神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCALOID学園 第8話「悩める留年男」

 無事、マユの件も落ち着き学園祭準備が始まった。私はクラスでやりたいことがあった。
「名付けて!女装メイド喫茶よ!」
「せ、先生!それって先生が考えることじゃあ・・・」
「はい、決定!ミクさん、家庭科好きならお洋服よろしくね」
「ええっ!?」
「それじゃあ今日の朝のHRはここまで。1~2時間目は音楽だからね」
 教室を出ると、放送が流れ出した。
『中等部カイト先生、高等部メイコ先生理事長がお呼びです』
「ささらちゃん、相変わらず淡々と言うのね」
 職員室へとむかいつつ、私は昔に思いをはせる。

 がくぽはリーダー的存在。私は音楽は得意だけど、カイト、がくぽ、テト以外に友達をつくろうとしない。カイトはドジでバカ。テトはミニスカはいてた。
「それじゃあ文化祭、何する?」
 私みたいに強行で決める先生でなくて優しい先生だった。だから色々案が出た。私はテトたちに適当についていけばいいと思っていたから何も聞いていなかった。
「ちょっと!めーちゃん?聞いてる?」
「え、あ、何?」
「喫茶の店長、めーちゃんに決まったらから」
 女王的存在の女子が子分数人と共に笑う。
「めーちゃんに失礼だろ!」
「聞いてないやつが悪いの」
 結果的に喫茶は失敗、私はそれのせいで同窓会のお知らせがくるたび破ってる。

「理事長、何の用でしょうか」
「メイコ先生、遅い」
「すみません」
神威がくぽのことだ。彼はもうかれこれ16年間高校生をしているではないか。しかも同じところで。そろそろこっちも限界でね」
「そんなっ」
 がくぽが突如成績が落ちたのはあの文化祭の事件以来だと知っている。そう、大好きな女子が大失態をおかしたのだから勉強なんてできるはずない。私は罪償いをするべくがくぽをずっとここにおいていた。
「つまり今年で卒業しないとマズい。そろそろ重音さんのようになるかもしれない」
「え、あ・・・」
「めーちゃん、がくぽを説得しよう」
 理事長はおもむろに紙をとりだした。
「巡音さんが大学生になると、リリィさんはきっと暴走をする。卒業できないバカ共を違法卒業させてしまうかもしれない」
「つまり、がくぽも巻き込まれると・・・?」
「その前に、と思ってね。卒業したとしても大学には行けない。行ってはいけない。きっと彼は適応できないだろうから」
「よくわかりました。失礼します」
 廊下にでると、ため息がもれた。カイトはそんな私の肩にそっと手をおく。
「めーちゃんのせいで卒業できないわけじゃないからね。テトのせいでもあるんだ」
「・・・え?」
「テトはバカだからがくぽにおしえてらもらっていた。先生もそうすれば留年者が出なくてすむからとC組の生徒であるテトとA組の生徒であるがくぽの交流を許したんだ。でもそれがそもそもの間違いで、自分は出来ると過信しすぎたがくぽは勉強をしなくなった。そしていつの間にかテトがAにがくぽがCになっていた。もちろんがくぽの親すごい怒ってたよ。それから剣道に逃げてる」
「・・・私がバシッと言ってくる」
「え」
 私は駆け出した。

 音楽なのに先生が来ないってありえるのかな?私はハクたちと談笑することにした。
「何かあったのかもよ~最近カイト先生の車で学校に来てるし」
「え、あの先生運転できるの?」
「私も信じられない・・・」
「もちろん。最近とったらしいよ。あーあの2人結婚するのかなあ」
「・・・でもネル。がくぽさんのことかもしれないよ」
「えぇ?今更ないでしょ」
「あはは、そうだね」
 その時、ハクと同じく真っ白な髪の少女が現れた。リボンの色からして3年生みたい。
「メイコ先生が3年C組に来たの!1時間目、ここで音楽の授業でしょ?」
「あ、はい」
「誰か来て!C組の生徒はがくぽさんだけなの!」
「ハクが行けば?」
「そうだよ」
 クラスメイトたちが嘲笑う。私とネルは立ち上がった。
「ハク、私たちも行くから」
「がくぽさん気になるし」
「ありがとう!」
 向かう途中で先輩は自己紹介をしだした。
「私は健音テイ。メイコ先生のお友だちのテトさんと一緒に趣味でバンドやってるの」
「うわあ、すごいです!デビュー、するんですか?」
「ん、多分。私が今年高校卒業するから。もうすでに色んなところからスカウトされてるし」
「ふぇ~」
 するとC組からメイコ先生の声が聞こえてきた。

