神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCAOID学園 第26話「さよならのバレンタイン」

 もう、最後にしよう。私はそう決めてマユとは別に一人でチョコを作る。
「レンくん、喜ぶかな・・・」
 少しさびしい。

 今年も朝からデル先輩へチョコ渡しが凄いのでネルたちの部屋にいた。
「私たちは友チョコ交換だけだねえ」
「うん、でもリンちゃんとか中等部の子もくれるよ」
「多ければいいってもんでもないのよ」
 ネルはとにかく本命チョコが欲しいらしい。
「ユキちゃんに昨日、チョコ作り手伝ってって言われたよ。リュウトくんに渡すみたい」
「いいなあ」
 もうすぐ5年生になるユキちゃん。最近は髪をのばしたりとリュウトくんにアピールをしている。
「そろそろ行こう」
「うん」
 ロビーでため息をつく人を見かけた。リリィだ。
「あ、珍しい!どしたの?」
「・・・別に」
 視線の先にはレンくんとマユ。チョコをもらい、デレデレするレンくんはどう見てもマユの彼氏。
「でも、笑顔で渡さなくちゃね」
 リリィは作り笑顔で走っていった。
「ミキちゃん、今年のはブランデーを少しいれたの?」
「うん、そうだよ。ピコくん、美味しい?」
「うん!ミキちゃん、お返し!あーん」
「あーん。・・・うわ、ピコくんの作ったクッキーも美味しい!」
「えへへ」
 仲睦まじく歩くのはピコ先輩とミキ先輩。大学の試験も終わっているため、なんとなくほのぼのしている。
「・・・」
 でも二人を見るリリィの目が冷たかった。

リュウトくん!はい、これ」
「わ、凄い」
 今年も喜んでくれた!うれしい!
「今年はねえ、少し工夫したんだ♪」
「ありがとう」
 ああ、素敵・・・!
「何してるんですか?」
「キヨセン、一応義理あげる」
「ええええ!?そ、そこまで露骨に嫌わなくても・・・しかもこれなんか失敗作のような」
「ぎゃあぎゃあ言うなら食べなくていいっ!」
「ああ、すみません!」
 キヨテル先生さえいなければ最高なのに。

「会長さ~ん!」
「わわっ」
 後ろからメルちゃんが来る。傍らにはダンくんやナオくんも。
「はい、これっ!」
「わあっ!ありがとう!」
「それと副会長さんにも!」
「ありがとう」
 私たちがきゃあきゃあ騒いでると、リンちゃんたちが来た。
「マユが相談したいことがあるって」
「え?」
 外は寒いから、と生徒会室に向かう。
「リリィが最近、よく休むんです」
「え?」
 着くなりそう言われた。マユちゃんの顔は悲しげだった。
「リリィが最近まとわりついてこないのにも俺、素直に喜べないし。チョコはいつもどおり美味しかったけど」
「結構深刻だね・・・」
 リリィは知っている。マユちゃんとレンくんが既に恋人に近いことを。でもテイ先輩のように潔く身を引けない・・・というところだろう。
「マユちゃん、それはね、2人が接近しているのに嫉妬しといるからだよ」
「ええ!?嘘、いや、そんな・・・」
「確かに」
「うんうん」
「っ~!」
 2人で顔を真っ赤にする。
 ダンくんは興味なさそうにしているし、ナオくんはぼうっとしている。それ以外のメンバーは真剣。
「私よく分かんないや、ごめん」
「メル~!リタイア早いっ!」
「ま、まあつまりまとめるとリリィは2人が恋人っぽくなるのを見てるだけが嫌なんだろうにゃ」
「そこで私、グミと」
「ラピスが」
「勝手に部屋を検査したり」
「吉田くんを問い詰めたり」
「しちゃいました☆」
「いやいや、いけないよそれは」
 ラピスとグミが紙をバッグから取り出す。
「ええと、まずは部屋の検査。レンくんの写真がリリィの机周りからは発見されなかった。ついでに言うとリリィは荷物がほとんどない」
「そういえば私に色々くれたよ?この間の休みなんて久々に一緒にリリィの家で遊んだもの」
「むむっ、それはあきらかに変だね~。で、吉田くんを問い詰めたら『リリィお嬢様はハワイでかなりショックを受けてます。クリスマスの時も泣きながら帰ってきました』って」
「ハワイ・・・」
「クリスマス・・・」
 2人を見ると、顔が青くなっていた。
「表ではストーカーをやめたけど、今では裏で続けているみたいだにゃあ」
「怖いね」
 鳥音がそう言うと、静まりかえった。
「ああ、やっぱりここは朝から暖房がついてるよ、ミキちゃん」
「本当だね、ピコくん」
 空気が読めないリア充がやってきた。
「あんたら何しに来たんだよ」
「え?何って寒いからさ暖まりに来たんだよ。ねえ、ミキちゃん」
「うん、ピコくん。あっ、噂の2人!」
「え?」
 ミキ先輩のその言葉に皆頭が『?』になる。
「最近、有名なんだよ?マユちゃんとレンくんが付き合ってるというう・わ・さ!」
「えええええ!?」
 リンちゃんが一番大きい声を出す。噂レベルに発展とは・・・。
「それでね、レンくんがもう一人アタックしてきた子をキツくフッたという噂もあるんだよ?」
「・・・リリィだ」
 リリィが間接的に流した噂。2人の幸せを妬み、やったのだろうけど悪い癖は相変わらずだなあ。
「あ、そろそろ教室に行こうよミキちゃん。そろそろ鍵も開くだろうし」
「そうだね、ピコくん」
 3年生はこの時期、自由登校となっており、登校したい時だけ登校するようになっている。そのため、A以外はほとんど登校しない。中には思い出作りのため一回も登校しないのもいる。
「Aクラスだから週に2回登校してるんだって聞くよ」
「へえ」
 先程の噂。リリィが直接流したのではないにしろ、どうやって・・・?
「そういや正門の近くにある大学の側に自由掲示板があるのを見て、私安心したのを覚えてるよ。楽しそうだなあ、って」
「かっ、鳥音本当!?」
「うん。マユちゃんも覚えてる?」
「いいえ。私は校舎前までリムジンだから覚えてませんわ」
「あ、そう」
「にしても、確かめに行かなくちゃね!」
 いつの間にか、盛り上がっていた。

