神崎美柚のブログ

まあ、日々のことを書きます。

ワガママ・プリンセス 第二話 新しい執事さん

「新しく執事として、王女様のお世話をさせていただきます、ジョウェルです」

 にこりと微笑むイケメン。朝から、紅茶を持ってきてくれたとてもいい人。誰かさんとは違ってね。

「ジョウェルは何歳なの? 」
「……21ぐらいです。自分、拾われたのは大飢饉の真っ只中でして、しかも当時の町の外です。おかげで、年齢は分からないのです」 
「そうなのね」

 ジョウェルは、私が紅茶を飲んでいるときにテキパキと髪をといてくれる。本当に誰かさんとは大違いだわ。

「ねえ、ジョウェル。ガートリについてどう思うの? 」
「彼は昔からあんなですよ。王女様によく似た女の子をいじくるのを生きがいにしていました」
「ふうん。その子、どうなったの? 」
「女の子ですからね、貴族にもらわれました。今頃可愛がってもらってますよ。この間も、楽しそうにお買い物していました」
「へえ、そうなの」

 ヒメアの孤児院は主に、外の未開地の子供たちを育てている。男の子はもらい手が少ない。貴族ぐらいしか引き取らないから、跡継ぎに困らない貴族は華のある女の子を選ぶとかヒメアは言っていたわね。
 彼もガートリもそうなのだろう。見た目からして弱そうだから、貴族の人たちにとっていらないと感じるでしょうね。
 そこに、ヒメアがひょっこりと顔を見せた。

「王女様、本日はご家族での朝食でございますよ」
「ヒメア、分かったわ。ジョウェル、行きましょう」

 にこりと微笑む私の手をとり、ベッドから降りるのを支えてくれる。次に、程良く濡れたタオルで顔を拭いてくれる。

「まあ。ヒメアでもここまではしないのに。すごいわね」
「いえ」

 お食事の場には、お祖父様もいた。まあ、珍しいわ。

「おお、リトア。久しぶりじゃのう」
「お祖父様! 私も、会えてとても嬉しいですわ」
「おお、そうかそうか」

 こんなにも揃うなんて、どうしたのかしら。お母様たちもにこにこ笑っている。

「リトアの婚約が立派に決まったから、来てもらったのよ」
「ジョウェルさんなんだが、いやあ、本当に立派でなあ。ヒメア推薦ということもあるが」
「恐縮でございます」

 私は凍りついた。華やかな舞踏会で私は、王子様を見つける気で準備をしていた。なのに、勝手に私の王子様を決めてしまうなんて。

「私は、自分で王子様を見つけるわ。いくら彼が優れていても執事以上の身分になることは許さないわ」
「王女様……」
「お祖父様、どうしましょうか」
「リトア、ワガママはだめよ」
「うむむ」

 お母様は怒ったけれど、お祖父様は笑顔のまま。

「舞踏会は確かに、王子様を見つける場所じゃのう。まあ、よいじゃろう。平和なのだからな」
「……」

 やったわ。私も、王子様を!

 午後のお茶会。仲良しのグラッサ、メルトリと庭園で優雅に過ごす。

「んまあ、随分と手がこんでますわね」
「ひどいわね」
「でしょう? お母様の策らしいわ。さすが暇人数学者の娘だけあるわね」
「本当、そうよね」
「ウフフ」

 ジョウェルがそこに、新しい紅茶とお菓子を持って現れた。去るときにはきちんと礼をした。

「……私がもらうわ」
「グラッサ!? 」
「ガートリが好みじゃないの!? 」
「でも、中々の顔立ちよ。ああ、すてきだわ」

 ぼんやりとジョウェルが去った方向を見つめるグラッサ。恋多き乙女だわ……。
 グラッサの初恋は6歳の時。当時、王宮に滞在していた詩人さん。彼はかなり年上だったから可愛い小娘さんとしか思ってくれなかったらしい。それ以来、彼に再会するの、と詩の猛勉強をしている。

