神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCALOID学園 第18話「U」

「テレビに出れるよ~」
 マネージャーの琴葉葵さんがそう告げ、入ってきたのは2枚目をどうするかと話し合っている最中だった。
 5月。少し鬱(いわゆる五月病?)なテトさん以外目を輝かせた。
「おおっ!」
「デビュー曲がかなり売れたから今度出してもらえることになったの。もちろん、トークから歌まであるから自己紹介きちんとしてね」
「じゃあ、練習しましょう!テトさん」
「分かったお」
 やはりダルそうだけども、まあ大丈夫でしょう。
「それじゃリーダーから」
 目をしゃきんっと開け、背筋を伸ばす。おおっ!
「リーダーの重音テト、永遠の10代ですっ☆担当はベース!」
「男にもなれる、女にもなれる万能メンバー、ドラム担当の欲音ルコです!」
「バンドメンバーの癒しキャラ、作詞・メインボーカル担当の健音テイです!」
「赤き天使☆キーボード担当、CULです!」
「ギター担当、巡音ルカです!」
 するとなぜか葵さんのお姉さん、茜さんが乱入してきた。
「あかんあかん。もう少しちゃんとしたキャッチフレーズで心をつかまなあかんよ」
「お姉ちゃん、口出ししないで」
「あんなあ、葵。このままやったら「U」は落ちぶれるで?いいか、ちゃあんと言うんや」
 とりあえずやり直し。
「永遠の10代☆リーダー、ベース担当の重音テトですっ」
「男の心も女の心も持つ☆ドラム担当、欲音ルコですっ」
「癒しキャラクター☆作詞、メインボーカル担当の健音テイですっ」
「赤き天使☆キーボード担当、CULですっ」
 私の番。だが、キャッチフレーズが浮かばない。
「キャッチフレーズが浮かばんのか?」
「ええ、そうです。こんなこと卒業するまでやったことがなくて・・・」
「そういえば親が厳しいんだっけ?」
「知らなかったお」
「生徒会長さんでしたからねえ」
「うーん、せやなあ」
 しばらく悩んだのち、こう言い出した。
「優等生からバンドメンバーへ華麗に転換☆とかどや?」
「優等生からバンドメンバーへ華麗に転換☆ギター担当、巡音ルカですっ」
「うん、いいよ」
「あと、うちからもう一つ提案があるんやけどいいかな?」
「え?」
「テト、ルコ、テイ。あんたたちを知る人がマスコミに万が一情報をもらし、週刊誌を騒がせればもう終わり。だから、本名はCULみたいに伏せるべきやねん」
「CUL、どういう風に名前つけたんだお?」
「私の名字がかから始まり、名前の最初がるで始まるから・・・」
「じゃあ私はMERとかどう?」
「いいね、ルカさん」
「ん、じゃあテイはSUI(スィ)とかどう?」
「テトはどうなるんだお?」
「・・・そこが問題なんだよね」
 葵さんが笑顔になった。
「じゃあ、KAT(カトゥ)、LI(リイ)!」
「ええと、KAT、LI、MER、CUL、SUI。うん、これで分からない」
「テトはこの髪型を少し緩めるおー!あとめーちゃんとバカイトに皆の口封じを頼むお」
「じゃあ俺も昔の仲間に口封じを頼んでくる」
「え、ちょっとルコさん!?」
 ルコさんは飛び出していった。
「あいつ何者なんや」
「出身地不明、年齢不明。昔だなんて聞いたことないわねえ、CUL」
「そうだね」
「ただ教養はかなり低いおーこのテイに負けるバカだお」
「はあ!?わ、私がバカですって!?」
「そうだおー」
 騒がしいなあ、と思いつつ私は少し外に出た。
「・・・俺のことを知れば皆、俺を嫌いになる。確実に、だ」
「?」
 どうやら携帯で電話をしているらしい。うーん、聞こえにくい。
「ミス・レアロ。分かってる。あなた様もお嬢様は裏切らないと。だが、万が一のことがある」
 レアロ?誰?お嬢様?
「ただ、マユがリリィと共に俺のことを-ない?ああ、よかった。それじゃくれぐれもよろしく」
 マユ!?リリィ!?二人とどういう関係が・・・?
「さあて、少しブラブラしようかなあ、ルカ」
「ば、ばれてた?」
「当たり前だよ」
「さっきのは何?」
「・・・レアロは、孤児だった俺を育てあげた人だ。なのに、14になった俺は家を出て犯罪をおかした。今は何歳かというのも忘れるくらいに、ね」
「・・・」
「気にしなくていい。俺の記憶はいつも曖昧だから」
 さあ戻るぞ、と言いルコさんは入っていった。
 相変わらず変な人だなあ。

「テレビ!?ええええ!?嘘、何に!?」
「めーちゃん、落ち着くんだお」
 帰ってくるなり、テトはあり得ないことを報告してきた。
 「U」はデビューしてからまだ1月程。恒例の体育祭について会議がこの間行われたばかりなのに。早い。
「んー6チャンネルのMスタだお」
「はあ!?い、いきなりあんな高視聴率を稼いでる番組に・・・」
 Mスタとは、春歌ナナという人気歌手が司会をつとめ、毎回視聴率20%超えは当たり前という音楽番組のこと。その春歌ナナでさえ、今は放送していない小さな音楽番組でデビューを果たしたというのに。すごすぎる。
「それと、私の過去はバラさないよう言ってほしいお」
「あ、うん。当たり前よ」
「カトゥという名前もらったお」
「本名が推測できなくていいじゃないの」
 するとバカイトからメールがきた。
『同居の件、どうなってる?』
「そうだ、テト。一つ思いついたんだけど」
「ん?」
「ルコ、テイ、ルカ、CULと一緒に住んだら?私ね」
「ああ、バカイトとやっと同居?」
「うっ、分かってたのね」
「ルコが一人暮らしだから、その家に住まわせてもらうってのは前から決まってたお」
「へえ、そう」
 元々ニートのテトを世話してただけだ。また、会える。
「そうだ!観客として数人誘っていいって言われたからめーちゃん、バカイト、がくぽを誘うお!」
「・・・ルコ、テイ、CUL、ルカは了承してるの?」
「もちろんだお!」
「いいわよ、行くわ」
「じゃあ、寝るおー!」
 まだ髪も乾かしてないのに、と思ったが私は敢えて無視した。