 放課後。掲示板の前に集まる生徒会メンバー+α。
「めーちゃん、また変なのがあるよ」
「んもう!誰よ、これ!」
「先生!それ見せてください」
「え?」
 ちゃっかり手を繋いでる2人がどく。すると、掲示板が・・・。
「きゃあっ!」
「何これ!?」
「びっくりよねえ」
 そこにはただ『死ね』や『殺してやる』という使ってはマズイ言葉がひたすら書かれていた。
「早朝なんて掲示板に元々貼ってあった紙全て破かれてここに放置してあったのよ?火つきで」
「怖いですね、女の恨みは」
 そういえばヤンデレだったということを思いだし、寒気がする。
「全部字体が違うけど、誰のか分かるの?」
「多分」
「リリィ」
「です」
「にゃ」
 グミ、ラピス、リン、いろはの順で伝える。メイコ先生は一瞬不思議そうな顔をしていたが、ああ、とうなずいた。
「昨日、ここをミリア先生が担当してたんだけど『リア充なんかはぜればいい・・・中学生ごときが恋愛なんて・・・』って言ってたのよ。まさかと思うけどレンとマユについて?」
「ええ、そうです」
「ミキ先輩が言ってました」
 私たちも続ける。
「ミキ先輩曰く、『レンとマユは付き合っている』という噂らしくて」
「で、でもそれだけではなくて『レンはアタックしてきた子をキツくフッた』とも」
「もちろん嘘なのですが」
「それもリリィが・・・」
「・・・カイト、私はリリィを起こしてくるからリリィについて教えてやって」
「分かったよ、めーちゃん」
「?」
「リリィは最近学校に来てもフラッと消えて・・・。特に音楽の授業や英語の授業は参加しないよ」
「ああ、そういうことですね・・・」
 レンくんといちゃつくマユちゃんを見たくないという思いなのだろうが・・・。既に押さえられなくなっているようだ。
「きゃあああああ!」
「めーちゃん!?」
 カイト先生が瞬時に走り去る。愛の力って怖い。
「私たちも行こう」
 寮に行くと、リリィが部屋で倒れていた。
「リリィ!」
「ああ、多分何も食べてないんじゃない?」
 リリィの顔はやつれていた。
「うう、皆ごめんなさい・・・」
「大丈夫だから今は食事しなさい」

 今回の件はなんとか落ち着いた。でも、リリィは相変わらず学校に姿を見せることが減ってる。
「心配だよね」
「本当にね」
 何気なく掲示板を見に行く。
「え・・・?」
 まだ、終わってなかったのだ。

