神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

VOCALOID学園 第7話「恐怖の転入生(下)」

『先日の夕暮れ時の市内にあるとある中学校で殺人未遂事件が起きた。なお、校長の意向で詳細については伏せるものとする。被害者と加害者は1人の女性(15)をめぐって口喧嘩を始め、その女性と友達(15)が遠くから見ている中、口喧嘩は加速した。加害者(14)はかわいらしいリボンのついた斧で被害者(14)を切りつけた。それでもおさまらない加害者は女性とその友達が近くに駆けつけ、止めるまで切り続けた。被害者は腕の骨を折るなど15ヶ所、全治5ヵ月の重傷を負い、現在は意識不明とのこと。加害者は間もなく逮捕され、8月末まで3ヵ月ほど刑務所にいれられる。』
「残酷ねえ。全国のどこを捜しても斧をリボンで飾るなんて考えをもつ子なんて1人しかいないわ」
「うん。確かにそうだね」
「にしても、テト。こんな趣味あったの?」
 大量の新聞のスクラップの中から、謎の転入生・マユが起こした事件のものと思われる記事がでてきた。しかもそれをスクラップしたのはテトだとか。
ニートでもこれぐらいするさ!」
「最近のニートは凄いわね。週末連れていってくれない?」
「どうせカイトも一緒なんだろう?いいよ、私しか車運転できないもの」
「ありがとう!」

 しかしいざあっちとのコンタクトをとろうと思ったら大変で、結局とれないまま向かうことに。
「女学園にとっては汚点だからねこの事件」
「確かにそうね」
「めーちゃん、そういや男の僕でも乗り込み可能?」
「大丈夫よ。理事長補佐は男だから」
「よかった」
 テトの運転ででかすぎる聖マリア女学園に着いた。広い。なんなの、この無駄な広さは!
「君たち、何のようかね」
「私は 学園の高等部音楽教師のメイコです」
「僕は 学園の中等部音楽教師のカイトです」
「え、ええと私は 学園卒業生でバンドやってます」
「うむ、記者じゃないんだね」
「はい」
「よろしい。怪しい行動をとったら追い出すが、とりあえず理事長室へ」
 いれてもらえてほっとする。記者たちがウザイのね。
 テトは部外者のため、車で待つことに。
「こんにちは。私が理事長です」
「理事長、2人呼んできますね」
「ああ」
「私たちは事件を起こしたマユさんを受け入れた学園の教師です」
「ああ、本当にあの学園には助けてもらいました。ありがとうございます。犯罪者はここにはおけないと決められてますから。しかしマユさんのご両親が全く納得しないんですよ。『途中で転校だなんてあの子の将来に傷がつくわ!』と母親はわめいていました」
「つまり、ただ単に将来しか心配してなかった、と」
「まあお金持ちあるあるですよ。これからやってくるりおんさんは例外ですが」
 その時、2人の女子が理事長補佐に連れられてやってきた。
「未来のアイドル、兎眠りおんだよーっ!」
「りおんの友達のミズキです」
 対照的な2人ね。でもミニスカってのは一緒だわ。
「2人とも、事件のことを教えてやってください」
「ーっ!」
「ミズキ、大丈夫だよ。あまりおもいつめないで」
「そうね。あの日、私とりおんはたまたま帰りが同じ時間帯になり、りおんと少し話してから私の家の車で一緒に帰ろうって話してたんです。私たちはりおんの部活の部室で話してたんですけど、向かい側の教室からなにか怒鳴り声が聞こえて、ふと見てみたらマユちゃんとイアちゃんだったんです。りおんが興味津々に見ながら実況を軽い喧嘩だろうって思ってしてたら私の名前が出てきて・・・」
「ま、まあ、びっくりしたのですよ。それで驚きながら見てると・・・血が」
「なるほど」
「あの、マユちゃんは元気ですか?」
「ええ。そういえばリリィって子とある1人の男子を取り合ってるみたいなんだけど・・・」
「嘘!?ミズキ、マユちゃんって生田斗真とかいろんなイケメン見せても興味示さなかったよね?」
「そうよ。変わってるなあと思ったけれど、私もそうだし」
「ええと、その、どうしてなんでしょうかね・・・」
「僕が連れて行った時、彼女は既にレンとリリィの名前を知っていたみたいだよ」
 アイスをずっともぐもぐ食べていたカイトが突如声を出す。・・・え?
「イアなら何か知っているかもしれないわ。ね、ミズキ」
「ええ。今日お見舞いに行こうと思っていたところなの。よければ先生方も」
「あら、いいの?」
「マユちゃんの恐ろしさをすべて知って理解してもらわなければいけませんから」
「あーそうなの?」
 テトは車の中で居眠りしていた。私が起こすと、だるそうにしていた。
「え?病院?いいけど、どこの?」
「聖マリア病院です」
 どうやらあの理事長の家は相当な金持ちらしいわ・・・。