「グラッサ、頭を冷やしてきなさい」
「そうよ」
「ん、そうするわ」

 お茶会がお開きになるなり、ガートリが現れた。ガートリは少しイライラしている。この私の前で感情を露わにするなんて。

「どうしたの、ガートリ」
「あの気むずかしい王妃様をいじったら怒られました」
「当たり前でしょう? お母様、頭が昔の人なのだから」
「……失礼します」

 お母様には妄想話が通用しない。昔から、お母様のお父さんであるお祖父様に数学のお話をしてもらっており、私みたいに夢見る乙女なんてありえない。
 ジョウェルが私を部屋まで案内する。別れ際に、ジョウェルが聞いてきた。

「王女様、一緒にいた金髪の少女は……」
「メルトリのことかしら? どうしたの? 」
「い、いえ」
「あらあら、気になるのかしら。でもあの子、13歳よ? 」
「……なるほど」

 私はジョウェルからさっ、と離れる。な、何がなるほどなのよ!

「幼い顔立ちの女の子が好きだなんて、最低でしょうか」
「他の子が幻滅するわね。しばらくは黙っていなさい」

ああ、まともと思っていたのに。思っていたのに!




〈新キャラ〉
ジョウェル
 推定21歳。新しい執事。何事も完璧だが、幼い顔立ちの子が好き。
メルトリ=ティグレッサ
 13歳。ティグレッサ大臣の愛娘。性格は大人びているが、顔立ちは幼い。
グラッサ=ホグスーマン
 15歳。ホグスーマン元老院長の愛娘。詩の猛勉強をする恋多き乙女。

ワガママ・プリンセスについて

久しぶりに復活いたしました。スマホWi-Fiにしないとスマホじゃ見れないのですが、気づいたのがこの間です。バカですね、私。
復活して早々、新しい小説ですがシリアスはあまりないファンタジーものです。シリアス以外の練習みたいなものですね。

登場人物
リトア
 15歳の乙女。自分が世界一可愛いと思っている。(父親の親ばかのせい)
ヒメア
 54歳。常に剣を腰にさげている物騒な戦うメイド長。孤児院を運営しており、養子はたくさんいる。
ガートリ
 18歳。ヒメアの養子。ドSで、リトアをいじくるのが生きがい。ヒメアには頭が上がらない。

ワガママ・プリンセス 第一話「ドS執事とお買い物」

 私は朝起きると、枕元のベルでヒメアを呼び出した。──私の名前はリトア。ルナティ王国の可憐で可愛らしい王女様。今日も優雅な朝を……。

「王女様、目覚めの紅茶を持って参りました」
「……な、ガートリ」
「どうされましたか? もっと熱めの紅茶がお好みですか? 」
「私はヒメアを呼んだの! あんたなんかお呼びでないわ」
「あ、手が」

 私の麗しく、端正な顔に紅茶がスプラッシュ。執事のガートリはこんなことを平然とやる正真正銘のドS。タオルで拭こうともしない。

「ガートリ! またあなたですか」
「ヒメア……」

 やっと現れたヒメアはメイド長であり、ガートリの行為を隠蔽する係。ガートリをさっさとクビにすればいいのにクビにしないのはなぜかと聞くと、彼に社会性を身につけてもらうためとヒメアは頭を抱えながら言っていた。
 ヒメアの養子なのになぜこうなった!

「ほら、さっさと拭きなさいガートリ」
「……分かりました」

 逆らえば自分のクビが確定しかねないからと彼は渋々と拭きだした。少々荒いのはまあ許してあげよう。

「もう大分乾いたわ。後は自分で顔を洗うからガートリは下がってちょうだい、今すぐ」
「かしこまりました」

 ガートリがいなくなり、ヒメアは私を立ち上がらせる。あ、用件話さないと。

「……それで私に用とは」
「ねえ、執事を増やしてくれないかしら? ガートリとはあまり会いたくないの」
「まあ、私の経営する孤児院には人材が豊富ですが」
「今度こそ私の美しさを際だたせる立派なのを連れてきて。まあ、立派じゃなかったらお父様たちに譲ればいい話だけれども」
「……かしこまりました」

 ヒメアは年老いており、いつでも引退できるようにと孤児院を運営している。そこでは、身よりがなければいつまでもいて良いことになっているが、条件がある。それは、17を過ぎて引き取り手がなければ王宮でヒメアの養子として働くこと。ガートリもその一人。
 私は顔を洗い終えると、さっさと朝食の場へと向かった。そこにはヒメアと若いメイド数人がいた。また新しいメイドかしら。

