神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCALOID学園 第28話「消えた少女」

 私はいつもどおり目覚める。そして、声をかける。
「おはよう、リリィ」
 でも返事がない。早起きのリリィにしては珍しい。しかも高等部の入学式なのに。
「・・・?」
 起き上がってリリィのベッドを見るものの、誰もいない。お散歩?と思ったが、リリィの机周りがスッキリしている。
「どうしたのかな・・・」
 怖くなって、レンくんのところへさっさと向かった。
「お、マユ。早起きとは珍しいな」
「レンくん・・・」
 レンくんの顔を見て、わっと泣き出す。堪えきれない。
「ど、どうした?」
「リリィが、いないの。消えたの!」
「え?確かあいつ、旅行だったよな?」
「うぅ・・・」
「とにかく落ち着けって」
「おはよーレンってうわ、何やってるの」
 リンちゃんがやってきた。今年から寮生活を許可されて大喜びしていた。
「おはよう、リン。いや俺は泣かしてないからな」
「知ってる。リリィは国外に旅行行ったってよ」
「は?」
「同じ学年の子たちに聞いてまわったの。旅行先で金髪の女の子を見なかった?って」
「どうして訊いてまわったの?」
「だって、原則3日前には寮生全員戻るようにって言われているのよ?帰ってこなきゃあ、あたしは怪しいと思うけど」
「とりあえずさっさと朝食食べて落ち着こう。な?」
「うん」
 レンくんとは春休みから正式に付き合っている。リリィにはメールをしたが、返信がない。
「おー来た来た」
 グミちゃんが軽く髪を結んでいる。いろはちゃんは後ろに一つに結んでいたのを2つにしている。ラピスちゃんはイメチェンをしなかったっぽい。
「まず、ここの寮の監督が何も言わないことから転校したのは確実だねえ」
「そうにゃ」
「え?」
 信じられない。どうして?どうして、転校なんか・・・!
「残念ながら事実だよ。お二人が仲良く出掛けたりしている間リリィは家族と一緒にいたのだよ」
「っ・・・」
 涙がとまらない。レンくんが朝食のパンをとってきてくれたので必死にかじる。味は分からない。
「あーリリィさん?この紙を置いていきましたよ」
 寮の監督の先生はそう言った。
「嫌あああああ!」
 私は泣き叫んだ。

 とうとう上級生である。生徒会長でもあるので入学式で挨拶をするのだ。在校生代表には声が大きくてよくとおるネルが選ばれた。
「うう、上手く言えるかなあ」
「まあ頑張って」
「うん・・・」
 ハクはリンちゃんの目の前で切った髪がやっと元のロングになりつつあったのにまた切った。理由としては変わりたいからだとか。
「メイコ先生、カイト先生とすっかり話しこんでるよ」
「あらあら」
 ミリア先生の件についてはレオンさんたちを逮捕し、ミリア先生を静養させることで落ち着いた。もう先生には戻れないだろう、とまで言っていた。
「ねえミク。ひとついい?」
「ん?」
「ミク、Cに落ちないでね。今までギリギリなんだから」
「うん、そだね。頑張ってみる」
「おーい!ミク、そろそろ行くよ!」
「あ、うん。じゃ、後で」
「うん。この最後の一年間を最高にしようね」
 ハクは少し涙目だった。
 入学式後、5年生になりすっかりお姉さんっぽくなったユキちゃんに遭遇した。
「ユキちゃん、どう?」
「うーん全然です。クラスメイトが増えてキヨテル先生擁護派ももちろんいて。すごく大変なんですよ」
「そっかあ」
「それよりも、ミク先輩。彼氏作ってくださいね」
「そ、それは言わないの!」
「ふふっ」
「ミク」
 楽しくしゃべっていると、深刻そうな顔をした鳥音と杏音がやってきた。
「リリィちゃんが転校したんだって」
「マユちゃんに内緒で、ね」
「それで浮かない顔だったの・・・?」
「見えたの?」
「そりゃあ、だって新入生代表はマユちゃんだよ。近くにいたし。それにリリィちゃんが辞退してたんだよね」 
「・・・」
「その時点で言うのはマズいかなあって考えて」
「ふうん、そうなんだ」
 ユキちゃんは空気を読み、ペコリと頭をさげて去った。
「生徒会メンバーは大抵知ってるよ。推薦したのなんてナオくんとかメルちゃんだし」
「グミたちが聞いたら大変だね・・・」
 携帯が鳴る。ルカ先輩から。
「もしもし」
『もしもし、ミク。今、屋上にいるの。来てくれるかしら?』
「え?」
 なんで、と思いつつ屋上?と首をかしげてしまう。
「屋上なんてあったっけ」