「よ、ハク!どうしたの?」
「ネル・・・。あのね、実はレンくんが相談したいことがあるからって食堂に呼ばれたんだけど」
 この休日にはお金持ちであるリリィやマユは帰宅しており、残ってるのは私やハクぐらいかもしれない。
「遅くなりました」
「レンくん、どうしたの?なにか悩み事でも?」
「はあ、まあそうです。実はリリィとマユのことなんです」
「どうしたの?何かあった?」
「三角関係とか!」
「レンくんなう!と言っていたあの2人の部屋、一緒なんです。確かにリリィはずっと人を避けて一人部屋だったのでよくわかるんですが・・・」
「わお!で?どうなったの?」
「ネル!先輩なんだからもう少し大人しくして」
「はあい」
「今週末はマユもリリィも帰るからってクラスメイトの女子たちが興味津々に2人の部屋に入ったんです。そしたら・・・」
「そしたら?」
 レンくんがはあっ、とため息をつく。
「僕のグッズがたくさんあったみたいなんです。隠し撮り写真が壁中に貼られ、抱き枕もあるし、それに僕がなくした物がほとんど全て置いてあったそうなんです」
「ぬあっ!?」
「レン、ヤンデレの子に好かれちゃったかあ」
 旅行用バッグを持ったリンちゃんが颯爽と現れる。
 ヤンデレ!?大好きな人をものにできるなら一緒に死ぬっていうキチガイ思考のヤンデレ!?
ヤンデレ?リン、それはどういうことなんだ?」
「あたし、この間の体育祭でずっとレンのこと眺めてたゴスロリの子とリリィ見たの。多分、そのゴスロリの子がマユだよ。写真いっぱい撮ってたから」
「リリィって四六時中ついてまわってたよね?レンくん」
「いや。時々いなくなってた」
「・・・!」
 ハクと共に言葉を失う。リリィもお金持ちというか社長令嬢だからマユとの接点はいくらでもある。
「で、リンは何しにきたんだよ」
「決まってるでしょ!?とうとうあたしも寮生だよ」
 ただ単に義理の親が見放しただけじゃ、というレンくんの呟きはリンちゃんの耳にはいらなかった。
「ハク先輩!そのお部屋に行きましょう!」
 ハクが困った顔でこちらを見るので私も行くことに。