「王女様、こちらの5人は本日18歳になる孤児院の──いえ、私の養子です。本日から王女様のお世話を担当してくれます」
「まあ、そうなの。よろしくね」
「はい、働かせてもらえて光栄です」

 私のお世話担当でそれなりメイドと執事がいる。まあ執事はあのガートリ以外は今のところいないが。

「本日のご予定は特にございませんが、どうなさいますか? 」
「そうね……たまには街でお買い物がしたいわ。そろそろ新しいドレスを作りたいし」
「それではガートリに付き添ってもらいましょう」
「え、何で? メイドたちがいいわ」
「女王様と王様のお世話もあります。たまにはガートリと二人きりはいかがでしょうか」
「……仕方ないわ。お父様たちとの約束があるのならガートリと行ってあげる」

 朝食を食べ終えると、ガートリがコートを持って待っていた。さすが執事。ここまでは完璧。

「王女様、どうぞ」
「ちょ、着せなさいよ」
「……」
「不満そうな顔しないでちょうだい」

 仕方なく着せてくれた。本当に仕方なく。困ったわね。
 街はいつもどおり活気に溢れかえっている。これもヒメアの努力によるものなのだとお父様は胸をはって言っていた。一流の剣士だったのだからきっと色んなことをしたのだろう。
 馴染みの宝石店に入る。宝石商は笑顔で出迎え、近づいてくれた。

「まずは宝石が欲しいわ。とびっきりの物を」
「はい、かしこまりました」

 宝石商が取りに行くと、ガートリが笑い出した。何よ、突然。

「宝石ならばたくさん持っておられるのに、さらにご自身の顔を目立たせる気ですか」
「……良い意味で受け取るわ」
「それはご自由にどうぞ」

 人目もあるので、こんなところでいつもみたいにドストレートで言えば問答無用、民衆に殺されかねない。だからこその遠回しな言い方。ある意味かしこい。
 宝石商はいくつか持って現れた。どれも素敵な物だ。

「この赤い宝石、いいわね」
「はい。一点物の一級品でございます」

 ネックレスを首にかけてもらう。ウフフ、すっごくすてきだわ。
 宝石を買い、私は次にドレスを仕立ててもらうことに。宝石にあう、特注品。

「そんなお金の使い方はよろしいのでしょうか」
「……」

 私は最後に町の端の壁に行く。町は徐々に、範囲を広げて発展しているのだ。王女様が生きている間に平和になれば、とヒメアは言っていた。
 壁の一部に建設された塔に私は上る。

「この塔からの外の景色は最高よ」
「すぐ崩してしまうというのに、なぜ……」
「ヒメアが言っていたわ。この町の子ども達に広い世界を見て欲しいって」
「つまり、王女様も子供だと」
「こ、この、バカ執事! 」

 まわりの人達がきょとんとした顔でこちらを見る。

「帰るわよ、ガートリ」
「はい、王女様」

 ガートリは笑いをこらえていた。帰ったらとっちめてやるわ!

