神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

魔法学院探偵部 第1話「連続通り魔事件・発生編」

「あー暇やねえ」
「先輩。それを平和って言うんですよ」
「分かっとる」
 魔法学院という魔法を専門的に学ぶ学校。そこにある部員2名の小さな部。それが探偵部。
 先輩、と私が普段呼ぶこの男の名は上原裕二。なぜか方言を巧みに話す。
 あ、私の名は練磨楓。練磨が名字で楓が名前。先輩のひとつ下の学年。
「あ、そだそだ。先輩、ここを教えてほしいんですけど・・・」
はあ!?こんなのも分からんのかい、バカエデ!
「ううっ!そ、それ言わないでくださいよ~先輩・・・」
「うるうる目は俺には効かんといつも言っとるやろ!?」
「あ、あの!上原様!」
「んあ?」
 私たちがいつものケンカをしているといつの間にかグラマーな美女が立っていた。しかも、腕に怪我をしている。
「これは・・・パートナーにやられたん?」
「あ、はい・・・」
 パートナーとは、高等魔術を習う者が必ず連れていくペットみたいなもの。姿は自分の好きな動物にできる。私の姉は黒ヒョウにしていた。少し、好みが・・・と思ったのは秘密。
「あ、これって自分のパートナーじゃないですよね?」
「はい。あ、紹介しおくれたわね。私梅田祥。高等魔術を習って4年目」
「ほほう!これはかなりの先輩やな。失礼しました」
 ここには初等から高等までの魔術科がある。初等は5年、中等は4年、高等は5年。この梅田さんは卒業まであと1年、ということになる。
 え、私や先輩?私は中等魔術2年生、先輩は3年生。だから梅田さんは神様みたいな存在。ちなみに先輩を上原様と呼んだわけというのは、この先輩が異様に様つけに反応するから。梅田さんみたいに上の学年にまで噂が広まるとは・・・。ごめんなさい。
「そういや最近、パートナーに噛まれるっていう事件あったやろ?」
「ああ、はい。一応ファイルに新聞全てとじています。被害者は梅田さんを含め7人。つい先日はこの学院の近所に住む女性が右腕と左足を噛まれるという大ケガをしました」
「つまり、特定の人物がパートナーを使い通り魔みたいなことをしてるというわけです」
「近所に被害を与えるということなら飛行生物、よね・・・」
「それしか考えられません」
 ここの学院は万が一のことを考え、塀が高い。それに高圧電流が流れる針金もついている。
 しかし飛行生物ならそれは関係ない。
「なんのためやろ?わかるか、楓」
「ううむ。そもそも高等魔術のパートナーについて姉から少し知識を得たぐらいでして・・・」
「え?あなたのお姉さんも高等魔術を?」
「ああ、はい。練磨椿と言います」
「知ってるわよ。彼女、パートナーもそうだけど黒ヒョウモチーフのものばかりなのよねえ」
「・・・姉がそんな趣味じゃ妹はバカ確定やな」
「先輩、ヒドイですぅ・・・」
「泣くな」
 しかし、学園内の通り魔とはこわい!
「そういや被害者が被害にあった場所はどこなん?」
「それがバラバラなんです。全て遠くて・・・」
 1人目は初等魔術5年生の女の子。初等魔術の校舎から出てきたところをその生物に左腕をやられた。(この子が被害にあった場所をXとするね)
 2人目は高等魔術の教師。Xからはかなり離れており、ここでもうすでに犯人は特定不可となった。ちなみにこの教師が6人目につぐ重傷を負っており、未だに入院中。
 3人目と4人目は中等魔術2年生の女子生徒。仲良くテニスコートを歩いていたところを2人共両足を噛まれた。Xとは真逆の方向にある。
 5人目は清掃のおじさん。何でいたのか知らないが、大講堂で倒れていたのが発見された。あちこち噛まれており即死と判断された。Xからは離れいるが教師のいた高等魔術の校舎の近く。
「ということなんです。6人目はゴミを出そうとしたら変な飛行生物にやられたと言っています」
「ううむ。中々よくまとまっとる。バカエデにしては上出来や」
「先輩!ともかく被害者に話聞きましょうよ~」
「梅田先輩はどうしますか」
「私もこわいからついていこうかな」
「ああ」
 こんの、どスケベ先輩!