「イア、お見舞いにきたよ」
「ミズキ先輩。いつもありがとうございます」
「こっちの人達はマユちゃんを受け入れてくれた学園の先生たち」
「私はメイコよ。こっちはカイト」
 口の中にアイスをいれているバカイトの代わりに紹介をする。
「どうも初めまして。あの子、大変でしょう?」
「ううん。高等部3年にもう1人似た子がいるから平気よ」
「そう・・・よかったです。私、マユに殺されかける前、段々孤独になっていっていました。誰かが嘘の悪い噂を流したのだろうけれど、学園内にはいないようで・・・」
「どういうこと、それ?」
 カイトがアイスを食べ終え、がっくりした顔で棒をゴミ箱に捨てにいく。(またハズレね!)
「カイト、あんたはどう思うのよ」
「リリィが怪しいと思うけど、逮捕は無理だよ。現行犯じゃなきゃね」
「・・・!」
 リリィは社長令嬢。その父親と学園の理事長が仲良し。確かに無理がある。
「そのリリィって子?5月に見かけたけど」
「え!?ミズキ、本当?私も」
「金髪の美人よ。胸はないけど」
「確かに金髪だったわねー」
「そうねー」
 これはマズイ。パソコン関係の会社だから悪利用してるのかも・・・。
「おーいメイコたち早く帰ろうよ」
「テト!?」
 横でテイがむっつりと黙って怒っている。怖いわね。
「ねえ、カイトさん。どうして私のレンくんに2人も余計なやつが付きまとってるの?ねえ、どうして?」
「わわっ」
 テイは包丁を取り出す。ああ、花の女子高生が・・・。
「イアちゃん、大丈夫!?」
 りおんの慌てた声にふとイアを見るとガタガタ震えていた。
「ど、どうしたの?」
「あの時のマ、マユみたいで怖いです・・・持ってるのが違うだけで」
「テイ!いい加減にして!まったく執着心が激しいんだから」
「テトさん・・・ごめんなさい。ここにはレンくんがいないから意味ないね」
「とりあえず、カイト、テト、テイ帰るわよ」
「ああ、うん。りおんさんたちは?」
「私たちは少しイアを慰めてから帰りますので」
 テイがマユに似ている・・・。つまり、執着心が激しい子、ということなのかしら?
「真相は月曜日、ってとこね☆」
「めーちゃんは相変わらずだねえ」
 その言葉につい顔を赤らめる。

 女子寮に男子が足を踏み入れれば厳しい罰がくだされるということで誰も入らない。
「ここかな」
「へえ、リンちゃんよく知ってるね」
「・・・グミと遊ぶときグミだけ寮にいたから寮で遊んでたの」
「あ、そうか」
 いけない。グミ・・・って子はBに行ったんだっけ。
「お邪魔しまーす」
 開けると、そこはレンくん尽くしで壁にある写真には『レンくんだあいすき』とか『レンくん愛してる!』の文字がかかれていた。
「・・・気味悪いね、ハク」
「確かに・・・」
「愛されすぎでしょ。まあ連写機能を使ってレンを撮るぐらいだからねえ」
 レンくんの抱き枕とやらも確かにあった。それも、いくつも。
「このコラージュ画像すごい」
「うわわ・・・」
 双子だから何ともないかもしれないが、年頃の私やハクには上半身裸のレンくん写真はキツかった。
「ねえそこで何してるの」
「っ!?」
 鈍い音と狂った笑い声が、響いた。

