもあるが」
「恐縮でございます」

 私は凍りついた。華やかな舞踏会で私は、王子様を見つける気で準備をしていた。なのに、勝手に私の王子様を決めてしまうなんて。

「私は、自分で王子様を見つけるわ。いくら彼が優れていても執事以上の身分になることは許さないわ」
「王女様……」
「お祖父様、どうしましょうか」
「リトア、ワガママはだめよ」
「うむむ」

 お母様は怒ったけれど、お祖父様は笑顔のまま。

「舞踏会は確かに、王子様を見つける場所じゃのう。まあ、よいじゃろう。平和なのだからな」
「……」

 やったわ。私も、王子様を!

 午後のお茶会。仲良しのグラッサ、メルトリと庭園で優雅に過ごす。

「んまあ、随分と手がこんでますわね」
「ひどいわね」
「でしょう? お母様の策らしいわ。さすが暇人数学者の娘だけあるわね」
「本当、そうよね」
「ウフフ」

 ジョウェルがそこに、新しい紅茶とお菓子を持って現れた。去るときにはきちんと礼をした。

「……私がもらうわ」
「グラッサ!? 」
「ガートリが好みじゃないの!? 」
「でも、中々の顔立ちよ。ああ、すてきだわ」

 ぼんやりとジョウェルが去った方向を見つめるグラッサ。恋多き乙女だわ……。
 グラッサの初恋は6歳の時。当時、王宮に滞在していた詩人さん。彼はかなり年上だったから可愛い小娘さんとしか思ってくれなかったらしい。それ以来、彼に再会するの、と詩の猛勉強をしている。

「グラッサ、頭を冷やしてきなさい」
「そうよ」
「ん、そうするわ」

 お茶会がお開きになるなり、ガートリが現れた。ガートリは少しイライラしている。この私の前で感情を露わにするなんて。

「どうしたの、ガートリ」
「あの気むずかしい王妃様をいじったら怒られました」
「当たり前でしょう? お母様、頭が昔の人なのだから」
「……失礼します」

 お母様には妄想話が通用しない。昔から、お母様のお父さんであるお祖父様に数学のお話をしてもらっており、私みたいに夢見る乙女なんてありえない。
 ジョウェルが私を部屋まで案内する。別れ際に、ジョウェルが聞いてきた。

「王女様、一緒にいた金髪の少女は……」
「メルトリのことかしら? どうしたの? 」
「い、いえ」
「あらあら、気になるのかしら。でもあの子、13歳よ? 」
「……なるほど」

 私はジョウェルからさっ、と離れる。な、何がなるほどなのよ!

「幼い顔立ちの女の子が好きだなんて、最低でしょうか」
「他の子が幻滅するわね。しばらくは黙っていなさい」

ああ、まともと思っていたのに。思っていたのに!




〈新キャラ〉
ジョウェル
 推定21歳。新しい執事。何事も完璧だが、幼い顔立ちの子が好き。
メルトリ=ティグレッサ
 13歳。ティグレッサ大臣の愛娘。性格は大人びているが、顔立ちは幼い。
グラッサ=ホグスーマン
 15歳。ホグスーマン元老院長の愛娘。詩の猛勉強をする恋多き乙女。