これからについて

とりあえず、VOCALOID学園を書き上げたいと思っていますが、なかなか難しいです。ハワイ編はかなり端折る可能性もあります、ごめんない

美しき悪魔は構成だけ考えておきます。

VOCALOID学園 第28話「消えた少女」

 私はいつもどおり目覚める。そして、声をかける。
「おはよう、リリィ」
 でも返事がない。早起きのリリィにしては珍しい。しかも高等部の入学式なのに。
「・・・?」
 起き上がってリリィのベッドを見るものの、誰もいない。お散歩?と思ったが、リリィの机周りがスッキリしている。
「どうしたのかな・・・」
 怖くなって、レンくんのところへさっさと向かった。
「お、マユ。早起きとは珍しいな」
「レンくん・・・」
 レンくんの顔を見て、わっと泣き出す。堪えきれない。
「ど、どうした?」
「リリィが、いないの。消えたの!」
「え?確かあいつ、旅行だったよな?」
「うぅ・・・」
「とにかく落ち着けって」
「おはよーレンってうわ、何やってるの」
 リンちゃんがやってきた。今年から寮生活を許可されて大喜びしていた。
「おはよう、リン。いや俺は泣かしてないからな」
「知ってる。リリィは国外に旅行行ったってよ」
「は?」
「同じ学年の子たちに聞いてまわったの。旅行先で金髪の女の子を見なかった?って」
「どうして訊いてまわったの?」
「だって、原則3日前には寮生全員戻るようにって言われているのよ?帰ってこなきゃあ、あたしは怪しいと思うけど」
「とりあえずさっさと朝食食べて落ち着こう。な?」
「うん」
 レンくんとは春休みから正式に付き合っている。リリィにはメールをしたが、返信がない。
「おー来た来た」
 グミちゃんが軽く髪を結んでいる。いろはちゃんは後ろに一つに結んでいたのを2つにしている。ラピスちゃんはイメチェンをしなかったっぽい。
「まず、ここの寮の監督が何も言わないことから転校したのは確実だねえ」
「そうにゃ」
「え?」
 信じられない。どうして?どうして、転校なんか・・・!
「残念ながら事実だよ。お二人が仲良く出掛けたりしている間リリィは家族と一緒にいたのだよ」
「っ・・・」
 涙がとまらない。レンくんが朝食のパンをとってきてくれたので必死にかじる。味は分からない。
「あーリリィさん?この紙を置いていきましたよ」
 寮の監督の先生はそう言った。
「嫌あああああ!」
 私は泣き叫んだ。

 とうとう上級生である。生徒会長でもあるので入学式で挨拶をするのだ。在校生代表には声が大きくてよくとおるネルが選ばれた。
「うう、上手く言えるかなあ」
「まあ頑張って」
「うん・・・」
 ハクはリンちゃんの目の前で切った髪がやっと元のロングになりつつあったのにまた切った。理由としては変わりたいからだとか。
「メイコ先生、カイト先生とすっかり話しこんでるよ」
「あらあら」
 ミリア先生の件についてはレオンさんたちを逮捕し、ミリア先生を静養させることで落ち着いた。もう先生には戻れないだろう、とまで言っていた。
「ねえミク。ひとついい?」
「ん?」
「ミク、Cに落ちないでね。今までギリギリなんだから」
「うん、そだね。頑張ってみる」
「おーい!ミク、そろそろ行くよ!」
「あ、うん。じゃ、後で」
「うん。この最後の一年間を最高にしようね」
 ハクは少し涙目だった。
 入学式後、5年生になりすっかりお姉さんっぽくなったユキちゃんに遭遇した。
「ユキちゃん、どう?」
「うーん全然です。クラスメイトが増えてキヨテル先生擁護派ももちろんいて。すごく大変なんですよ」
「そっかあ」
「それよりも、ミク先輩。彼氏作ってくださいね」
「そ、それは言わないの!」
「ふふっ」
「ミク」
 楽しくしゃべっていると、深刻そうな顔をした鳥音と杏音がやってきた。
「リリィちゃんが転校したんだって」
「マユちゃんに内緒で、ね」
「それで浮かない顔だったの・・・?」
「見えたの?」
「そりゃあ、だって新入生代表はマユちゃんだよ。近くにいたし。それにリリィちゃんが辞退してたんだよね」 
「・・・」
「その時点で言うのはマズいかなあって考えて」
「ふうん、そうなんだ」
 ユキちゃんは空気を読み、ペコリと頭をさげて去った。
「生徒会メンバーは大抵知ってるよ。推薦したのなんてナオくんとかメルちゃんだし」
「グミたちが聞いたら大変だね・・・」
 携帯が鳴る。ルカ先輩から。
「もしもし」
『もしもし、ミク。今、屋上にいるの。来てくれるかしら?』
「え?」
 なんで、と思いつつ屋上?と首をかしげてしまう。
「屋上なんてあったっけ」

