VOCALOID学園 第13話「お別れ(前編)」
今日は卒業式。終わったら、生徒会メンバーとお別れ会をすることになっている。
「思えば私、クラスメイトに何にも誘われてないわね・・・」
生徒会に誰も参加したがらなかったのは、私を皆が高嶺の花として尊敬しすぎたということからというのもだいたい分かっている。色紙書きも誘われなかった。
「始まるまで寮の自室にいてもいいということだし・・・。しばらくいようかしら」
私は、大切な親友と同室だった。亡くなってからは彼女のスペースはいじらなかった。でも、彼女の両親の頼みで教科書だけ入れ換えている。
ネルが入ってきた。今日は私服のよう。
「こんにちはーいますかーってまだいたんですね」
「ふふふ。始まるまでここにいていいらしいから」
「えー。クラスメイトと別れ惜しまないんですか?」
「いいえ。私はクラスメイトと思われてないから別にいいのよ」
「・・・いじめられてるんですか!?」
「いえ。そんなことはないわ。私が高嶺の花だからよ」
「ふぇーすごいですね」
「ええ、まあ・・・ね」
『もうすぐ始まりますので、卒業生の皆様は体育館前に集まってください』
新人のタカハシという人が放送しているらしい。
「さて、行かなくちゃ」
「遊びに来てくださいね!」
「ええ、もちろん」
3月中はここにいてもよいが、なるべく早く出ていってほしいとのこと。私はすぐ出ていく気でいる。
「Aはこっち」
誰かに手をひかれる。きっと、クラスメイト。
「あらがくぽ大先輩」
「せ、拙者しにものぐるいでAに来たでござる」
「そうなんですね。あら。もう入場」
私は、あまり興味がない。色々思い出しながら卒業式をしよう。
私が夏子に会ったのはここの幼稚園の時。私は両親を失ったばかりで、悲しみのあまり無口な子になっていた。そんな私に話しかけてくれたのが夏子。
『一緒に遊ぼう?』
最初、無視しようと思ったけれども私は誘いにのった。あまりに楽しくて、義理の両親と会話が弾むようになった。
『さいきん、ルカはよく話すわねえ』
『そうかな』
夏子とは親友になり、よく一緒だった。しかし、夏子は中学生になる前の春休み中に亡くなった。
『危ない!』
とっさに私をつきとばし、夏子は信号無視の車にひかれた。
私は夏子の両親に謝った。
『いいのよ。あの子と仲良くしてくれてありがとう』
それだけだった。しかも、お願いをされた。
『ねえ、あの子の教科書、毎年入れ替えてくれない?』
『え、あ、はい』
そして、今に至る。
「篠山夏子さん」
今日も、あえて呼んで欲しいと夏子の両親は言っていた。
「夏子はきっと、天国で喜んでいます」
夏子の母親が立ち上がり、そう言って座った。
しばらくして私の番が来た。
「巡音ルカさん」
「はい」
Aは私で終了。Bの生徒が次々と呼ばれる。
問題のCだ。
「神威がくぽさん」
「はい」
親たちからざわめきが起きる。それはそうだ。親の中には、彼と同年齢の人もいるのだから。
「彼は、16歳の時に入学しましたが、32歳の今まで、16年間在学していました。どうかご理解いただけますようお願いいたします」
「拙者が怠けていたのが悪いのでござる」
さらにざわめく。便乗してか、B組の生徒がおしゃべりをしだす。
理事長は気にせず、続けた。
「今日の卒業式、あなたのせいでうるさかったのよ」
「す、すまぬでござる」
「はあ。別に怒ってはないけれど、あんたが卒業しないのが悪いからね!」
「ま、まあめーちゃん落ち着いて」
「クスクス」
相変わらずだなあ、と思いながらも私はそっと旧校舎に向かった。
旧校舎で自殺した少女。彼女はなんと奇遇なことに、夏子の祖母の双子の姉らしい。
「こんにちは、ハルさん」
《まあ、また来てくれたんですね》
「ええ。今日で最後ですが・・・」
《そんな!・・・そうですよね、卒業しますもの。普通は》
「・・・ハルさん。あなたはそういえばなぜ自殺したの?」
《・・・68年も昔かあ。私が自殺したのって》
「そんな時に、何故?」
《少しだけ、私の昔話聞いてくれる?》