 テニスコートがすぐ近くなので、3人目と4人目の被害者に会うことに。私の同級生だからすぐ話は聞けそう。
「ああ、楓ちゃん。どうしたの?」
「うっわ、兄貴や」
「おい、茉子!?」
 なんとこの先輩の妹。しかし既に先輩の両親は離婚しているため、3人目の被害者の名前は森茉子。
 4人目の被害者の名前は泉架帆。
「大丈夫なん?架帆ちゃん。松葉杖ついとるけど」
「はい。少し痛みますが・・・」
「バカ兄貴!私をいたわってよ!」
「は?」
「私車椅子よ」
「やけん?」
「架帆より私が重傷だっつーの!」
「うふふ。仲、いいんですね」
 梅田さんが笑っている。私はふと思った。
「あの、梅田さんのパートナーは?」
「私を守ろうとしてすこし羽根で殴られたみたい。ウサギなんだけど」
「へえ、黒ヒョウよりかわいいですね」
「ええ。そうでしょう?」
 久しぶりの兄妹ケンカを終え、先輩が探偵の先輩に戻る。
「どげな生物やったん?」
「それが、覚えてないんや」
「私も、覚えてません・・・。あまり記憶がないんです」
「相当高等やな。梅田さん、心当たりは?」
「生徒には無理よ。博士ならできるかもしれないけど、博士はパートナー連れて出かけてるわ」
「他の被害者に聞くか」
「先輩、ダメですよ。近所の方、高等魔術の教師、初等魔術5年生の女の子。全ての人は無理です」
「私が明日その先生に聞いておくから。安心して」
「あ、はい」
 私はひとまず安心した。
「それじゃあな」
「はい、先輩!」
 私は先輩と別れ、寮へ。しかし忘れ物を思い出し部室へ戻ろうとすると

 痛みが腕をつきぬけた。

「-えで、楓!」
「はっ」
 起きると私の血があたりに広がっていた。先輩はそんな私を起こしたせいか少し血に染まっている。
「お前が帰らないけん心配したんや。そしたらこの有り様や」
「すみません。迷惑かけて」
 ふと両腕を交互に見ると、出血箇所を先輩が手でおさえていた。
「医務室に運ぶぞ」
「え?って、ちょ、きゃっ」
 私を先輩がお姫様抱っこで抱える。う、うう嘘!?
「うるさい、黙れ」
「ふぁ、はい」
 医務室で私は手当てを受けた。両腕共に肉があとすこしでえぐりとられるところと診断された。
「立てますか?」
「え?っ!」
 立とうとすると見事に尻餅をつく。うわーん!
「楓、俺が運んでやるけん、心配するな」
「え!? 私車椅子使いますよー先輩」
「ばってん、不便やろ」
 先輩、かっこいい、素敵、見直した。
「ううっそもそも学年が・・・」
「大丈夫や。俺はバカエデと違い天才やけん」
 前・言・撤・回!
「じゃあお世話してくれるんですね?ありがとうございます」
「当たり前やろ」
 ニコニコと先輩が笑う。

 翌朝。先輩にたたき起こされ、私は食堂まで運ばれた。
「新たなる被害者4人が博士の研究室近くででた。しかも3人は瀕死やけん、博士が殺人未遂で訴えられかけとる」
「でも博士が眠りすぎ症ってのはみーんな知ってますよね?」
「ああ。やけんすぐ帰ってくるやろ」
 博士に会う約束をしていたらしい。案の定、博士はやってきた。
「おはよう~ふわぁ」
 博士こと辻かおり。30歳独身。高等魔術の数人の生徒が彼女の研究所のメンバー。
「博士は最近何の研究をしてるんですか?」
「新しいパートナー作り。でもねえ、私が帰ってきたら1匹盗まれていたの」
「え!?」
「警察にも話したのよ。そしたら『言い訳はやめてください』って」
「どういうのでしたか?」
「移動時は飛ぶ、攻撃時は鋭い爪で攻撃、という優れたパートナー作ってたの。試作品004が盗まれててびっくりよ。あれ、一番殺傷能力たかいんだから」
「合鍵は誰に渡しましたか?」
「当然部員全員によ。梅田さん、練磨さん、太田川さんの3人」
 うへえ、私の姉も・・・。
「それで、その太田川さんはどういう方で?」
「高等魔術を5年生になって退学して、私の研究所に入り浸っている子。どこに住んでいるのか不明。特待生だったのにね」
「うわあ、エリートの道を捨てたんですか!?ああ、もったいない!」
「楓、うるさい」
「はい、すみません」
 先輩が急に立ち上がる。
「犯人が分かりましたよ」