 巡音ルカ。私だって知ってる。模試で満点とった有名人。なのに今は大学に行かず芸能界にいるという。よく分からない人だ。
「ここかな・・・」
 この学園は部外者には甘かった。ルカ先輩の知り合いです、と言うだけで通してくれる。アリス学園じゃありえなさすぎる。
「うわ、お嬢様じゃん」
「アリス学園の奴が・・・」
 男子はニタニタと、女子は羨ましそうに私を見る。
「イアちゃ~ん!」
「ゆかりちゃん来たの?」
「うん♪」
 屋上はどうやら本当にあるようで、校舎の3階からあがる。
「よく来たわね。頼みがあるの」
「頼み、ですか?」
「ええ。マユのことは覚えてるわよね?」
「イアちゃんを傷つけた悪いやつ!」
「ゆかりちゃん、ちょっと黙ってて」
「むう」
 ルカさんは笑ってくれた。優しい。
「彼女に会ってほしいの」
「え?」
 突拍子もないことを言い出すものだ。

 私は部屋にこもる。新しい同居人が来たら殺す、と脅したので誰もこないはず。
「リリィ・・・」
 私にとって友達はイアとリリィだけ。イアを失い、リリィまで失うなんて、嫌。そんなの、嫌。
「イアに会うなんて無理だよね・・・はあ」
 彼氏を自慢したい。でも、事件を機にお父さんもイアとは会えないようにした。
 その時、ノックの音が聞こえた。無視、無視。
「マユちゃん、私よ。巡音ルカ
「え!?」
 慌ててあけると、ルカ先輩と・・・イアちゃんと、怒っているゆかりちゃんがいた。
「ど、どうして・・・」
「久々に話そうよ」
「気がのらないけど、イアちゃんについていく」
「ゆかりちゃんとどういう関係なの?」
 目を丸くする私に2人は照れくさそうにする。
「恋人・・・なの」
「え!?」
 ルカ先輩はフフッと笑い
「それじゃあ、仲良くお話してね。私はそろそろ収録があるから」
 でていった。
「そこ座って」
「ねえ、これ何?」
「ああ、それ?」
 レンくんの抱き枕に目を丸くしているイアちゃん。でも、ゆかりちゃんがすぐに鼻息を荒くしながら説明しだした。
「これはね、大好きな人の抱き枕よ!私もイアちゃんの抱き枕持ってるの!」
「え?そ、そうなの?あ、でもマユって・・・」
「私ね、リリィからレンくん紹介されてすごく嬉しかった。ミズキ先輩を忘れさせてくれるぐらいかっこよかったの。レンくんは彼氏なんだよ」
「よかったじゃん」
「えへへ」
 久しぶりに話せて、とても楽しい。

「うまくいきましたか!?」
「ええ。まさか久しぶりに話したいと思って来たらあんなこと頼まれるなんて」
「マユちゃんを元気づけるためです!」
 マユちゃんの親友・イアちゃんの電話番号をなぜかルカ先輩が知っていた。理由としてはCULさんに秘密にしてと言われたので言えないとか。
「まあ、でも継続的な支えは必要よ?イアちゃん達は名門の学園にいるんだから外出許可なんて簡単におりないはずよ。イアちゃんはともかく、ゆかりちゃんは寮に住んでいるらしいから」
「あ、そうですよね」
 この学園と違い、警備はもちろん固く外出許可なんて滅多におりないらしい。
「それにしてもリリィに何かあったの?」
「あ、はい。レンくんと距離を置き始めたと思ったら、消えちゃって・・・」
「ふうん。つまり、逃げたのね」
「え?」
「苦しくて、逃げた。マユちゃんとレンくんが付き合い始めて苦しくなって。テイのようにきっぱり言えなかったのね」
「ああ・・・」
 私は恋愛経験などないためよくわかんない。
「支えてあげなさいね。次はいつ来れるかわからないわ。じゃあね」
 ルカ先輩みたいになれるのか不安になった。