 最近、勉強が難しい。だからハク、ネルに教えてもらっている。
「いっつもごめんね。最近はほぼ連泊で・・・」
「いいよ、気にしないで。ね、ハク」
「うん。私たちも復習になるから全然構わないよ」
「あはは・・・」
 背中をいきなりバシッと叩かれた。
「おっはよー!」
「うわっ、メイコ先生」
 なぜか機嫌がいい先生は笑顔で怖い事を告げた。
「次のテストで450点以上とりなさい!それが夏期補習の対象から外れる条件よ!」
「えっ」
 私がしょげていると、喋り続けた。
「それと、来週のMスタ。「U」が出るから」
「えっ!?」
 それには顔をあげて喜んだ。
「凄いですね!あの春歌ナナと共演だなんて・・・」
「ナナさんって新しい曲を来週のMスタ披露するらしいよ」
「ハクも好きだもんね」
「うん」
 Mスタ、春歌ナナ。テレビを見ない私にはちんぷんかんぷん。どちらかと言えば読書に専念してたから・・・。
「ミク、何きょとんとしてるの!?あのナナだよ、ナナ」
「まさか知らないの!?」
「ごめん、そのまさか」
「非常識なミクに説明するよ。Mスタは視聴率が低迷してた音楽番組だった。でも春歌ナナを司会にした途端視聴率がアップ!今じゃ人気音楽番組と言われてるの」
「うわ、鳥音」
「あら鳥音おはよう」
「おはようございます、メイコ先生」
 笑顔で鳥音も登場。この子朝が早い。
「春歌ナナは2年前、小さな音楽番組でデビューした歌手。まだ19歳らしいですよ」
「リンちゃんたちまで・・・」
「おはようございます。えへへ。最近、朝早く起きて朝ごはん食べてるんです」
「とりあえず来週のMスタは必ず見るのよ!」
「はい」
 今度はカイト先生がぜえぜえ言いながら近づいてきた。
「め、めーちゃん。何で僕をおいて走っていったの?」
「いいじゃない。ほら、行くわよ」
「え、ちょっ・・・」
「ほほう、何やらありそう」
「ネル・・・」
 相変わらずネルはこの種のネタを追いかけるのが好きなようだ。

「はうう・・・生放送かあ」
「まさか春歌ナナ・デビュー2周年記念特別ライブ内でMスタやるなんて・・・」
 メンバーの気が重いのはよく分かっている。私もだ。
 実は出演者の一人が本来の収録日に来れないということになり、収録日が移動。スタッフがああでもない、こうでもないと言い合いをしていたら横で聞いていた春歌ナナが「じゃあ、私のライブでやりましょうよ」と言い出したのだ。元々、放送枠はライブと同じく2時間もらっていたので問題はなかった。
 それと、番組スタッフは前座を私たちに押し付けた。本来ならナナさんが選ぶそうだが、おまかせと言われたらしい。新人を選ぶなんてっ!
「緊張するなあ、テト」
「ルコ、君が一番緊張してないお」
「そうかな?結構緊張してるんだけど」
「前座かあ。にしてもマネージャーさんほいほい引き受けすぎだよお」
「テイ、泣かない泣かない」
「出番ですよ」
 遂に、私たちのステージが始まる。
 盛り上がりはすごい。歌を何とか歌い終わると、ナナさんが出てきた。
「はあい!今日はMスタ特別生放送だよ!前座はデビューしたてのバンド「U」にしてもらいました☆」
「ナナさんのライブで前座ができて光栄です」
「うふふっ。メジャーデビューする前も結構してたみたいだけど、いつからなの?」
「ええと・・・5年です。MERはデビューする時に加入したメンバーですが」
「おおうっ。じゃ、自己紹介よろしくね」
 ここで恒例の自己紹介。もちろん上手くいった。
 番組後、ナナさんがやってきた。
「今日の聞いてCD買おうと思ったの。本当に凄いわ、頑張ってね」

「いやー凄かったわねえ」
「めーちゃん飲みすぎ」
 葵さんと茜さんが打ち上げとしょうし、飲みに連れてきた。とは言え、私やテイ、CULは未成年なのでジュースを飲んでいる。
「それにしても、ルコはん。年齢不詳キャラクターつきとおす気?」
「・・・」
 茜さんは知らない。ルコが、自分について覚えていないのを。
「俺、自分の年齢数えたことなくてさ。ははっ、いつ生まれたのかも本当の両親も知らない」
「それほんまか?せやったらマズイで」
「ああ、公式サイト的なのを開くんですか?」
「カイトさん、正解。記憶喪失だなんて無理やろ」
「それじゃあ25ぐらいでいいよ」
「分かった」
 メイコ先生はガブガブ飲んでいて気がつかなかっただろうけど、ルコの横顔は寂しげだった。
「ルコ、どないしたん?」
「いや、なんでもない」
 ふうっとため息をついた。