「え?ミリア先生?そういえばいないわね・・・」
 朝。私が中等部職員室でカイトと話してるといかにも心配している学級委員がやってきた。この時間になって先生たちはそれぞれ担任するクラスに行っている。行ってないのは私たちぐらいかしら。
「ど、どうすれば・・・!」
「ミリア先生の机、調べに行きましょう。カイト、行くわよ」
「えぇ、また?」
 廊下を歩いてると、ささらたちにも出くわしたので一緒に来てもらった。
「今日は荷物すらないわね。電車もバスも使わず車で来てるから・・・?」
 いや、待って。ミリア先生は母親までいなくなってしまった。これからどうしよう、と泣いていた。まさか・・・。
「事は深刻かもしれないわ」
「え?」
「メイコ、こんなのが出てきた」
「・・・」
 私は字からして誰のか察した。
「あーバカレオンか」
「マキ、そういえば結構長い間いるものね」
「と言うより、レオンは私の知り合いだし私も5年勤めているだけ」
「あ、そう」
「え?レ、レオンって誰ですか?」
 私は困惑する学級委員の子にそっと伝える。
「若き頃のミリア先生のストーカーよ」
「え!?」
「元教師なんだけどね、ミリア先生とは年も離れてるから・・・」
「めーちゃん、まさか」
「これは危険よ。私たちは生徒に何かを察せられないよう平常通り過ごしましょう?マキたち、理事長に伝えて」
「手紙も持っていくからね」
 ふう、と一息つき私も教室に行く。
「あら?皆黒板に集まってどうしたの?」
「先生・・・」
 皆がさっとどく。そこには・・・。
「何よ、これ・・・」
『俺より先に幸せになるな。カイトと離れろ レオン』
 ご丁寧に憎き男の名まであった。しかも大きくで雑な字。相変わらずではある。
「レオンって誰ですか?」
「先生の元彼とか!?」
「いやいやカイト先生一筋でしょ」
 私は仕方なく説明する。
「私が中学生の頃、事件を起こしてさっさと教師を辞めさせられたバカな男よ」
「・・・」
「カイトもミリア先生も知っているし、理事長も理事長のお父さんから聞いていると思うわ」
「めーちゃん!大変だよ!」
「分かってるわ。あーあ。どうしてこんなに事件が多いの?」
 私は仕方なく教室を離れた。

「先生が乙女だった頃かあ」
「その時からボインだったのかな」
「ちょ、ネル、失礼って!」
「生徒会メンバーだし、行こうよ」
 理事長室に駆けつけると、既にリン、ラピス、グミ、いろはと生徒会メンバーが集結していた。
「私、違うんですって言ったの聞こえなかったんですね、ごめんなさい・・・」
「い、いいのよ。リリィだって決めつけた私たちが悪いのよ」
「あれは誰の仕業?」
「レオンさんのお兄さんです」
「レオンめ・・・」
 理事長は歯をギリギリさせながら言う。この学園では有名なのかな。
「この誇り高き学園で唯一追放したのがレオンだ。ミリア先生はショックが大きくてな、私が結婚という話題を出しただけで睨みつけてくるほどだった」
「あのっ、直接手を出したのはレオンさんの仲間らしいですよ。私の父に頼んで周辺住民に聞きこみしちゃいました」
 さすがお嬢様。
「ああ、そうか。正門から堂々と入れば近くの駄菓子屋のばあちゃんやお好み焼き屋のおじいさんに見られてる可能性があるからな」
「はい、それでですね。駄菓子屋のばあちゃんが言うには最近変な人が学園周辺をうろついている、とのことでした。お好み焼き屋のじいちゃんによると、車からおりる綺麗な髪の女性をサングラスをかけたいかにも怪しそうな茶髪男が見ていた、と」
 それに皆黙ってしまう。
「ちょっと、ささら。これマズくない?」
「え、どうしたんですか?マキさん」
「手紙、5年前から婚姻届が入っている」
「えぇ?」
「うわ・・・」
 手紙はどうやら順番に並べられているらしいが、どんどん字が荒くなっている。
「ミリア先生・・・」
「はあ、やはり同年代が次々と転任することによって相談したくてもできなかったのか・・・」
「そういえば先生、休んでたときありましたよね?」
「ええ。文化祭の事件のあとお母さんが亡くなったらしくて、鬱で引きこもっていたわ」