VOCAOID学園 第26話「さよならのバレンタイン」

 もう、最後にしよう。私はそう決めてマユとは別に一人でチョコを作る。
「レンくん、喜ぶかな・・・」
 少しさびしい。

 今年も朝からデル先輩へチョコ渡しが凄いのでネルたちの部屋にいた。
「私たちは友チョコ交換だけだねえ」
「うん、でもリンちゃんとか中等部の子もくれるよ」
「多ければいいってもんでもないのよ」
 ネルはとにかく本命チョコが欲しいらしい。
「ユキちゃんに昨日、チョコ作り手伝ってって言われたよ。リュウトくんに渡すみたい」
「いいなあ」
 もうすぐ5年生になるユキちゃん。最近は髪をのばしたりとリュウトくんにアピールをしている。
「そろそろ行こう」
「うん」
 ロビーでため息をつく人を見かけた。リリィだ。
「あ、珍しい!どしたの?」
「・・・別に」
 視線の先にはレンくんとマユ。チョコをもらい、デレデレするレンくんはどう見てもマユの彼氏。
「でも、笑顔で渡さなくちゃね」
 リリィは作り笑顔で走っていった。
「ミキちゃん、今年のはブランデーを少しいれたの?」
「うん、そうだよ。ピコくん、美味しい?」
「うん!ミキちゃん、お返し!あーん」
「あーん。・・・うわ、ピコくんの作ったクッキーも美味しい!」
「えへへ」
 仲睦まじく歩くのはピコ先輩とミキ先輩。大学の試験も終わっているため、なんとなくほのぼのしている。
「・・・」
 でも二人を見るリリィの目が冷たかった。

リュウトくん!はい、これ」
「わ、凄い」
 今年も喜んでくれた!うれしい!
「今年はねえ、少し工夫したんだ♪」
「ありがとう」
 ああ、素敵・・・!
「何してるんですか?」
「キヨセン、一応義理あげる」
「ええええ!?そ、そこまで露骨に嫌わなくても・・・しかもこれなんか失敗作のような」
「ぎゃあぎゃあ言うなら食べなくていいっ!」
「ああ、すみません!」
 キヨテル先生さえいなければ最高なのに。

「会長さ~ん!」
「わわっ」
 後ろからメルちゃんが来る。傍らにはダンくんやナオくんも。
「はい、これっ!」
「わあっ!ありがとう!」
「それと副会長さんにも!」
「ありがとう」
 私たちがきゃあきゃあ騒いでると、リンちゃんたちが来た。
「マユが相談したいことがあるって」
「え?」
 外は寒いから、と生徒会室に向かう。
「リリィが最近、よく休むんです」
「え?」
 着くなりそう言われた。マユちゃんの顔は悲しげだった。
「リリィが最近まとわりついてこないのにも俺、素直に喜べないし。チョコはいつもどおり美味しかったけど」
「結構深刻だね・・・」
 リリィは知っている。マユちゃんとレンくんが既に恋人に近いことを。でもテイ先輩のように潔く身を引けない・・・というところだろう。
「マユちゃん、それはね、2人が接近しているのに嫉妬しといるからだよ」
「ええ!?嘘、いや、そんな・・・」
「確かに」
「うんうん」
「っ~!」
 2人で顔を真っ赤にする。
 ダンくんは興味なさそうにしているし、ナオくんはぼうっとしている。それ以外のメンバーは真剣。
「私よく分かんないや、ごめん」
「メル~!リタイア早いっ!」
「ま、まあつまりまとめるとリリィは2人が恋人っぽくなるのを見てるだけが嫌なんだろうにゃ」
「そこで私、グミと」
「ラピスが」
「勝手に部屋を検査したり」
「吉田くんを問い詰めたり」
「しちゃいました☆」
「いやいや、いけないよそれは」
 ラピスとグミが紙をバッグから取り出す。
「ええと、まずは部屋の検査。レンくんの写真がリリィの机周りからは発見されなかった。ついでに言うとリリィは荷物がほとんどない」
「そういえば私に色々くれたよ?この間の休みなんて久々に一緒にリリィの家で遊んだもの」
「むむっ、それはあきらかに変だね~。で、吉田くんを問い詰めたら『リリィお嬢様はハワイでかなりショックを受けてます。クリスマスの時も泣きながら帰ってきました』って」
「ハワイ・・・」
「クリスマス・・・」
 2人を見ると、顔が青くなっていた。
「表ではストーカーをやめたけど、今では裏で続けているみたいだにゃあ」
「怖いね」
 鳥音がそう言うと、静まりかえった。
「ああ、やっぱりここは朝から暖房がついてるよ、ミキちゃん」
「本当だね、ピコくん」
 空気が読めないリア充がやってきた。
「あんたら何しに来たんだよ」
「え?何って寒いからさ暖まりに来たんだよ。ねえ、ミキちゃん」
「うん、ピコくん。あっ、噂の2人!」
「え?」
 ミキ先輩のその言葉に皆頭が『?』になる。
「最近、有名なんだよ?マユちゃんとレンくんが付き合ってるというう・わ・さ!」
「えええええ!?」
 リンちゃんが一番大きい声を出す。噂レベルに発展とは・・・。
「それでね、レンくんがもう一人アタックしてきた子をキツくフッたという噂もあるんだよ?」
「・・・リリィだ」
 リリィが間接的に流した噂。2人の幸せを妬み、やったのだろうけど悪い癖は相変わらずだなあ。
「あ、そろそろ教室に行こうよミキちゃん。そろそろ鍵も開くだろうし」
「そうだね、ピコくん」
 3年生はこの時期、自由登校となっており、登校したい時だけ登校するようになっている。そのため、A以外はほとんど登校しない。中には思い出作りのため一回も登校しないのもいる。
「Aクラスだから週に2回登校してるんだって聞くよ」
「へえ」
 先程の噂。リリィが直接流したのではないにしろ、どうやって・・・?
「そういや正門の近くにある大学の側に自由掲示板があるのを見て、私安心したのを覚えてるよ。楽しそうだなあ、って」
「かっ、鳥音本当!?」
「うん。マユちゃんも覚えてる?」
「いいえ。私は校舎前までリムジンだから覚えてませんわ」
「あ、そう」
「にしても、確かめに行かなくちゃね!」
 いつの間にか、盛り上がっていた。