 月曜日。高校デビュー?みたいなのを果たした私。多分寝ているであろうネルを起こしにいこうと思っていた。
「あ、レンくん。おはよう!」
「あ、おはようございます。ミク先輩」
「名前、覚えてくれてたのね!?」
「そんなに長いツインテールの先輩なんてすぐに覚えられ」
「レンくん!早く行こうよ!」
 リリィとマユに引っ張られ、レンくんはいなくなった。仕方なく私は1人で女子寮に向かう。
「あの~おばさん、亞北ネルさんを起こしにきたんですけど」
「あらっあなた知らないの?昨日ね、中等部2年の鏡音リンさんと高等部1年の亞北ネルさん、弱音ハクさんが殴られたのよ」
「えっ!?」
「意識は取り戻したけど、すごい頭痛いらしいから今日は休ませてるの。放課後また来なさい」
 私は驚いた。昨日、何してたんだろう?週末なのに家に帰宅せず・・・。
「ミク、おはよう」
「あ、メイコ先生。今日ネルとハクがお休みみたいですよ」
「大方リリィかマユにでも殴られたんでしょう?心配しなくていいから行きましょ。昨日聖マリア学園訪ねたからその報告もあるし」
「はい・・・」
 放課後。授業中上の空で少し怒られた。
「ルカ、ミキにも集まってもらったけどマユについてわかったわ」
「なるほど。報告をお願いします」
 先生は昨日のことを話しだす。正直長い。
「被害者のIさんは未だにマユに恐怖心を抱いているわ。私の友達のバンド仲間でここの高等部の健音テイさんが病室に現れてね。その性格に似てるとIさんは言っていたの」
「・・・執着心が激しくて彼のためなら殺人も平気でする子ですか」
「ひいいっ」
 私は驚いた。ミキ先輩の淡々とした口調から語られるには恐ろしい事実。
「そのう、凶器って斧ですよね?そういう性格だから持っててもおかしくないと」
「ええ。そうよ。メイコ先生、ネルたちを殴ったのもマユなんでしょう?」
「正解」
 どうして殴ったのかと聞こうとしたらルカ先輩が語り出した。
「私の元に昨日、中等部2年A組の女子ほぼ全員がやってきたわ。何事?って聞いたらリリィと一緒の部屋になったマユの荷物も見てみたいって。多分、最初から調子に乗ってる系のお嬢様だから女子の恨みを買ったんでしょうね。で、私が特別に鍵を貸してあげたらわずか10分で戻ってきたのよ。すごい形相して『あの子達の部屋、怖いですよ!』って。そしたらレン君だらけって言うから・・・。それをレン君に伝えた女子たちも悪いけど、たまたま寮に残ってたハクたちに相談したらしくて。しかも運悪いことにリンちゃんまでやってきちゃって・・・それで部屋の外から覗いてたら殴られたみたいね」
「・・・つくづく恐ろしい子だと思います」
「そりゃあそうよね。でも今回は逮捕できなかった。なにせ目撃者はゼロ。3人が倒れているのを発見したのも私なんだから」
「そ、それで様態は?」
「リンちゃん以外は大丈夫よ。りんちゃんは打ち所が悪くて、包帯巻いているわ」
「様子、見てきますね」
 ミキ先輩たちもついてくるといったので私たちは寮の医務室へと向かった。
「ネル~ハク~それにリンちゃん、大丈夫?」
「あ、ミク!もちのろん、だよ!」
「もう大丈夫」
「えへへっ心配かけてごめんなさい」
「よかった。私は用事があるからもうもどるね」
「あ、ミキ先輩・・・」
 私が声をかけようとすると、ネルがニヤニヤ顔になった。
「ピコ先輩と付き合っているんでしたっけ?」
「ええ。最近はなかなか電話に出てくれなくなっちゃって困っているのよ」
「ふうん」
 ピコ先輩とは誰なのかわからないけど、ミキ先輩は幸せそうな感じだった。

「ただいまマユ」
「あ、リリィ!ね、カイト先生がレンくんのプロマイドを白髪の女に渡しているのを見たわ!」
「え?ハク先輩?」
「ううん。ロングの子だったわ。それに、リボンが高等部3年生のものだったわ」
「それははやく片付けないと!」
「うん。ね、レン君ぬいぐるみができたわよ」
 大きなレンくんぬいぐるみはレンくんの等身大ぬいぐるみ。さすがマユ、器用。
「今日もかっこよかったわ。ね、男子寮には入れないかなあ」
「せいぜい覗くことしかできないものね。今日もちょっと微妙な写真しか・・・」
「そうね。フフ♥殺しちゃうとまた捕まるからどうする?」
「目撃者がいなければいいのよ。今度の週末にでもしようよ」
「そうね!まずはその子のこと調べて!」
「ええ!」
 レンくんに近づくものは決して許さない!