「このバカ男!今年こそ卒業しなさい!!じゃないと絶交よ!!」
「なんで今年なのでござるか?せっしゃ的にはあと数年いたいでござる」
「そんなんじゃ中年になるわよ!」
 パシンッとがくぽの顔を平手打ちする。がくぽが少し飛ぶ。
 そこにテイ、ミク、ハク、ネルが現れた。
「先生!落ち着いてください」
「私たちの授業放置してどうするんですか!」
「そうですよ」
「・・・テイ、あなたが連れてきたの?」
「ああ、はい。私が調度遅れてやってきたところにメイコ先生が鬼みたいな顔をしてC組に入っていくのが見えましたから」
「校長先生がね、がくぽをさっさと卒業させてと言ったの。今はほら、ルカが天才だって騒がれてるでしょ?それに隠れさせてもらっていると私は思うの」
 そして、ネイが突然あーっ!、と叫ぶ。
「リリィ、ルカ生徒会長には少し弱いみたいですよ」
「だから余計に、よ。大学部にルカは一応進むらしいけど・・・なんと言っても広大だから」
「じゃあ、がくぽさんを違法卒業ってのもありますか?」
「ええ。ってテイ!?」
 倒れてるがくぽへテイが包丁を片手に詰め寄る。
「メイコ先生に迷惑かけてるって自覚ないのかな~?ねえ大先輩」
「っ!!」
「知らないよ~?この包丁で血が出ても。きちんと卒業するの?しないの?」
「し、します!」
「よろしい」
 ほとんど脅しに近いことを言い終わると、テイはB組へと走っていった。
「怖かったでござる」
「あんたが悪いのよ」
「せっしゃは悪くないでござる!テトが・・・」
「それは言い訳。元々天才だっていう思い込みがダメにしたのよ」
「え、この人天才なんですか?」
 口を揃えてミクたちが冷たい目で問う。
「私が花の女子高生だったころよ」
「ふうん」
「さて戻りますか」

 5、6時間目は学園祭準備。私はメイドの服作りのため採寸をとっていた。
「目玉はハクよ!もう大胆な服でいいわよ!!」
「先生!嫌です」
「なあにを言う!このでかい胸をいかしなさい!」
「・・・はあ」
 メイコ先生は相変わらずノリノリで協力してくれる。何もしない先生が大半なのに感心する。
「よ、メイコ」
ソニカ、あなたのところはいいの?放置しても」
「ん、マユとリリィだけ心配なんだよねーだから早めに帰らせるよ」
「そう。ね、ソニカ。カイトは?」
「今ごろアイス食べてるよ」
「・・・呆れる」
 年中派手な格好をしているソニカ先生は中等部2年A組の担任。(ちなみに年はまだ29)そう、問題のマユとリリィがいるクラス。
「なるべく女子とレンがくっつかないものにしたよ。そうでもしないとマユが人を殺し始める」
「大変ね、ソニカ
「本当に苦労するわ~」
 ふと、ソニカ先生が私に近づく。
「大変そうね。手伝おうか?」
「え、いいんですか?」
「もちろんよ!16:00までに教室戻ればいいし」
 最終下校は18:00なのにやはりレンくんの身を案じてのことなんだろう。
「そういえば初音さん知ってる?」
「何ですか?」
「メイコ先生が人見知りだったこと」
「え?」
「私がここの大学部1年生の時、メイコ先生は4年生で実習に行かなければならない学年だったの。でも人見知りであがり症だったメイコ先生は同じサークルだった私に頼ってきた。『どうすればいい?』って。私はこう言ったの『弱気になってはいけませんよ。前向きに、明るく!教師にはそれが一番大事です』って。何も知らない後輩の言葉を信じてメイコ先生はああなったのよ」
「そうだったんですか・・・」
 クスリとソニカ先生が笑う。
「弱音さんを見ていると、メイコ先生のかつての姿を思い出しちゃうなあ。いつもああやってビクビクしてたの」
「ハクが・・・」
 想像もできない。無邪気でまるで子供か!?というようなメイコ先生がハクみたいだったなんて・・・。

「怖かったでござるカイト」
「あはは。まさかテイがかたをつけるなんてね。めーちゃんも怖いけど、最近の子をなめちゃいけないね。斧持っている子もいるし」
「ますます卒業したくなったでござる」
「で?誓約書書かされたんでしょ」
「理事長はただ頭がハゲているだけでなく怒るのも怖かったでござる」
「そりゃあそうだよ。そういえば卒業したら何する気?」
「・・・メイコのお婿さんになりたいでござる」
「そっちがその気なら負けないよ!!」
「望むところでござる!!」
 アイスを食べてから教室に戻るというカイトを置いて拙者は教室に戻る。
「なっ・・・」
 そこで見たのはおびただしい血だった。

 ソニカが教室に戻り、レンくんたちを帰らせた後、がくぽが慌てて走ってきた。
「大変でござる!血、血が・・・」
「はあ?何?」
 ソニカもやってくる。
「マユとリリィが寮に戻らないのよ!」
「3-Cに行きましょう」
 廊下から既に血の臭いが酷い。一体何が?
「あ、メイコ先生」
 ゆらりと血だまりの中からテイが起き上がる。血に染まっている。
「どうしたの!?」
「突然殴られて意識が朦朧とする中必死に戦ったんですけど負けました」
「戦った!?」
「ええ。犯人は誰かな・・・」
「あのー警察です」
「あ、どうぞ」
 血だまりからテイがでてこようとするも止められる。
「いや、これはこれは手がこんでますね」
「そういえば3年生は?」
「ほとんど帰ったよ」
「・・・では目撃者はいない、と?」
「はい・・・」
 テイは腕を少し切る程度だったが、血の出方がひどいようなので病院行きとなった。