 放課後。掲示板の前に集まる生徒会メンバー+α。
「めーちゃん、また変なのがあるよ」
「んもう!誰よ、これ!」
「先生!それ見せてください」
「え?」
 ちゃっかり手を繋いでる2人がどく。すると、掲示板が・・・。
「きゃあっ!」
「何これ!?」
「びっくりよねえ」
 そこにはただ『死ね』や『殺してやる』という使ってはマズイ言葉がひたすら書かれていた。
「早朝なんて掲示板に元々貼ってあった紙全て破かれてここに放置してあったのよ?火つきで」
「怖いですね、女の恨みは」
 そういえばヤンデレだったということを思いだし、寒気がする。
「全部字体が違うけど、誰のか分かるの?」
「多分」
「リリィ」
「です」
「にゃ」
 グミ、ラピス、リン、いろはの順で伝える。メイコ先生は一瞬不思議そうな顔をしていたが、ああ、とうなずいた。
「昨日、ここをミリア先生が担当してたんだけど『リア充なんかはぜればいい・・・中学生ごときが恋愛なんて・・・』って言ってたのよ。まさかと思うけどレンとマユについて?」
「ええ、そうです」
「ミキ先輩が言ってました」
 私たちも続ける。
「ミキ先輩曰く、『レンとマユは付き合っている』という噂らしくて」
「で、でもそれだけではなくて『レンはアタックしてきた子をキツくフッた』とも」
「もちろん嘘なのですが」
「それもリリィが・・・」
「・・・カイト、私はリリィを起こしてくるからリリィについて教えてやって」
「分かったよ、めーちゃん」
「?」
「リリィは最近学校に来てもフラッと消えて・・・。特に音楽の授業や英語の授業は参加しないよ」
「ああ、そういうことですね・・・」
 レンくんといちゃつくマユちゃんを見たくないという思いなのだろうが・・・。既に押さえられなくなっているようだ。
「きゃあああああ!」
「めーちゃん!?」
 カイト先生が瞬時に走り去る。愛の力って怖い。
「私たちも行こう」
 寮に行くと、リリィが部屋で倒れていた。
「リリィ!」
「ああ、多分何も食べてないんじゃない?」
 リリィの顔はやつれていた。
「うう、皆ごめんなさい・・・」
「大丈夫だから今は食事しなさい」

 今回の件はなんとか落ち着いた。でも、リリィは相変わらず学校に姿を見せることが減ってる。
「心配だよね」
「本当にね」
 何気なく掲示板を見に行く。
「え・・・?」
 まだ、終わってなかったのだ。