「え、ええ」
~ハルの昔話~
私は86年前、双子の妹のアキと一緒に生まれた。お兄ちゃんが2人、お姉ちゃんが3人と決して裕福ではないけれど、幸せだった。
ここの高校に入学することになった。当時は、まだとても小さい学校だった。私はアキと一緒に学校に通った。
「アキ、好きな人できたん?」
「うん、まあね」
後で知ったのだけれども、アキと私は好きな人がかぶってしまった。先に告白したのは私。なのに、あとで告白したアキを彼は選んだの。
「アキ、どうなの?」
「うん、すっごく楽しいよ!」
「・・・」
私は次々にアキに裏切られていった。アキによからぬ噂を流され、耐え切れなくなった私は、恨み言をたくさん書いた遺書を残して、あえて皆が見ている休み時間に3年E組の教室から飛び降りた。
アキは今も、私のことなんか・・・。
「それは・・・つらいわね」
《幽霊になって、度々ここの授業に参加したの。そしたらアキ、体調崩しちゃって。でも、その彼と結婚して、娘の冬美まで生んでるし。その子はその子で子供いるし》
「つらかったのね・・・」
すると、教室の扉が開いた。
「なにしているの?ルカさんも撮影に参加してよ」
「撮影・・・?」
「え、嘘、聞いてないの?ほら行こうよ」
「え、ええ」
私が出て行くと、彼女はにっこり笑った。
《よかったね。私より幸せで》
わけがわからないまま私は撮影にのぞんだ。
「たまにはルカさんもポニテにしたら?」
「え?ポニテ?」
「そう!ほら、してあげるよ」
A組の女子で撮影するらしい。一応私のこと、覚えていたのね。
「わあ、さすがルカさん!なんでも似合うよ」
「そうかしら」
すると、私の横に誰か座った気がした。
「夏子・・・?」
その横顔は、高等部の制服を着た夏子そのものだった。
「ほら、撮るよ!前向いて」
「ええ」
撮り終わると、女子たちがびっくりしていた。
「ルカさんの隣に幽霊が!」
「ひいぃ」
私もその写真を見てみた。
「あら、この子は夏子よ。亡くなった私の親友の」
「え、この子が?理事長先生が呼んでたけど、だれかなって思ってた」
「あら、そう・・・」
私たちの学年は外部入学者(志願高校落ちた人)をかき集めたようなもの。なぜかというと、新しく高校ができ、そちらの方が魅力的だ!、と思ったのか大半がいなくなってしまったから。
《私、卒業できて幸せだよ。ずっとね、私も授業に参加してたんだよ。テストも受けていたんだよ》
「えっ!?」
私を含む女子が振り向く。笑顔の夏子(幽霊だから透けているけど)が浮いていた。
《私、それだけですごく幸せ。亡くなったおばあちゃんの妹にも少し教えてたの》
教室が、いつの間にか静まり返る。
《私、やっと天国に行けるよ。ありがとう》
「夏子・・・」
私は泣いてしまった。ずっとそばにいたのに、気づけなくてごめんね、夏子。
拙者は、なぜかテイ殿に呼び出しをくらってしまった。それも、拙者が剣道の素ぶりをしていたら、包丁が矢文替わりに飛んできたのでござる。
「なんのようでござるか?」
「あんたにひとつ頼みがあるの」
「は?」
「生徒会でルカさんのお別れ会、もといメジャーデビューを祝うらしいの。私やテトさん、CULさん、ルコさんももちろん呼ばれているんだけど。そこであなたに何かしてほしいと思って」
「?」
「ルカさんは、心残りがあるみたいなの。旧校舎に」
「は!?あんなところ嫌でござるよ!」
「女の子のボディガードぐらいしてよね!」
また包丁が飛んでくる。おそるべし。
「というわけで行きましょう?大先輩♥」
女子は、怖いでござる・・・。
旧校舎には自殺した少女の怨念から退学した女生徒がいると噂が立っている。
「あの~誰かいるんですか?」
《誰?》
「うわっ!何か、夏子さんの雰囲気にそっくり・・・」
《夏子?ああ、私の双子の妹のアキの孫のこと?》
「あ、そうなんですか・・・。あの、私健音テイって言います。ルカさんの同級生です」
《・・・そう。ねえ、私アキに会いたいの。連れてきてくれない?》
「ルカさんに聞いてみます!」
ああ、どうなる・・・。