 巡音ルカ。私だって知ってる。模試で満点とった有名人。なのに今は大学に行かず芸能界にいるという。よく分からない人だ。
「ここかな・・・」
 この学園は部外者には甘かった。ルカ先輩の知り合いです、と言うだけで通してくれる。アリス学園じゃありえなさすぎる。
「うわ、お嬢様じゃん」
「アリス学園の奴が・・・」
 男子はニタニタと、女子は羨ましそうに私を見る。
「イアちゃ~ん!」
「ゆかりちゃん来たの?」
「うん♪」
 屋上はどうやら本当にあるようで、校舎の3階からあがる。
「よく来たわね。頼みがあるの」
「頼み、ですか?」
「ええ。マユのことは覚えてるわよね?」
「イアちゃんを傷つけた悪いやつ!」
「ゆかりちゃん、ちょっと黙ってて」
「むう」
 ルカさんは笑ってくれた。優しい。
「彼女に会ってほしいの」
「え?」
 突拍子もないことを言い出すものだ。

 私は部屋にこもる。新しい同居人が来たら殺す、と脅したので誰もこないはず。
「リリィ・・・」
 私にとって友達はイアとリリィだけ。イアを失い、リリィまで失うなんて、嫌。そんなの、嫌。
「イアに会うなんて無理だよね・・・はあ」
 彼氏を自慢したい。でも、事件を機にお父さんもイアとは会えないようにした。
 その時、ノックの音が聞こえた。無視、無視。
「マユちゃん、私よ。巡音ルカ
「え!?」
 慌ててあけると、ルカ先輩と・・・イアちゃんと、怒っているゆかりちゃんがいた。
「ど、どうして・・・」
「久々に話そうよ」
「気がのらないけど、イアちゃんについていく」
「ゆかりちゃんとどういう関係なの?」
 目を丸くする私に2人は照れくさそうにする。
「恋人・・・なの」
「え!?」
 ルカ先輩はフフッと笑い
「それじゃあ、仲良くお話してね。私はそろそろ収録があるから」
 でていった。
「そこ座って」
「ねえ、これ何?」
「ああ、それ?」
 レンくんの抱き枕に目を丸くしているイアちゃん。でも、ゆかりちゃんがすぐに鼻息を荒くしながら説明しだした。
「これはね、大好きな人の抱き枕よ!私もイアちゃんの抱き枕持ってるの!」
「え?そ、そうなの?あ、でもマユって・・・」
「私ね、リリィからレンくん紹介されてすごく嬉しかった。ミズキ先輩を忘れさせてくれるぐらいかっこよかったの。レンくんは彼氏なんだよ」
「よかったじゃん」
「えへへ」
 久しぶりに話せて、とても楽しい。

「うまくいきましたか!?」
「ええ。まさか久しぶりに話したいと思って来たらあんなこと頼まれるなんて」
「マユちゃんを元気づけるためです!」
 マユちゃんの親友・イアちゃんの電話番号をなぜかルカ先輩が知っていた。理由としてはCULさんに秘密にしてと言われたので言えないとか。
「まあ、でも継続的な支えは必要よ?イアちゃん達は名門の学園にいるんだから外出許可なんて簡単におりないはずよ。イアちゃんはともかく、ゆかりちゃんは寮に住んでいるらしいから」
「あ、そうですよね」
 この学園と違い、警備はもちろん固く外出許可なんて滅多におりないらしい。
「それにしてもリリィに何かあったの?」
「あ、はい。レンくんと距離を置き始めたと思ったら、消えちゃって・・・」
「ふうん。つまり、逃げたのね」
「え?」
「苦しくて、逃げた。マユちゃんとレンくんが付き合い始めて苦しくなって。テイのようにきっぱり言えなかったのね」
「ああ・・・」
 私は恋愛経験などないためよくわかんない。
「支えてあげなさいね。次はいつ来れるかわからないわ。じゃあね」
 ルカ先輩みたいになれるのか不安になった。