「え?ミリア先生?そういえばいないわね・・・」
 朝。私が中等部職員室でカイトと話してるといかにも心配している学級委員がやってきた。この時間になって先生たちはそれぞれ担任するクラスに行っている。行ってないのは私たちぐらいかしら。
「ど、どうすれば・・・!」
「ミリア先生の机、調べに行きましょう。カイト、行くわよ」
「えぇ、また?」
 廊下を歩いてると、ささらたちにも出くわしたので一緒に来てもらった。
「今日は荷物すらないわね。電車もバスも使わず車で来てるから・・・?」
 いや、待って。ミリア先生は母親までいなくなってしまった。これからどうしよう、と泣いていた。まさか・・・。
「事は深刻かもしれないわ」
「え?」
「メイコ、こんなのが出てきた」
「・・・」
 私は字からして誰のか察した。
「あーバカレオンか」
「マキ、そういえば結構長い間いるものね」
「と言うより、レオンは私の知り合いだし私も5年勤めているだけ」
「あ、そう」
「え?レ、レオンって誰ですか?」
 私は困惑する学級委員の子にそっと伝える。
「若き頃のミリア先生のストーカーよ」
「え!?」
「元教師なんだけどね、ミリア先生とは年も離れてるから・・・」
「めーちゃん、まさか」
「これは危険よ。私たちは生徒に何かを察せられないよう平常通り過ごしましょう?マキたち、理事長に伝えて」
「手紙も持っていくからね」
 ふう、と一息つき私も教室に行く。
「あら?皆黒板に集まってどうしたの?」
「先生・・・」
 皆がさっとどく。そこには・・・。
「何よ、これ・・・」
『俺より先に幸せになるな。カイトと離れろ レオン』
 ご丁寧に憎き男の名まであった。しかも大きくで雑な字。相変わらずではある。
「レオンって誰ですか?」
「先生の元彼とか!?」
「いやいやカイト先生一筋でしょ」
 私は仕方なく説明する。
「私が中学生の頃、事件を起こしてさっさと教師を辞めさせられたバカな男よ」
「・・・」
「カイトもミリア先生も知っているし、理事長も理事長のお父さんから聞いていると思うわ」
「めーちゃん!大変だよ!」
「分かってるわ。あーあ。どうしてこんなに事件が多いの?」
 私は仕方なく教室を離れた。

「先生が乙女だった頃かあ」
「その時からボインだったのかな」
「ちょ、ネル、失礼って!」
「生徒会メンバーだし、行こうよ」
 理事長室に駆けつけると、既にリン、ラピス、グミ、いろはと生徒会メンバーが集結していた。
「私、違うんですって言ったの聞こえなかったんですね、ごめんなさい・・・」
「い、いいのよ。リリィだって決めつけた私たちが悪いのよ」
「あれは誰の仕業?」
「レオンさんのお兄さんです」
「レオンめ・・・」
 理事長は歯をギリギリさせながら言う。この学園では有名なのかな。
「この誇り高き学園で唯一追放したのがレオンだ。ミリア先生はショックが大きくてな、私が結婚という話題を出しただけで睨みつけてくるほどだった」
「あのっ、直接手を出したのはレオンさんの仲間らしいですよ。私の父に頼んで周辺住民に聞きこみしちゃいました」
 さすがお嬢様。
「ああ、そうか。正門から堂々と入れば近くの駄菓子屋のばあちゃんやお好み焼き屋のおじいさんに見られてる可能性があるからな」
「はい、それでですね。駄菓子屋のばあちゃんが言うには最近変な人が学園周辺をうろついている、とのことでした。お好み焼き屋のじいちゃんによると、車からおりる綺麗な髪の女性をサングラスをかけたいかにも怪しそうな茶髪男が見ていた、と」
 それに皆黙ってしまう。
「ちょっと、ささら。これマズくない?」
「え、どうしたんですか?マキさん」
「手紙、5年前から婚姻届が入っている」
「えぇ?」
「うわ・・・」
 手紙はどうやら順番に並べられているらしいが、どんどん字が荒くなっている。
「ミリア先生・・・」
「はあ、やはり同年代が次々と転任することによって相談したくてもできなかったのか・・・」
「そういえば先生、休んでたときありましたよね?」
「ええ。文化祭の事件のあとお母さんが亡くなったらしくて、鬱で引きこもっていたわ」