「これで邪魔者は消えたわ」
「やったね、マユ」
「目撃者がいないのなら私たちは逮捕されない。フフフ♥」
「レンくんに会いに行こうよ」
「そうね♥」
 マユは血のついた斧をきれいに洗い、男子寮へと私と一緒に向かった。
「レンくーん!♡」
「レン君♥」
「うわっ」
「ねえ、まだ時間あるわよね♥」
「一緒に遊ばない?ネ♡」
「・・・」
 誰が何を言おうとも構わない。だって私たちはお嬢様なのだから!
「レン君ってば照れているのね」
「ははは・・・」
「なにして遊ぼうか?」
「それじゃあレンくんの秘蔵写真を今から隠すからリリィたちで見つけて!」
「え?おい、写真って・・・」
「よおいスタート!」
 マユは駆け出していった。
「ねえレン君。頑張って探そうね」
「あ、ああ」
 警察のサイレンがうるさい。まあいいか。
 しばらくしてマユが戻ってきた。
「さ、探していいよ」
「あ、うん」
 一体どこかな?

「うむ。どうやら君の見た白髪の子、金髪の子はリリィやマユのことだろう。君と取り合いになってたからな」
「・・・はい、反省しています」
「でも校長、逮捕できませんよ。物的証拠が0だと警察が・・・」
 病院のロビー。手当てが終わり、慌てて駆けつけた校長と私に挟まれテイはうなだれていた。
「そうなんだよな。このまま裁判になって訴えられるのはテイさんだろう。あっちはお金と権力があるんだからな」
「え?」
「知らないのか?マユの母親は国会議員になったんだ。そして、なんと次の環境大臣の候補らしい」
「はい!?」
 私は驚きのあまり、叫んでしまった。テトを養うためになるべく無駄金は使うまい、と思ったのが裏目に出たようだ。
「・・・いいです。今回は許します。それに、私が今更ひょっこり出てきてもレンくんは振り向いてくれないし・・・」
「大変ねえ。さて、私が彼女を送っていきます」
「頼んだぞ」
 テイは悔しそうに泣いている。勝ち目があるのはマユかリリィ。テイは難しい。
「あ、いけなーい!私、テトの車に乗ってきてないんだ!カイトのに乗ってきてたんだった・・・」
「え!?あのポンコツと付き合っているんですか!?」
「ん、まあ・・・ね。さあ学校に戻るわよ」
「はい」
 学校に戻ると、リリィがにこにこ笑いながらレンくんと一緒に何か探していた。
「何探しているの?」
「レン君の貴重な写真です!マユがどこかに隠したって言うから・・・」
「これのことかしら」
「!?」
 いつの間にかテイが写真を持ってたっている。その写真って・・・。
「テイ、さっさと帰るわよ」
「えーレンくんともっといたいです」
「だーめ!ほら、行くわよ」
 カイトがちょうど車の鍵を持って現れた。
「あ、めーちゃん!がくぽの勉強が終わったから帰ろうかって思っていたんだ」
「あ、そ、その女子、ナイフをしまうでござる!」
「は?もう持ってないって。大丈夫?おっさん」
 おっさんと呼ばれ、落ち込むがくぽ。私は、カイトの腕を持ち車までさっさと歩く。
「がくぽとテイは後部座席ね」
「は?」
「助手席は私専用なの」
「い、いつのまに・・・」
 2人にドン引きされるけれど、私は気にしない。
「なあ、テイ殿。怪我は大丈夫でござるか?」
「全然平気」
 2人はどうやら気が合わないようで、終始テイがツン、と横を向いていた。

 文化祭当日。広すぎるグラウンドで文化祭の開会式が行われた。
「生徒会最後の仕事だし、頑張るわ」
「ルカ先輩、ファイトです!」
 ピコ君たちが応援してくれる。私は卒業したら、やっと孤独じゃなくなるのね。
「あ、あの・・・」
「あら。リンちゃん、どうしたの?」
「手伝ってもいいですか・・・?」
「ええ、構わないわよ」
「ありがとうございます」
 最近礼儀がなってきたリンちゃん。あとは成績だけ。
「文化祭って楽しいね」
「うん!」
 文化祭は大成功と言えるだろう。

「い、いらっしゃいませ」
「うわ、胸が大きくてかわいいぜ」
「写メとろーぜ」
 ハクは男子に囲まれ、ほかの女子の嫉妬を買っていた。そんな女子を慰めるのも私やネルの役目だ。
「ほらみんな、お客さんを整理して。列ができちゃう」
「はーい」
 メイコ先生の姿は、見当たらない。

「大成功ね、ソニカ
「ええ」
 私たちは酒に浸るべく、立ち入り禁止の旧校舎・屋上に来ていた。
「こーんなにいい景色眺められるのにどうして立ち入り禁止なのかしら」
「知らないの?ここ、謎の事件が起きているんだよ」
「うっ!そういうのやめてよ~」
「また今度言うから」
 がくぽの件も無事落ち着いて良かった、良かった。